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5章 漆原千景
40.第三者からの見解
しおりを挟む今日の体育でのストレッチのペアは、琴葉がいないから山田と組んだ。
久しぶりの山田とは体格差があってやりにくく感じたけど、うるさい相手じゃないから我慢も出来た。
そして昨日の一件で山田に対しての気持ちも少しだけ変わっていた。
「神居くん、休んじゃったね。大丈夫かな?」
「遅刻って言ってたけど、どうだろうな」
「そうなんだ……あのさ、俺なりに考えた事なんだけどね?」
「?」
山田は俺の体を前に押しながら話し出した。
俺は黙って聞いていた。
「俺があのメッセージを受け取ったのって昨日だったんだけど、神居くんに対してみんなが冷たくなったのって中間テストの結果が貼り出された次の日からじゃない?」
「……言われてみれば」
「いつもは名前が無かった神居くんの名前が1番になって、それでメッセージを送った人の気を引いちゃったんじゃないかな?それまでは神居くんて人に好かれても恨まれるような子じゃないから……あ、本当に俺が考えた事だから全く関係ないかもしれないよ?」
「いや、山田の言う事は案外間違えてないかもしれない」
タイミング的に琴葉が中間テストで本気を出した事もこの学校にとっては大きな出来事だった。
あの日は周りからは驚きと歓喜で琴葉は「何で隠してたんだよ」とか「勉強出来るんだな」とかそう言う感じでいつものようにみんなと話していた。
そしてその次の日の朝になったらみんなの態度が変わった。
まるで腫れ物を見るかのような視線で俺と琴葉を見ていたんだ。
テストの順位発表のあった夜か、次の日の朝にメッセージが拡散されたって事か。
恨み……まさか順位を抜かれた誰かか?
でも、いきなり現れた無名の男に軽々と超えられて腹を立てるような奴がいるのか?
俺は琴葉とは親しくなってたから驚きはしても腹を立てたりなんかしなかった。それに、そんな短時間で琴葉の過去を調べて拡散するなんて出来るのか?
山田の言う通り関係ないかもしれないけど、これは大きな収穫だ。
いつもトップにいる俺は大体の常連の名前なら頭に入っている。
その人本人に興味はないから、クラスやどんな人かまでは知らないけど、そこを当たってみるのも悪くないかな。
「神居くん、学校に来るといいね」
「ああ、きっと来るよ」
山田に励まされて俺は笑顔で答えた。
みんなも噂なんかに踊らされないで山田みたいに考えられたらいいのにな。そしたら琴葉も今頃いつものように笑顔で俺の隣にいたかもしれないのに。
きっとこういうのは同じ目に遭った人間にしか分からないんだろう。
それか自分の事じゃないからって離れた所でネタにして楽しんでる人間。
俺が人間を嫌いになった理由の一つだ。
自分より不幸な人がいて面白い。
人間らしい考えだけど、俺はどうにもそういう奴が嫌いだ。
今では関わりたくもないけど、琴葉の件でそうは言っていられない。
場合によってはあの頃のようになるかもな。でも出来るだけ我慢はするつもりだ。手だけは出さないように。
暴力は全てをぐちゃぐちゃにしてしまう恐ろしいものだから。
琴葉の事を苦しめる犯人を思うといけない感情が込み上げてくるけど、今はまだ抑えられている。
暴力に頼らずに解決しなくちゃ……
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