頭にきたから異世界潰す

ネルノスキー

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第1章

第2話ーーステータスとギルドーー

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 王城の裏手側には様々な運動器具が並び、土がめくれ上がったように赤茶けた部分がある先にはいくつもの人型をした案山子や円を描いた的が置かれていた。

 普段ならそこにはローテーションを組んで城にいる騎士や魔法士などが日々訓練に精を出す訓練場なのだが、今は十人ほどの騎士と二十人弱の昨日地球から強制転移を果たした生徒がいた。

 あの後ほとんど存在が薄れていた現代社会教師である遠藤 夏菜子先生が暴徒化あるいはデモ隊化しつつあったクラスメイトを何とか鎮めて、生徒たちが戦う事に猛反対したのだが、結局戦う組と戦わない組に別けさせるだけで精一杯だった。

 元々気の弱い人で、押しにも弱かったのが災いしたというのもあるだろうが、それでも昨晩は一人ひとりに個人面談を執り行っていき熱に浮かされていた生徒達を慰めていった。
 その努力も相まって流され易かった生徒の数人は戦う事をやめて考え直す事となった。
それが良いことかどうかは未だ分からないが、葉山弓弦としては功を奏してほしいと願ったのは言うまでもない。

 そして現在。
 ここに集まった転移した全員が集まったのは元の世界に比べて治安が悪すぎるのと何かあった時のために備えてせめて最低限の自衛能力を身につけるためだ。
 総勢二十三名。本来なら三十三名のクラスだったのだが、十人くらいの生徒はどうやら教室を飛び出したことで転移を免れたらしい。
よくもまぁ、あの咄嗟の状況にそんなに逃げられたものだと半ば感心してしまう。

 そんな事を思っていると並んでいた騎士の中から一人、他の騎士団員と明らかに毛色の違うの大男が前へ出てきた。

「俺はこの国の騎士団長を務めるオルグド・バランだ。これから君たち勇者一行の戦闘訓練を行うので是非覚えておいてくれ」

 オルグトと名乗った男は二メートル近い巨漢で腕だけでも子供の胴体はありそうなガチガチのマッチョ。
ただこの世界特有なのか、それとも会ってる人たちが特別なのか、見た目は三十代前半に見える騎士団長様は控えめに言ってもイケメンだ。しかも渋い!
 地球であればハリウッド映画にでも出て一躍有名になりそうなレベルである。

「これから皆にステータスプレートという特殊な金属板を配布する。受け取ったものはそれに血を垂らしていってくれ」

 血を垂らすというワードに若干不満の声が上がったが、これから戦場に行く事になるのにその程度の事で何を言ってるんだと渋々説得されて行く。
 
 俺の所にも騎士団の一人が箱に入った銅と銀の二枚一組になったドックタグみたいな小さなプレートを持ってきて、銀のプレートに血を垂らすように指示を出すと小型のナイフと一緒に渡してきた。
 とりあえず、左の人差し指を軽く切ると薄っすらと血が出てきたので言われた通りに銀プレートに擦る。

 これで何が起こるのかと密かにワクテカしていると、血がプレートに染み込み気がつくと指の出血も止まって何事もなかったように治っていた。
 驚きながらもプレートを見ていると染み込んだ血がまるで文字の様に形を整えてステータスが表記された。



名前:葉山 弓弦・18歳
種族:人間・男
職業:なし

レベル1
体力:10
筋力:15
敏捷:10
耐性:10
魔力:5
魔耐:10

技能:なし
スキル:偽装Lv1隠蔽Lv1
固有スキル:なし

称号
・異世界からの召喚者:言語理解
・魔に魅入られし者:????



 思わず表情がなくなった。そして言葉もなくなった。

一拍おいて。

(はあぁぁぁぁぁあ?!待てっ!待つんだ!)

