未熟な欠片たち

pino

文字の大きさ
16 / 52
1章

和解

しおりを挟む


 弘樹と分かれたのは15時過ぎだった。そのあとは真っ直ぐ帰って部屋で過ごしていた。
 律からメッセージ来ててそれに返信したり、何となく親友との仲直りの仕方なんて調べたりしていた。
 夕方になった頃、そろそろバイト終わったかなと思い澪に電話を掛けてみる事にした。


「…………」


 何コールか鳴らしてるけど、出ない。やっぱり怒ってんだな。切ろうと思って画面を覗いた時、応答があって再びスマホを耳元に戻す。


『……はい』


 とても低い声。でもそれは確かに澪の声だった。


「あ、もしもし?今平気か?」

『うん平気』

「あのさ、えっと……もう一度話したくて。時間取れる日ある?」

『……俺も夏樹と話したいと思ってたよ。今からなら大丈夫だけど』

「まじで?バイトは?」

『終わって家にいるよ。今から来る?』

「行く!あ、弘樹もいいか?」

『出来れば二人で話したい』

「そっか、分かった。じゃあ今からそっち行くな!」


 まさか今日になるとは思わなくて驚いたが、善は急げだ。二人でって事だったので、弘樹には一応メッセージで「澪と今から話し合ってくる。二人がいいって言うから俺だけで行ってくる」とだけメッセージを送っておいた。あと、律にも同じ文を送っておいた。
 そして俺はスマホだけ持って家を飛び出して、目と鼻の先にある澪ん家に行く。インターフォンを鳴らすと澪の母さんが出て来た。


「あら、夏樹ちゃん!いらっしゃい。澪なら上にいるわよ」

「こんばんは。お邪魔します!」


 澪の母さんは小柄でふんわりボブの可愛い雰囲気の人だ。澪は母親似だって一目で分かるぐらい似てる。挨拶もそこそこに、階段を駆け上がって澪の部屋の前まで行って深呼吸。


「澪ー、入るぞー」

「はーい」


 ドアの向こうから聞こえてきた声は電話の声色とは違っていつもの澪に聞こえた。中に入ると、ベッドに座って大きなウサギの抱き枕をギュッと抱き抱えてる澪がいた。表情はウサギに隠れててあまり良く見えなかった。


「……」

「……」


 やべ、何か言った方がいいよな?お互い黙って向かい合ってると、澪が立ち上がってウサギから顔を上げた。


「澪……」


 やっと見えた澪の顔はどこか懐かしい子供の頃に見た事のある、何かを我慢しているような困ったような照れたような今にも泣き出しそうな顔だった。
 つい癖で俺が近寄って頭を撫でようとすると、腕をまっすぐに俺に向けて手で来ないでとやられた。


「夏樹……」

「?」

「えっと……あの……」

「澪?」


 何かを言おうとしているのは分かるが、何を言おうとしているのか分からずただ待つしか出来なかった。
 しばらくして、パッと俺を見た。


「夏樹!ごめんなさい!」

「!」


 これには驚いて、何も言葉が出なかった。それは俺が言いに来たセリフでもあるからだ。まさか澪から謝って来るなんて思ってもいなかった。


「ずっと、ずっと変な態度とってごめんねっこの前もせっかく来てくれたのに、あんな事言って、ごめんねぇっ」


 とうとう泣き出してしまった。え、澪が泣いてるのなんて幼稚園以来なんだけど。とにかく、澪は心から悪いと思って謝ってくれてるんだと分かった。
 俺はそんな澪に近付いて頭を撫でるのと同時に軽く抱きしめた。


「ううん。俺の方こそごめん。澪の事を誰よりも知っていたつもりだけど、全然そんな事なかった。本当にごめん」

「うわぁぁん!夏樹だぁ!」

「やめろよっ俺まで泣いちゃうだろ!」


 つられ泣きにだけは気をつけながら泣きじゃくる澪をなだめる。想像していなかった展開に少し驚きつつもとりあえずホッとした。
 ベッドに隣同士で座って、澪が落ち着くのを待った。


