38 / 51
4章 神居琴葉
37.さよならの時
しおりを挟む紘夢の家で夕飯をご馳走になって、家に帰ったのは21時過ぎだった。
あれから紘夢は俺の身の周りの事とか調べてくれて、山田以外の事も調べ始めていた。紘夢の中では既に答えは出ていて、その過程を導き出している所なんだろう。
とりあえずまとまったら連絡が来る事になったので、俺はしばらく待つ事にした。
風呂から上がって部屋に戻ると、千景から電話が来ていた。掛け直すとすぐに出た。
「もしもーし♪塾お疲れ~」
『ああ』
「ああって、千景ってばテンション低くない?勉強で分からない事でもあったー?」
『ずっと琴葉の事を考えていて、今日の塾での事は頭に入らなかったな』
「それ嬉しいんだけど♡勉強より俺の事考えてくれてたんだね♡」
それなら塾なんて辞めて俺と過ごす時間を増やせばいいのに。勉強なら俺が教えてあげるのにさ。
それを言っても断られると思うけどね。
『あのさ、琴葉、お前過去にネット犯罪犯してたって本当なのか?』
「は?」
大好きな千景との電話で気分の良かった俺は、一気に現実に引き戻された気持ちになり、血の気が引いて行くのが分かった。
どうして千景がその事を知っていて、俺に聞いて来るんだ?
確かに千景には俺がギフテッドだってのは話したけど、悪い事、クラッカーをやっていた事は話してない。
だとしたらどこで誰に聞いた?
クソ、せっかく上手く行ってたのに!どうしてこうも立て続けに嫌な事が起こるんだよ!
よりによって千景の耳に入っちゃうなんて、他の人達にバレても嫌なのに、千景にバレたら俺はどうしたら……
『えっと、クラッカー?だか何だかをやってたって、本当なのか確かめたかったんだ』
「誰に聞いたの?」
『琴葉?落ち着いてくれ、俺は……』
「誰に聞いたんだって聞いてんだ!」
『……山田にだよ』
山田秀行か。やっぱり山田が俺を恨んで、どこからか入手した俺の過去を流出させてんのか。
学校全体が俺に対しておかしくなったのはクラッカーだったのがバレたからだったみたいだな。
紘夢からの連絡を待つまでもなかったな。山田がどうやって1日やそこらで俺の過去を拡散させたのかは分からないけど、千景からハッキリと山田が犯人だって聞けたし、俺のやる事は決まった。
『おい、琴葉?大丈夫か?』
「千景、山田の言った事は本当だよ。内容は何て聞いたのかは知らないけど、俺はクラッカーだったよ。いろんな会社に多大な損害を与えたし、大金を詰むと言われてそこそこ名の知れてる動画配信者をネットから消した事もあるよ」
『……何でそんな事を?』
「普通に生きる事を決めた俺にとってたまに鈍った脳を活性化させる為の運動。って言えば聞こえはいいけど、やってる事は犯罪だからね、ただの暇つぶしだったのかも知れない」
『…………』
「あはは♪千景にバレちゃったか~!そっか、残念だな~……とても残念だよ……千景の事だけは失いたくなかったな……」
『琴葉?』
俺がポツリと本音を漏らすと、小声だったから聞こえなかったのか、千景の聞き直す声が聞こえて来た。
残念だけど、千景とはここでさよならだ。
学校を変えるかはまだ分からないけど、犯人も分かった事だし、俺は俺のやり方で対抗するつもりだ。相手はあの山田だからな、もし裏で俺と似たような奴を雇っていたとしても、こっちには紘夢もいる。
きっとなんとかなる。大丈夫だ。
だけど、俺がこれからする事を考えたら千景とも縁を切って千景を巻き込まないようにしなくちゃならない。
千景、短い間だったけどありがとう。
『おい琴葉!返事をしてくれ!』
「あ、ごめーん!ちょっとウトウトしてた~。俺そろそろ寝るね?あ、そだ、明日俺遅刻するから先に学校行っててよ。それじゃおやすみ♪」
『待て!琴葉っ!』
俺の様子がおかしいのが悟られたか、ちょっとこれ以上話してるのはマズいから、俺は適当に言って電話を切る。
その後もしばらく千景から電話やメッセージが来てたけど、すぐに鳴り止んだ。
静まり返る部屋の中、俺は大人しくベッドに膝を立てて座り、これからのプランを練る。
まず明日は学校を休むかもな、それか遅刻だ。紘夢と連絡を取って、その後犯人である山田に制裁を加える。
俺を怒らせたらどうなるか思い知らせてやるよ。
久しぶりに脳をフル回転させて俺は不思議とワクワクしていた。
まるでクラッカーだった頃のような気持ちだ。
俺から千景を奪った奴を絶対に許さない。
全部ぶっ壊してやる。
俺は一晩中頭を働かせてこれからのあらすじを考える。心を強く持たないと、挫けそうになるからな。
だけど、どうにも失った千景を思い出して上手く行かない。もう千景の事は考えないようにしなくちゃいけないのに。
千景の事を考えて、想って、会いたくなって、涙が出る……
犯人に対してのワクワクする気持ちとは裏腹に、失った千景を思い出すと辛くて仕方がない。
うう、千景ぇ……会いたいよ……
俺、本当は怖いよ……
千景を想うと俺の心はとても弱くなった。
0
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる