【完結】ギフテッドボーイに照らされる

pino

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1章 漆原千景

7.ストレッチ

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 体育の時間、ストレッチで二人一組になる時に俺は自然と神居を探していた。そうしていると、近くまで来ていた山田が俺を見上げてニコッと笑った。


「漆原くん、どうしたの?」

「あ、いや別に……」


 いつもは俺から山田の所へ行くのに、それが無かったからか変に思ったんだろう。心配そうに聞かれたから誤魔化すように笑い返すと、山田は驚いた顔をした。


「漆原くん……」

「何だ?」


 山田は驚いた後に、顔を赤らめて両手で口元を押さえながら言った。


「漆原くんの笑顔、初めて見たから……凄いかっこいい!」

「!!」


 迂闊だった。神居と過ごす内に無意識で笑うようになってたか。
 山田に指摘されて俺は無理矢理表情を強張らせて見せた。だけど、山田はふふと楽しそうに笑った。


「何がおかしいんだよ」

「漆原くんにもこんな一面があったんだって知れて嬉しくて♪」

「魔が差しただけだ忘れてくれ。とっととストレッチを済ませよう」

「うん」


 俺は山田に馬鹿にされた気持ちになり、恥ずかしくなって来たから山田の手を引いて引き寄せて背中をくっ付けて腕を組み背中を伸ばすストレッチを始めようとした。
 これは俺と山田だと身長差があるから、山田が結構苦しそうにするストレッチだった。


「俺から行くぞ?」

「うん!」


 声を掛けてから、山田の腕をしっかり押さえて俺の背中に山田を乗せる感覚でグググッと前屈みになる。すると、地面から足が離れた山田の辛そうな声が漏れた。


「んっ……」

「大丈夫か?」

「へ、平気!」

「一回下ろすぞ」

「うんっ」


 下ろしてやって離れると、山田は顔を赤くして「ふぅ」と息を漏らした。


「漆原くんは体が大きいから、俺なんて簡単に持ち上げちゃうね」

「山田は小さいからな。次は俺を持ち上げてくれ」

「分かった!」


 再び背中と背中を合わせて腕を組む。
 今までに足が浮いた事はないけど、背中は伸びるから気にしてなかった。

 山田が一生懸命俺を持ち上げようとしてる時に、俺の目の前に突然神居が現れてニッコリ笑い掛けて来た。


「ストーップ!」

「神居?何をしてるんだ?」

「え、神居くん?」


 背中を向けていた山田が慌てて俺から離れて神居に向き直る。
 まさかまたイタズラをしに来たと言うのか?でも今日は一人みたいだな。


「見てて思ったんだけど、千景と山田って体格差があるだろ?それだと片方の負担が大きくなって、逆に体を痛めちゃうから良くないよ」

「それは分かるけど、仕方ないだろ?」

「ごめん、俺が小さいから……」


 山田が自分の体格を気にして小さな声でボソリと言った。俺は特に気にしなかったけど、神居が山田に近付いて「大丈夫♪」と笑顔で言った。


「山田は気にしないでよ♪体格に個人差があるのは仕方のない事だし、これからは俺が変わってあげるから♪」

「……え?変わるって」

「神居、どう言う事だ?」

「俺がいつも一緒にストレッチしてるグループに山田と同じぐらいの体格の子がいるからその子とやるといいよ♪その子には言ってあるから気にしないで♪」

「で、でも……」


 山田は焦ったように何かを言おうとしていた。正直、普段大人しくて引っ込み思案な山田をいきなり賑やかなグループに行かせるのは、ある意味嫌がらせに感じるものもある。
 だけど俺は神居と出来るのならと、山田の背中を押す事を考えていた。


「山田、行けるか?」

「漆原くん……」


 俺の言葉に山田は目を潤ませて小さく頷いた。
 泣いたりしないよな?そしたらイジメになるじゃないか。
 そして山田は俯いて神居がいつも一緒にいるグループの元へ向かって行った。

 元気を失くした山田の小さな背中から視線を外して神居を見ると、ニッコリ笑って俺を見ていた。
 

「ずっと思ってたんだよね~、山田には山田に合った同じ背丈の子と組んだ方が効率がいいんじゃないかって。それに、ずっと同じ人とばかりじゃ仲良くなる機会も少なくなるだろ?」

「それは押し付けなんじゃないか?山田が自分とタイプの違う集団の輪に入れられてストレスに感じないと良いけど」

「…………」


 再び山田を見て様子を見ると、何とか輪に入れたようで、同じ身長の奴とストレッチを始めようとしている姿があった。


「千景は山田と仲良いよね」

「仲が良い訳ではないよ。ただお互い余物同士ってだけだ」

「妬いちゃうな~、せっかく俺が千景と二人になりたくて来たのに、山田の心配をするなんて」

「神居?」


 神居の言葉にハッとして、顔を見ると珍しく眉を寄せて不快そうな顔をしている神居がいた。
 まさか神居がそんな事を言うなんて思ってもいなくて俺は山田の事なんか忘れて、目の前の神居をどうにかしないとと、その事で頭がいっぱいになった。


「神居が来てくれて嬉しいんだ。ただ驚いたから、来てくれてありがとう」

「千景は俺とストレッチするの嬉しい?」

「勿論だ」


 ここで神居はニコッと嬉しそうに笑った。
 良かった、笑ってくれた。

 この後俺と神居はスムーズにストレッチをこなして体育の授業を終えた。
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