 葉山弓弦・17歳。本日も昨日に引き続き絶賛大混乱である。

(とりあえず一旦落ち着け、うん。それが良い)

 改めてプレートを見直すが、そこに表記されている事に変わりはなく『orz』のポーズをとってしまう。

 職業ジョブやステータスに関しては特にいうことはない。
何せこの世界での基準や転移者の基準がいくつの物なのかが分からないからだ。
 だから差して気にすることじゃないが問題はスキルと称号だ。

 この世界に来てから普通に話せているからそれ程気にはならなかったが、考えてみると異世界なのだから地球の言語が通用するはずがないのだ。
それなのに普通に司教の話や騎士団長の言葉がわかるのは一重に称号にある『異世界からの召喚者』というのが作用しているとわかる。
 
 それならそれで良いんだが、問題はもう一つの称号だ。
『魔に魅入られし者』効果は不明だが、ネーミングからしてヤバい。
地雷臭漂うとかそんな次元の話ではなく確実にアウトゾーンだ。
 
 仮にセーフだったとしても今は人間と魔王率いる魔族軍との戦争中だ。
こんなあきらかに「自分悪魔?みたいなのに気に入られてるっぽいっすわ~」なんて豪語している様な称号を誰かに見られでもしたら、間違いなく俺の人生そのものが終了し魔女狩り並みの処刑が待ち望んでいること請け合いなし!おめでとう!ありがとうございますっこんちくしょーっ!である。

 それなのに、腹が立つというか何というか……まるで「そうだろ?それは困るだろ?魔女狩りなんて嫌だよな?じゃあコレ使っちゃおうか?w」っとでもいう様にスキルにバッチリ対策用と思しき偽装と隠蔽という隠し事には有能過ぎるスキルが存在していた。

 ちなみにこの二つのスキルの効果だが、自分のステータスにのみ作用するスキルらしく文字通りの効果がある様だ。

偽装スキル:自己のステータスを任意で書き換える事が出来る。効果時間は一時間。
隠蔽スキル:自己のステータスを全体或いは一部を消す事が可能。効果時間は一時間。

 飲み込めない、むしろ吐き出したい気持ちを胸の内に秘め。とりあえず、現実世界から即退場したくないので泣く泣く隠蔽スキルを使って称号を隠す事にした。腕時計で時間も確認しておくのも忘れない!

 いきなりの精神攻撃に何とか気を取直し、改めて周囲を見渡すとそれぞれ自分のステータスやジョブ何かを話し合ったりしている様だ。
 ただ気になった事にジョブに関しては最初から持っている奴もいれば俺の様に空欄になっている奴らもいて、全体の三分の一くらいは持っていない様だった。

「菜倉?」
「ん?どうかしたの、弓弦?」

 気になっていつものように側にいた菜倉を呼ぶとプレートに落としていた視線をあげて呼び声に応える。

「お前職業なんだった?」
「んー、それが忍者みたいなの」
「……はい?」

 こいつは何をいっているんだろう?異世界に来て職業みたら忍者だって……?
とにかく差し出されたステータスを確認する。

「本当だって~、ほら。見てみて」
「ぅあ、マジじゃん……ってかステータス高くね?!」



名前:雲仙 菜倉・17歳
種族:人間・男
職業:忍

レベル1
体力:60
筋力:30
敏捷:70
耐性:50
魔力:50
魔耐:40

技能:短剣術Lv1
スキル:変装術Lv1変声術Lv1隠密Lv1
固有スキル:なし

称号
・異世界からの召喚者



「ちょっ、庄吾!ちょいプレート見せろ!」
「?」

 隠しきれない動揺を含みながら庄吾に詰め寄ると「一体どうしたの?」とでも言うように小首をかしげながらステータスプレートを差し出す。




名前:浜屋 庄吾・17歳
種族:人間・男
職業:錬金術師

レベル1
体力:50
筋力:30
敏捷:30
耐性:50
魔力:70
魔耐:50

技能:なし
スキル:錬金術Lv1錬成術Lv1鑑定Lv1
固有スキル:なし





ーー言葉も出ない……というのはこういう時にこそ使われるべき言葉なのだろう。

 俺は膝から崩れ落ちるように地面に足を着くと再び『orz』のポーズになり、本気で落ち込む。
きっと漫画とかならピッシャァアアアアアッ!と稲妻が入ってからのズーンッ……みたな効果音とエフェクトが入っていたところだろう。

 (この世界の神さんは、どうも俺のことが死ぬほど嫌いなんだろうか……)

 嫌がらせにしか思えない称号に中途半端な救済処置的な二つのスキル。
それだけならまだ良い……いや、決っっっっしてよくはないけど、まだ飲み込もう!
だが、このステータスの差は何?!差があり過ぎだろぉ!

