未熟な欠片たち

pino

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1章

憂鬱

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 月曜日の朝はただでさえダルいのに、今日はベッドから出るのが嫌で嫌で仕方なかった。
 理由は二つある。
 一つは弘樹。どうやら弘樹は俺の事が好きらしい。だからそれを知ってしまった以上どんな顔して会えばいいのか不安だから。

 もう一つは律。昨日の夜、澪ん家から帰って来たあと、律と電話で澪との出来事を話したんだけど、弘樹に対してどうしたらいいか聞いたら「ハッキリ断ればいい」と凄く冷たい声で言われてしまった。
 元々律が弘樹の事を良く思ってないのは知ってたけど、そんなに酷いこと言わなくてもって思っちゃったんだ。


「はぁ、澪が来ちゃうな」


 いつまでもこうしてられないから、のそのそとベッドから出て支度を始める。こういう時澪が同じクラスだったら良かったのにと思う。
 
 澪とバスに乗り学校へ向かう。俺の憂鬱が伝わったのか、澪が俺を覗き込んで来た。


「夏樹ぃ?大丈夫ぅ?」

「うーん、たぶん」

「休み時間は極力行ってあげるから頑張ってよ」


 澪の励ましも響いて来なかった。とにかく普通にする事。でも律は断れって言うし……
 いろいろ考えていたら、降りるバス停に着いた事に気付かなかったので澪に引っ張られた。
 

「あれ、律くんだ」

「へ?」


 澪の言葉に目が覚めた。バスを降りると本当に律が立ってこちらを見て手を振りながら近付いて来た。


「やっぱりイケメンだなぁ♡」

「おはよう二人とも」


 うっとりする澪に笑顔の律。いつもの律だよな。


「おはよう。こんなところでどうしたんだ?」

「夏樹を待ってたの。澪くん、悪いんだけど二人きりにしてもらえるかな?」

「いいよいいよー!じゃあまたね夏樹」

「ああ……」


 笑顔で立ち去る澪はいつも通りに感じた。問題は律だ。絶対昨日の話だろう。


「歩きながら話そうか」

「おう」

「高城くんの事だけど、夏樹はどうする事にしたの?昨日、俺の提案には微妙な反応だったけど」

「俺はやっぱり、澪も言うようにいつも通りにしてた方がいいと思う。わざわざこっちから言わなくてもいいんじゃないかって」

「夏樹はいつも通りに出来るの?」

「それは……出来る」

「ならいいんじゃない」


 律はいつもの笑顔だけど、何か違う気がした。昨日から少し変だとは思っていたけど、何か元気がないような、怒っているような。聞いても何でもないと言うだろう。


「夏樹、もしも高城くんから直接聞いたらちゃんと断れるの?」

「え?それって……」

「告白されたら断れるの?」

「…………」

「夏樹っ」

「断れるよ。でも俺からわざわざ言う必要はないと思う。もうこの話は終わりだ。これ以上話すなら俺は何も答えない」

「……ごめん」


 さすがにイライラして少し強く言い返してしまった。律は悲しそうに謝ってた。
 何だか友達の事を酷く言われている気がして腹が立ったんだ。いくら律でも言い過ぎじゃないかって。
 誰かと付き合うってこういう事なのか?難し過ぎるだろ。

 学校に着くと、前の席に座る弘樹を避けるように後ろの扉から教室へ入る。今は必要以上に弘樹と接しない方がいい。
 それから休み時間になる毎に澪が顔を出してくれた。それに対して律はあまり機嫌が良くなさそうだった。昼休みに、久しぶりに澪も入れて三人で食べてたら律が突然立ち上がって言った。


「ごめん夏樹、ちょっと出掛けてくるよ。授業までには戻るから」

「おう」


 気にはなったけど、何も聞かずに返事だけしておいた。それを見ていた澪はコソコソと話し始めた。


「さすがに俺が毎時間来てるのから邪魔に思ったのかな?」

「知らね。澪は気にする事ないよ」

「なんかさぁ、夏樹の事大好きなのは分かるけどちょっと厳しすぎない?」

「実はさ、弘樹に俺から断れって言われたんだ。朝何も言われてないのに出来ないって言ったらあんな感じになった」

「ヒロくんの事を徹底的に排除したいんだね」

「排除って、やっぱりそう言う風に感じるよな!だから俺腹が立っちゃって……少し強く言い返したんだ」

「言いなりにばかりなってても良くないもんね。束縛なイケメンかぁ~」

「束縛、なのかな」

「束縛でしょ!強要はしてないみたいだけど、恋人の友達の事をそんな風に言うなんて良くは無いよね」

「付き合わなければ良かったのかな」

「それ、俺に言いますー?」

「だって、付き合わなかったらこうならなかったじゃん」

「ならなかったかもだけど、過ぎたこと気にしても仕方ないでしょ!今はこれからどうするか考えるのが先!」

「どうするって、わかんねぇよ」

「すぐめんどくさがるんだからぁ」

「恋って大変なんだな」


 机に突っ伏して項垂れていると、問題の人物が話し掛けてきた。弘樹だ。きっと律が居ないタイミングを見て来たんだろう。


「夏樹、朝から元気無いようだけど、具合悪いの?」

「あ、ヒロくんだぁ」

「具合は悪くない」

「ヒロくんからも言ってやってよ~、夏樹から元気を取ったら何も残らないぞって」

「それは澪だろ?」

「ヒロくん酷い!」

「え、澪ってば酷いと思ってて俺の事そんな風に言ったの?」

「えへへ」

「でも二人が仲直り出来て良かったよ」

「その節はお騒がせしました」


 普通に会話してるけど、いまだに弘樹の顔を見る事ができなかった。弘樹の事だから勘付きそうだけど。


「夏樹、本当に大丈夫なの?また保健室行く?」

「大丈夫だよ。心配しないで」

「ねぇヒロくんさっき誰かと話してなかった?」

「え、ああ、次の授業の宿題忘れたからノート貸してくれって」


 澪が話を変えたのが分かった。あの澪が気を遣ってくれてる。俺はゆっくり顔を上げて、弘樹を見た。


「やっと顔見れた」


 俺と目が合うと、ニコッと笑って言った。うわぁ、いつもの弘樹だぁ。優しい近所のお兄さんだぁ。


「心配かけてごめん。弘樹、友達出来たの?」

「友達じゃないよ。後ろの席の人」

「そこは友達で良くない?ヒロくんらしいけどぉ」

「田辺か。明るくていいやつだよな」


 弘樹の後ろの席の田辺とは一度だけ話した事がある。体育の時間、たまたま体操着を忘れた日があって見学してたんだけど、その時田辺は手に怪我をしていて同じく見学してたんだ。その時に話をした。この学校には売店があるんだけど、その売店に売ってるメロンパンが美味しいと教えてくれたんだ。
 

「そう言えば夏樹、話してたよね」

「少しだけな。てか澪はそろそろ戻った方がいいんじゃないのか?授業始まるぞ」

「わぁ、もうこんな時間!バイバイ夏樹、また来るね~」


 食べ終わった弁当箱を持ってバタバタと出ていく澪を見送って俺も次の授業の準備をする。それにしても律はまだ戻って来ないな。


「弘樹も戻れよ。先生来るぞ」

「うん。そうするね」


 弘樹も席に戻って行って、ほとんどの生徒が席に付き出すが、律の席は空いたまま。
 はて、律はちゃんと戻ってくるのか……


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