「澪、今日はちゃんと話し合おうと思って来たんだ」

「うん。俺も、夏樹と話したいと思ってた」

「まずさ、澪が俺に対して怒ってたのって、り……和久井の事だよな?」

「……うん」

「それは俺が和久井の事を好きになったと思ったから?」

「ううん。律くんが夏樹の事を好きだから……やきもち」

「え、和久井が言ったのか?」

「そうじゃないよ。律くんが夏樹を好きな事ぐらい見てれば分かるよ。それで、悔しくなっちゃって、夏樹に八つ当たりしちゃったの。ごめんなさい」

「そうだったのか。あ、実はさ、その……俺、律と付き合う事になったんだ」

「え!」


 ヤバい。また喧嘩になるか?怒り出すんじゃないかと覚悟して伝えると、比較的明るい笑顔の澪だった。


「いつ!?本当に?」

「金曜日の放課後。本当だよ。澪にはちゃんと俺から伝えたかったんだ」

「言ってくれてありがとう!うわぁ、おめでとう夏樹ぃ!」

「わぁっ」


 いきなりピョンっと抱き付かれたから受け止めきれずに、そのまま二人でベッドに倒れてしまった。
 前だったらこんな事をされたら、やめろとか軽くあしらってたけど、何だか澪らしくて嬉しかった。


「澪、怒ってないのか?」

「うん全然!実はね、金曜日にヒロくんに説教されたの」

「説教?」


 そんなの言ってなかったぞ?ただ澪が怒ってたとだけしか聞いてないから気になった。


「初めは俺の愚痴を聞いてもらおうと呼び出したんだよ。そしたら普通に澪が悪いって説教が始まっちゃってさ~。自分でも分かってた事だからヒロくんに言われて反省したよ。もうね、律くんの事は吹っ切れたよ。もし夏樹も律くんの事が好きなら応援しようと思ってたの」

「まじで?てっきりずっと怒ってるのかと思ったし。はぁ、俺のモヤモヤ返して」

「夏樹も俺と仲直りしたいって思っててくれたの?嬉しいなぁ。やっぱり夏樹が居ないとつまらないよぉ」

「俺も。澪と喧嘩とかした事ないからどうしようって感じでさ。俺の応援してくれようとしてたのも嬉しい。ありがとうな」

「ふふ、だって夏樹って恋した事ないじゃん?だからやっと恋するんだーって思ったら応援したくなっちゃった」


 相変わらずな女子っぷりに安心する俺。また言い合いになるのを覚悟していたけど、無事に仲直りする事が出来て本当に良かった。後で二人に連絡しなきゃ。
 そこへコンコンと扉をノックする音がして、澪の母親が顔を覗かせた。ベッドで抱き合いながら横になる俺たちを見てクスクス笑っていた。
 

「あらあら♪夏樹ちゃん、夕飯食べて行く?今日は肉じゃがなの」

「夏樹!食べて行ってよ!もっと話したい事あるし」

「あー、ご馳走になりたいのは山々なんだけど、さっき母さんが夕飯用意してたから一回帰るよ。夕飯食べてお風呂入ったらまた来る」


 ご飯を作る苦労を知ってしまったからドタキャンは出来ない。それに二人にも早く知らせたいしな。
 俺は一度家に帰ってまたここに事にした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

俺の指をちゅぱちゅぱする癖が治っていない幼馴染

海野
BL
 唯(ゆい)には幼いころから治らない癖がある。それは寝ている間無意識に幼馴染である相馬の指をくわえるというものだ。相馬(そうま)はいつしかそんな唯に自分から指を差し出し、興奮するようになってしまうようになり、起きる直前に慌ててトイレに向かい欲を吐き出していた。  ある日、いつもの様に指を唯の唇に当てると、彼は何故か狸寝入りをしていて…?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...