 しかもだ!この二人が特別なだけならまだ分かるぜ?しょうがねぇって諦めるさ。
だがな?だがよ?
 さっきからチラホラ聞こえてくるクラスメイトのステータスを聞いてると平均しても50~70が平均値みたいじゃねぇかよ!
 は?何ですかそれ?俺のステータスで一番高いのは筋力15ですが何か?ってアホかぁ!
何で俺だけ別方向に特別扱いされとるん?!あぁぁぁああああああっっっ!!!

~~~~~ 絶賛☆大・暴・走♪~~~~~~~~

 五分ほど経過してようやく落ち着きを取り戻すが、菜倉も庄吾も突然自身のステータスプレートを見るや一人百面相をし続けた弓弦にドン引きしていたのは言うまでもない。

 ただそのお陰もあってか、ちょっとだけ落ち着きを取り戻すと一先ず偽装スキルを使って自分のステータスを適当に周りと合わせた辺り触りのないものへと書き換えていった。

ちなみに偽装スキルも隠蔽スキルも別段プレートに記載されている情報のみが書き換えられるだけじゃなく『鑑定』などの看破系スキルに対しても作用して使ってきた対象のスキルレベルが低ければ偽の情報を掴ませる事が出来る。

「さて、それじゃあ自分のステータスを確認出来たようだな。では簡単に説明してくぞ。
まずは職業ジョブについてだが、これは本来なら空欄になってるのが普通だ。見た限りの反応じゃそっちの方が少なそうだが……全く、羨ましい限りだ。
 ジョブは本来なら『後転球』と呼ばれる水晶から自分に合った職業を選択して初めてステータスに反映されるものなんだ。だが、この世界でも稀にお前たちのように最初からジョブに付いてる者がいる。
 そういう奴らの事を俺たちは『天職持ち』と呼んでる。こいつは言ってみると才能だな。
後転球を使って数あるジョブを選択出来る俺たちは地道に努力を積み重ねてようやく手に入る力を天職持ちは文字通り、ひとっ飛びで手に入れる事が出来るからな!」

(あぁ、だから『羨ましい』なんていったのか。
んじゃクラスの中で天職持ちになれてない他の数人は羨ましいどころか、他の奴らに「妬ましい」とさえ思っちゃうんじゃねぇかな?ハハハッざまぁみろっ)

「むっ……弓弦がまた悪い顔してるよ」
「……ん」

 背後で何か聞こえた気がしたが……まぁいいか。
説明は未だ続いてんだし、今はそっちに集中しよう。

「ついでにいうと、ジョブは各ステータスや技能なんかにも影響を及ぼす。
例えば天職が戦士のものは筋力や体力なんかが飛躍的に上がって、他のステータスより頭が一つ飛び抜けた感じになる筈だ。
 そして技能についてだが、これは言うなれば熟練度だな。一応レベルとして表記されてはいるが、この技能は一つ上がるたびに剣の腕や手に伝わる感触なんかがより鋭敏になり、鋭さや威力などが格段に向上していく」

 ふむ。自分のステータスじゃあまり参考にはならなかったが、天職持ちの菜倉や庄吾のステータスを思い出すと確かにジョブに適しステータスバランスになっていたからな。
……まぁそれでも、菜倉はともかくとして庄吾にも筋力で負けてたのは地味にショック過ぎる事実だったけどな。

「次にステータスに付いてだが、この世界基準でいうとレベル1では平均的に10~20あれば十分良い方だ。天職持ちでさえ30くらいが限界値だと聞いた事がある。
 ステータスを向上させる方法はいくつかある。最も簡単な方法だと魔法が付与された魔法道具や魔法武器なんかを装備することだな。
 二つ目は一時的ではあるが、全ステータスの能力が上昇する魔法薬があるが、これは余りお勧めはしない。変な副作用があるわけじゃないが、効果が切れた後に凄まじい倦怠感がやってくるからな。常用しようとする物好きはまずおらん。
 最後に三つ目だが、これが最も確実な方法でレベル上げが一番だ。
レベルを上げるには魔物などを殺すことで、目には見えないが霧散しかけている魔力を取り込むことで向上していくと言われている」

 魔力を取り込む……んー、経験値みたいなもんかね?
それにしても、この世界の基準値から考えると確かに俺たち転移者はチートレベルだ。
