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2章 神居琴葉
12.揺さぶられる心
しおりを挟む俺がショックで布団に包まって顔を隠してると、それを千景が剥ぎ取ろうとしていた。
てかさぁ!他に好きな奴いるのに何で俺にキスしたんだよ!何で俺の事大切だとか言ったんだよ!
「なぁ神居、話聞いてって」
「無理……俺もう無理……」
「またちゃんと聞いてくれないのかよ」
「何を聞けって言うんだよ!そんな話聞いたって虚しくなるだけだろ!」
人の気も知らないでと、カッとなって布団から飛び出して千景に文句を言うと、ガッと腕を掴まれ、引っ張られてギューっと抱き締められた。
ま、まだそんな事をーーー!!
「虚しくなるかもだけど、神居には知ってもらいたいんだ。大切だから、キス以上の事をしたいから。だからちゃんと聞いてくれ」
「……何それ、訳分からない」
俺は泣きそうな気持ちをグッと堪えて千景の話を聞く事にした。キレるのはそれからにしよう。
俺の事をセフレにとか言うなら社会的に処刑してやろう。
俺が大人しくしてると、神居は一度チュッとキスをしてから話し始めた。
「俺の好きな奴は今付き合ってる奴がいて、上手くいってるみたいなんだ。途中で別れたり付き合ったりして不安定だったけど、今はとても落ち着いてるみたいで、それからは会う機会が減ったんだ」
「…………」
「今でもまだ好きなんだけど、気持ちを伝える事はしない。このまま上手くいって欲しいと思っている」
「それってさ、その子の代わりって事?」
「違うっ聞いてくれ神居」
「聞いてるだろ!もう千景は俺をどうしたいんだよ!それを教えてくれ!」
「神居……」
じれったい千景に思わず声を荒げて、自分でもこんなに短気だったなんて驚いた。そして悔しくて涙腺が緩む……
俺にはもう無いと思っていた感情が次々と現れて、正直頭がどうにかなりそうだった。
落ち着かなくちゃ、またあの時のような思いをするのなんて御免だ。
俺はいつも通りどんな事があっても笑顔でいなきゃ。
涙を堪えて千景を真っ直ぐに見る。
千景は俺を心配そうに見て、困った様子だった。
俺はニコッと笑顔を作っていつもの声のトーンで明るく振る舞う事にした。
「いきなり大きな声出してごめんな~?驚いただろ?」
「ああ、俺もいきなり変な話してごめん」
「本当だよ!でも千景の話聞けて良かったかも♪今ならまだ友達に戻れるし?なぁ、大丈夫だよな?」
「神居?」
「キスはしちゃったけど、まだ数回だし無かった事に出来るだろ?学校でのは山田に見られちゃったかもだけど、あの性格なら言いふらしたりしないだろ」
「待ってくれ、無かった事にってどう言う事だよ」
「そのままの意味だよ。千景はそこまで頭悪くないから分かるだろ?俺達は興味本意でふざけてした事。青春には付き物だよな♪あー楽しかった♪」
俺はベッドから立ち上がろうと床に足を着けると、隣にいた千景に腕を掴まれた。
全て無かった事にしたいのは本心だ。
でないとこのままじゃいつもの俺に戻れなくなる気がするんだ。
それなら親しくなったばかりの千景と距離を置いた方が自分の為になる。
そう思ったんだ。
なのに、それなのに……
千景に腕を掴まれたのがこんなにも嬉しいなんて……
「神居、友達に戻る前に俺の話を最後まで聞いてくれないか?」
「……何?」
友達には戻る気でいるのか。
俺は伏せた目を千景に向けると、そこには寂しそうな顔をした千景がいた。
思わず心がキュッとなったけど、俺は目をギュッと瞑って見ないフリをした。
「さっきも言った通り、俺には他に好きな人がいる。だけど、今は神居の事が、その人よりも気になるんだ」
「……気になる程度?」
「あ、いや、それは……」
思わずまた本音が出てしまった。
千景は困ったように言葉を詰まらせていて、それに再びショックで心が痛んだ。
なんなんだよ、期待させるような事をしたり言ったり、千景が何を考えてるのか本当に分からないや……
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