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2章 兄と弟
※ お前のそう言う所虫唾が走るんだよ
しおりを挟む※竜樹side
俺は実の弟である伊織の事が大嫌いだった。
昔から何でもやろうとしては本当にやり遂げて全て物にしてしまうそんな伊織に心底憎悪していた。
俺も周りの奴らよりは優秀な方だと自分でも理解していた。勿論二歳も下である弟よりもだ。
そんな俺をあっさり追い抜いていく伊織は両親からも愛され、友達にも恵まれ、何不自由無くいつも自信に満ち溢れていた。
それとは裏腹に俺の心は逆を行くばかり。
小学五年になる頃には全てにおいて努力する事を辞めていた。
どうせ俺が頑張ってもいつも褒められ、評価されるのは弟の伊織だからな。
次第に付き合う人間も素行の悪い奴らとばかりになり、中学に上がる頃には分類するなら完全に不良となっていた。
伊織は賢い癖に俺に嫌われていると分かっていながらも何度も接触しようとして来た。
俺はそれに対して何も感じずに邪魔な物がそこにあると思って過ごして来た。
「うぜぇ。お前のそう言う所虫唾が走るんだよ。俺はお前が大嫌いだ」
「……だから、何で……」
落胆する伊織を見て心底いい気味だと思った。
俺は自分でも捻くれてるなと思う。
自分よりも出来の良い弟に嫉妬してあからさまに態度に現したりして、本当に性格が悪い。
そう感じ始めたのはつい最近の事だ。
高校に上がってまず新しい世界を知った。
選んだ高校は光陽高校と言って、誰でも入れるような偏差値の高くない高校だ。正直学力には自信があったが、日々の生活態度が悪く、他は受からないと言われてそこを選んだ。
どうでも良かった。将来家を出て自立するつもりだったから学歴は欲しかった。ただそれだけだ。
案の定、光陽高校は中学時代とは違って俺のような腐った奴らがうじゃうじゃいた。
だけど、俺は居心地の良さを感じる事は無かった。多分、俺は周りを見下していた。馴染めない訳じゃないから普通に日々を過ごしていたけど、二年の終わりにふと気付いたんだ。
俺はここにいる奴らとは違うんだって。
第三者から見たら括りは同じだろう。
光陽高校ってだけでそういう目で見られるのは仕方がない。
だけど、俺は違った。もっと上へ行きたい。じゃないと本当にこいつらみたいになっちまう。
それから俺は今までサボって来た勉強に専念した。髪も黒に戻して身なりもちゃんとしてみた。
大学への進学を目指してかなり努力した。
何年振りかの努力だった。
その時は楽しかったのを覚えている。
幸い、全く親しい奴がいなかった訳じゃなくて、そいつも同じ進路を目指すと言い出して一緒に競争するかのように勉強をして過ごした。
俺は桐原家にうんざりしていて、自立出来るまで退屈で苦痛でしかなかったけど、そいつのお陰で思ったよりも気楽に過ごす事が出来たんだ。
その時心の余裕が出来た事によって気付いたのが自分の性格の悪さだ。
何で弟である伊織に冷たくしていたのだろう。
理由は分かっている。だけど、あんな態度を取る必要は無かったんじゃないのか?
そう思うようになって来ていたんだ。
それでも子供の頃からずっとそうして来てしまったせいで、今更素直にもなれず、伊織に対しては態度を変えずにいた。
「兄貴、教えてくれよ。どうしてそんなに俺を嫌うんだ?理由を知りたい」
目の前に突っ立ってる伊織は悲しそうな顔をしていた。
いつも自信満々な顔してる弟のこんな顔を見れる日が来るなんて、あの頃の俺なら満面の笑顔で喜んでいただろう。
でも今は面白くも何とも無い。
ただ俺は伊織の事を無表情で見ているだけだった。
もう伊織の方が出来が良いとかそう言うのはどうでも良かった。
むしろ俺は伊織とちゃんと向き合おうと思って今日家に帰って来たんだ。
じゃないと俺はいつまで経っても自立出来ない気がするから。
「俺はお前の何でもやりたがってあっさりクリアしちまう所が嫌いなんだ。親に媚び売って、俺を見下してる所が大嫌いだ」
「何言ってんだよ?親に媚びなんか売ってねぇし、兄貴の事を見下した事もねぇよ!」
「側から見たらそう見えんだよ。俺達兄弟でいつも評価されるのはお前だった。いーくんは凄い。いーくんは偉いってな」
「兄貴の勘違いだ。俺はただ、何でも出来るのは親が凄い人達だからだって思われるのが嫌で頑張って来ただけだ」
「あ?お前、父さんと母さんの事そんな風に思ってたのか?」
ここで伊織は悔しそうな顔をして真っ直ぐに俺を見て来た。
初めて聞く伊織の本音。
いや、俺が聞く機会を壊していただけだ。
もっと早く伊織と向き合っていたら俺達兄弟はもっと違う仲だったのかもな……
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