 何で俺だけこの世界の平均値なのかが激しく疑問だが。

「そしてスキルに関してだが、これは主にレベルを上げていくことで獲得していくのが通常だ。
 レベルを上げて剣士としての技能が上がっていくに連れて様々なスキルが増えていく。
原理やなんかは分かっていないから聞くんじゃないぞ。
 分かっている事は攻撃に特化しているものであれば、それは一撃必殺の劔となり、敵に致命傷を与える事ができるということだ。
 そしてスキルは使用する度に魔力を使う。どのくらい消費するかは個人差があるので上手くはいえないが、スキルにもレベルがあり、そのレベルが上がるに連れて魔力の消費を抑え、威力を向上させる事が出来る。
 スキルレベルを上げる方法としては……まぁアレだ。
とにかく使いまくれとしか言えん。それ以外に方法があるなんて聞いたことがないからな」

 ほうほぅ。つまりアレですな?
例え相手がスライムのような雑魚でも魔力消費なんかを考えずに使い続ければレベルが上がっていくと……ゲームかよ。

「最後に称号に関してだが、これは一言でいうなら英雄的行動をとった者のみが獲得できる。
 大雑把で悪いが、自分から称号を増やそうと思ったらそれしかないんだ。
だが、称号を獲得する事で得られる恩恵は計り知れん。一般的に知られているものだと『ゴブリンキラー』なんてものがある。
 こいつを持っているとゴブリンに与えられるダメージが増加したり、逆にゴブリンから受けるダメージを激減したりするものだ」

 まぁ確かに『異世界からの召喚者』はかなり有能だ。
分け隔てなく世界各地の言語が母国語並みに理解出来るってのは軽くチートだからな。
 え?お前もう一つ称号あるだろって?知らん。そんなものはない。ないったらない。

「ステータスに関する説明はザッとこんなもんだ。何か質問があるやつは後から聞きに来てくれ。
 それじゃ、まずは全体の訓練バランスを取るために一人ずつこっちに来てくれ」

 団長の指示に従うように近くにいたクラスメイトたちが順に前へと並んで行く。
その様子を見ながら俺は顎に手をやってどうしたものかと、つい考えてしまう。
 
 俺のステータスは偽装と隠蔽を駆使して他のクラスメイト達と差がないようにしている。
 理由は俺が恨まれてるからだ。
勿論ヤバイ称号に犯罪臭漂うスキル持ちってのもあるが、一番の理由としてはそれが原因だ。

 今まで傍若無人に振る舞って力だけで物を言わせてた奴がある日自分よりも弱くなったと知ったらどうなる?

 考えなくても分かる。今までの恨み辛みを晴らそうと躍起になるはずだ。なので直ぐにスキルを使ってステータスを偽ったのだが……こと訓練に関しては話が別になる。

 自分の能力を向上させるために訓練メニューを考案したが、周りよりも弱過ぎる為にロクに訓練も出来ずにヘロヘロになるのがオチだ。
 下手をすればせっかく隠した称号も暴かれる危険性だって十分にある。

(それならいっそのことステータスは隠さず、スキルと称号だけを隠すってのはどうだ?)

 私刑(リンチ)覚悟で暴いた方が余計な面倒は減らせるし、いずれバレることならそれが多少早くなるくらいは問題がないはずだ。

 何よりいくら恨みが重なっていても、数字で表されてるだけだから確信が持てない以上は直ぐに喧嘩をふっかけてくる奴はいないだろうしな。

 それでも念のため二人には話しておいた方がいいか。

「菜倉、庄吾。ちょい……」
「「「おおぉぉっ!」」」
「ってなんだ?」

 列に並ぼうとしていた二人を呼び止めると同時に前方から歓声が上がった。
 二人も突然の歓声に驚いて前を見るとそこにはアキラを賞賛する騎士団員の姿があり、団長さんも驚きと満面の笑みを浮かべて賞賛している。

「やっぱりお前が勇者だったか!ハハッ流石だな!」
「いや、えっと。ありがとうございます」

 どうやら勇者の称号はアキラが持っていたらしい。
まぁ何となくそんな気はしてたが、本当になるとは思ってなかったからな。ちょいとビックリだ。

