【完結】ギフテッドボーイに照らされる

pino

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番外編

良いお兄ちゃん ※城之内裕也

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 俺は今タメである一条紘夢に訳あって逆らえず、今日も放課後呼び出されて風呂掃除をやらされていた。
 もう文句を言うのも面倒だからさっさと言う事を聞いて帰ろうと思うようになっていた。

 それにしても今日の紘夢は機嫌があまり良くない。こいつは気分屋で、機嫌が悪いと容赦なく八つ当たりしてくるから面倒だ。


「おい紘夢、風呂掃除終わったぞ」

「ん」


 俺が2階にある紘夢の部屋に報告しに行くと、紘夢はベッドの上でジタバタしていた。
 一人でだ。


「何してんだお前」

「うっさいな~、久しぶりに面白い事が起こると思ってたのにそれが無くなったから拗ねてるのー!」

「ああ、最近連絡取ってた青ジャージか。そりゃ残念だったな」

「はぁ~、琴葉も大分丸くなっちゃったな~、良い事だけど~」


 俺をこき使う紘夢はちと頭の切れる奴で、ヘラヘラしてると思ったら、俺でも思い付かないようなとんでもない悪い事を考えている危ない奴だ。
 
 部屋の中にスマホが鳴る音が響く。
 俺のじゃない。でも紘夢は反応しなかった。


「おい、電話じゃないのかよ?」

「んー、テーブルの上にあるから城之内取って~」


 言われた通り部屋の真ん中にあるテーブルに置いてあったスマホを取る。紘夢は何台か持っていて、今鳴ってるのはいつも使ってるやつだと思う。
 ディスプレイには「吉乃」と表示されていた。
 紘夢といるとたまに出て来る名前の一人で、俺は見た事は無い。
 一番多い名前は「貴ちゃん」だ。そいつは一度会った事があるから知ってるんだけど、紘夢のお気に入りで、俺はそいつの名前を呼ぶ事も許されていない。

 俺がスマホを渡すと、名前を見て出る事なくベッドに放り投げた。


「あ?出ねぇのかよ」

「今はいい。それよりもお前いつまでいるの?帰らないの?」


 ムカッ!
 ちゃんと報告に来たのになんて言われようだ!
 頭に血が上るのを堪えて俺は部屋から出て行こうとする。


「あ、ねぇ城之内~」

「あんだよっ!」

「いつもありがとうな♪」

「っはぁ?いきなりなんだよ?」


 本当にいきなりだった。
 紘夢から命令はされてもお礼を言われる事なんて今までに無かった。
 ベッドにうつ伏せになりながら顔だけこちらを向けてる紘夢は笑っていたけど、どこか寂しそうな顔をしてやがった。


「城之内が来てくれるようになってから何だかんだ楽しいよ」

「……ふんっ礼なんかいいからさっさと解放しやがれってんだ」

「城之内は俺の世話するの嫌?」

「当たり前だろ!お前に弱み握られてっから仕方なく言う事聞いてるだけだ!」

「そっか。城之内がいなくなったらまた一人になっちゃうな~」

「…………」


 上半身を起こして窓の外を見てる紘夢は、このデケェ家に一人で住んでる。もう一人住人がいるけど、そいつは大学生らしくいつも学校や勉強で忙しそうにしていた。
 紘夢の家庭の事情は詳しくは知らねぇけど、多分こいつは普通じゃねぇ環境で育ったんだと思う。
 じゃなきゃこんなに頭ぶっ飛ばねぇだろ。

 そう言う意味では可哀想な奴なのかもな。
 
 俺は何も言わずに紘夢の部屋から出る。
 そしてそのまま玄関じゃなくてキッチンへ向かう。
 たまに飯も作らされるから勝手は分かってる。
 冷蔵庫には卵、牛乳があるな。そんでこの前見つけたホットケーキミックスもある。
 俺は紘夢にホットケーキを作ってやる事にした。

 俺には2個下の妹がいて、共働きで夜遅くまで俺達二人切りだったから、ガキの頃良く作ってやったんだ。俺が作るホットケーキは、書いてある材料を混ぜるだけで出来る筈なのに何故かぺちゃんこになる。
 それでも妹はいつも「おいしい」と言って食ってくれたんだ。

 何でかな、今の紘夢にも作ってやりたくなったんだ。

 完成したホットケーキはやっぱりぺちゃんこで、焦げていた。まぁ食えなくはないだろ。
 ホットケーキを持って紘夢の部屋に入ると、紘夢はベッドの上で仰向けになって布団も掛けずに寝ていた。


「まったく、風邪引くだろーが」


 俺はホットケーキをテーブルに置いてベッドに近付き、寝ている紘夢に布団を掛けてやった。
 ホットケーキはラップして冷凍しておけばいい。俺が来た時にチンして出してやろう。

 俺は今度こそ帰ろうとベッドから離れようとすると、寝てた筈の紘夢に腕を掴まれた。
 やべ、起こしちまったか。


「城之内良い匂いする~」

「そこにホットケーキがあるからだろ。起きたなら食えよ」

「えっ!ホットケーキ作ってくれたの!?」


 ガバッと起き上がる紘夢は目を輝かせていた。
 この坊ちゃんはどうやら庶民の味が好みらしい。
 

「ああ、俺様特製ホットケーキだ♪有り難く食えよ」

「ふふ、城之内って意外と料理上手いんだよな~♪」


 ベッドから飛び出てテーブルに座って俺が作ったホットケーキを見て声を出して笑った。


「あはは!何コレー!どうやったらこんなに不味そうに作れるんだよー!」

「うるせぇ!黙って食え!」

「ハイハイ。いただきまーす♪」


 見た目は俺でもちょっとなって思うよ。
 でも妹は「おいしい」って食ってくれてたんだ。
 だから味は間違いない!

 紘夢は機嫌良さそうにフォークで一口サイズに切り分けて、パクッと口に入れた。
 

「おいしい♡見た目は城之内そのものなのに、何でこんなに優しい味なのー?」

「だろー?元気出たか?」

「もしかして気遣ってくれたのか?城之内なのに?」

「ふん、お前の機嫌が悪いと八つ当たりされるからな!夜中に呼び出されても迷惑だからよ!」

「はは、ありがとう♪」


 また礼なんか言いやがって!
 調子狂うってんだ。

 俺は今度こそ帰ろうと部屋から出る。

 はぁ、紘夢の奴、生意気でムカつく奴だと思ってたのに……
 あんな笑顔ではしゃぎやがって。

 どうして妹と重ねちまうんだろうな。
 俺は紘夢の命令とかの前に、自分の意思で放っておけなくなっていた。

 いつかは紘夢から命令が無くなる日が来る。
 俺はその時解放されて喜んでいるのか、それとも……?

 あー辞め辞め!
 紘夢とは深く関わらない方がいいんだ。

 俺は無理矢理、頭から紘夢の事を振り払って家に帰った。


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