 ☆

名前:獅堂 アキラ・17歳
種族:人間・男
職業:剣士

レベル1
体力:100
筋力:100
敏捷:100
耐性:100
魔力:100
魔耐:100

技能:剣術Lv1・光魔法Lv1
スキル:流水・光刃剣
固有スキル:?

称号:異世界からの召喚者・勇者・光の加護



 うん、チートだ。完全にバグだ。
ステータスだけでも俺TEEEなのにその上に技能やらスキル果ては称号まで複数持ってるとか俺とは対極過ぎんだろ。喧嘩売ってんのか?
あ、それいったら他のクラスメイトもそうじゃん。やべぇ敵だらけw
 まぁいっか、結局は持ってるやつは持ってる。それだけのことだしな。今までと何も変わらん。

 そんな事を思いながら何となく菜倉と庄吾に視線が行く。
菜倉はたぶんクラスの中でも上位に入るくらいのステータスがある上にコイツの性格ならスキルも上手く使いこなすだろう。
庄吾はステータス面は若干弱いし、生産職に分類される錬金術師ではあるが、根っからのオタクだからきっととんでもないものを創り出す筈だ。少なくとも自衛は出来るくらいに強くなれると思う。
 理由?そんなもんはない。単なる勘だ。

ーーでは俺は?
ステータスは一般人と変わらず、馬鹿みたいに強い技能もスキルもない。
 唯一の強みかもしれない称号は謎に包まれている上にこの世界では、少なくとも人間社会では致命的な名称をしている。完全にお荷物だ。

(はぁ、まさか異世界に来てまでこんなやりきれない気分になるなんてな……よっぽど神さんは俺の事が嫌いらしいな)

ギリィッと握った拳から音がなる。

「弓弦?どうしたの、怖い顔して……?」

 気がつくと菜倉も庄吾も心配そうにこちらに向き直っていた。
俺は軽く頭を降って考えていた事を追い出すと二人に向き直ってステータスプレートを見せた。

「これが俺のステータスだ。笑えるだろ?」
「ん?どれど……れ、って。え?嘘……」
「……!」

 二人の表情は一言でいうなら驚愕だった。
信じられないといった声に出さなくても分かるくらい顔にでていた。

「おいおい、んな顔すんなよ」
「いや、だって!これじゃ……それに他の皆んなに知られたら」
「間違いなく私刑だろうな。ハハッやんちゃし過ぎたツケが回ったな」
「笑い事じゃないよ!それに弓弦が今までやってたのは……」
「おおっと、それは言いっこなしだぞ。俺が単に暴れたかったからやってただけで、後の事はその結果だ。お前らが何を感じようと他の連中が何を思おうと過程が過ぎれば残るのはその結果だけなんだしな」

 この世は結果が全て。なんてフレーズはよく聞く事だし、事実その通りだ。
俺はそれを否定しない。例えどんな理由があろうとも人を殺せば犯罪者になるし、綿密な計画を練っていてもその過程で不祥事が起きれば台無しになる。
 だから菜倉が言わんとする事が正しい事であっても結果からみたら、偶然の産物に過ぎない。

 その事が理解できたのか菜倉も庄吾も苦汁を飲んだ表情になる。

「見ての通り俺は弱い。たぶん此処で訓練をしていってもお前らの足元にも及ばねぇ」
「……どうする気なの?」
「…………」
「ま、しばらくは一緒におるさ。この世界の知識は最低限身につけとかねぇとな」

 それだけ言い残して俺は列の最後尾に並んだ。
後ろからは二人のなんとも言えない視線が突き刺さってくるが……まぁしょうがないかと諦めていると、もうすぐ順番になるときに背後から声をかけられた。

「……分かった。弓弦がその気なら今度はあたし達が弓弦を守る」
「本気か?ってか、守ってた記憶なんて一つもないんだが」
「いいの。別にそんなこと。あたし達が勝手にやるんだから」

 振り向きはしない。見なくても声で分かる。
そのくらい菜倉の声はよく聞こえたし庄吾も声にこそでないが、気配でなんとなく分かる。

(神さんには嫌われたが、それでも物好きはいるもんだなぁ……ハハッ)

「次の方。ステータスプレートの提示をお願い……どうかされましたか?」

 シリアスなんてのはガラじゃないが、こういうのも偶には悪くないかなと。
そんな事を思っていた矢先。どうやら順番が来ていたらしい 俺は首から下げていたプレートを騎士に渡した。
自然と周囲の視線が集まってくるのを感じる。

「……ふはっ。マジかよこれ」

 声を出したのはプレートを受け取った騎士だった。
その顔は嘲りに歪ませた笑みで満たされプレートのステータスを紙に写しながらも尚歪ませて行く。
不思議に思った隣にいた騎士も覗き込むと目を見開いて驚くと次には嘲笑するようにこちらを見ながら鼻で笑う。

ーー分かっていた事だ。
 さっきまでクラスのステータスを見ていて雲泥の差と言っていいくらいのステータスを見ればこんな態度になるのは仕方のない事だ。

 俺は静かに瞼を閉じて湧き上がる怒りを抑えながら時間が過ぎるのを待っていると騎士達の方から声が聞こえた。

「どうかしたのか?」
「だ、団長。いえ、何でもありません!」

 どうやら騎士団長さんが来たようだ。さっきまではアキラ達と話していたようだが、騎士の様子が気になって見に来たらしい。
そして団長も一緒になってプレートを見ると……ゴンッゴンッと重い音が聞こえ同時に「がぁっ」「ぐおっ」と呻き声が聞こえて来た。
 予想外の事に驚き、顔をあげるとそこには怒りに顔を真っ赤にさせて仁王立ちする団長と側に倒れる騎士が二人。

「この馬鹿者供がぁっ!誰かっこの馬鹿二人を此処からつまみ出せ!」
「は、ハッ!」

 突然の怒声に驚きその場の全員が肩を震わせると、側にいた別の騎士達が蹲る二人を連れて訓練場から去っていった。その光景を見送ると団長は俺のプレートを持ってやってきた。

「部下が失礼な事をした。申し訳ない」
「……いえ、分かってた事なんで気にしないで下さい」
「ステータスは生まれ持った能力がそのまま反映されると聞く……だから気に病む必要はない。
それにレベルが上がれば自然とステータスも伸びて行くからまだまだ悲観するには早いぞ!君は若いのだしな!」
「うっす……」

 慰めの言葉を最後に俺は先程と同じように全体の最後尾へと戻って行く。
途中でクラスメイト達から困惑の表情を向けられてきたが、そのままスルーする。
ただ夏菜子先生や他にも複数名の生徒ーーアキラや飛鳥なんかは勘付いたようで何処か哀れむような視線を向けてきた。





 その後、全員のステータス確認を終えると服や装備品などを支給されて午前の部が終了した。
昼食を挟んでからは戦士系・魔法系・生産系へと分けられて座学が行われた。
 その時間を利用して俺と同じようにジョブがないクラスメイトはジョブを得るために後転球のある一室に通された。

室内は割とこじんまりとしていて、どこかの待合室のような場所にボーリングサイズの水晶が部屋の真ん中に置かれている。
 ジョブがなかったのは俺を入れた五人。
よく一緒にいる三人組の男子といつも教室か図書室の一角で本を読んでいる間宮 結奈だ。

 三人組の方はぶっちゃけ苗字しか知らん。確か鈴原と土井と加藤だったか?そのくらい曖昧で親交もなかったから正直話した事があるかも微妙だ。
 当然全員俺よりステータスは高い。その中でも結奈はジョブに着く前にも関わらず魔力が50とかなり高い。
団長の話ではジョブに着いてから更に上がるような事を言ってたが、一体どれほど上がることやら……。

「お待たせしました」

そう言って室内に入ってきたのは若い栗毛色の髪をした女性だった。
 見た目は二十代半ばくらいで、美人キャリアウーマンなんて肩書きが似合いそうな人だった。

「私は冒険者ギルドの職員でアリスタ・ボーエンと言います。本日は召喚者様方が後転球によりクラスチェンジを行うということで至急こちらに出向いた次第です」
「クラスチェンジ?」

鈴原?が初めて聞く単語に反応した。

「クラスチェンジは新しく、もしくは別のジョブに着く際に使われる総称のことです。それでは早速説明に入らせていただきますがよろしいですか?」

もちろん反対意見はない。全員で肯首するとアリスタさんは説明を開始した。

「まずクラスチェンジですが、それを行うには一定の魔力値が必要となります。ギルドではこれをポイントと言っていますが、このポイントは初めて行うクラスチェンジの際に10Pほど必要となります。
そして二回目からはクラスチェンジするジョブによって変動していきますが平均して100~120Pは必要です」
「1P溜めるにはどうしたら良いですか?」
「方法は二つあります。一つは小型の魔物を倒すこと。もう一つは魔石などの魔力を秘めた特殊な結晶を使う必要がありますが、今回数を揃える事ができず約三人半分の魔石しか用意できませんでした。申し訳ありません」

アリスタさんはそう言って深々と頭を下げてくるが、俺的には魔物討伐を一足先に体験出来るので特に問題はなかったので良いのだが、何故か三人組から視線を感じた。

「……なんだ?」
「あ、いや。その……」
「え、えっと……なんでもないです」
「き、気にしないで下さい」

 睨んだわけでもないのに凄い勢いで視線を逸らされた。
……ひょっとして俺が魔石を独占しようとか思われてる感じか?
 俺はアリスタさんが取り出した緑色の光沢を浮かべる石を手に取ると三人の視線が一気に集まってきた。どうやら間違いないらしい。

「はぁ、俺はいらんからお前らで分けろ。あぁ、間違ってもお前ら三人じゃねぇぞ。女子優先で間宮さんを筆頭に残りを分けろ」
「え?!あ、う、うん。ありがとう」

 予想外の答えだったのか鈴原は恐縮した感じにアリスタさんから魔石を受け取っていくが。

「どうした?」

 遠慮なく魔石を受け取っていく中で結奈さんは魔石を受け取取ろうとしなかった。

「私は余ったので良いよ。たぶんジョブチェンジしてもそんなに変わらないから、それより弓弦君の方がよっぽど為になるよ」

 卑屈そうな笑みを浮かべて残った魔石を渡してきたが、一度いらんと言ったものを「それなら……」と言って受け取るものほどカッコ悪いものはないので速攻で突き返した。

「いらねぇって言ってんだろ。ごちゃごちゃ言ってねぇでお前が使え」
「えっでも……」
「うるせぇ、使え」
「は、はい……」

 渋々と察し出していた魔石を引っ込めると、俺は視線をアリスタさんに向けて説明を促した。
彼女は面白半分感心半分といった顔で微笑みを浮かべると何事もなかったかのように魔石の使用方法を始めていった。

 魔石の使用方法は至ってシンプルだった。なんせただ握って力を込めるだけで緑色の光沢が淡い光を放ち、握られた拳の中に光が吸い込まれて行くのだ。
地球にはないその光景は見ているだけでも、幻想的で割と楽しめた。

 結局10ポイント得られたのは三人組トリオと結奈が6ポイントだけだった。
まぁ本人たっての希望だったから別にかまやしねぇんだが、それを気にせず喜びを上げる三馬鹿男子には文句の一つでも言ってやりたい気持ちになるな……。

 その後は後転球でクラスチェンジを果たした鈴原・土井・加藤の三人はそれぞれ最初に別れたクラスメイト達の元へと戻っていった。
 残された俺と結奈さんはアリスタに従って現在は王城を出て城下町の通りを歩いていた。

「しかし……本当違う世界なんだなぁ」
「う、うん。本当にそうだね」

 通りを行き交う人々。街並みを作る建造物。どこをどう見ても現代社会にはありえないものばかりだ。
歴史の教科書に出てくる中世にでもタイムスリップした気分になる。
 結奈さんも田舎者みたいに周囲をキョロキョロと見回しているが、流石にこればかりは仕方がない事だろう。

 王城を出て二十分ほどアリスタさんについて歩いて行くとようやく目的地に着いたのか三階建ての建物の前で立ち止まった。
通りを歩いているときにも気になってたが、この建物からは武器や防具で身を固めた人が多く行き交っている。

「ようこそ、ここが王都冒険者ギルドになります」

 くるりと振り返ってイタズラが成功した時の子供のような笑みを向けてアリスタさんはギルドを紹介してくれた。

「冒険者ギルド……?ちょっと待ってくれアリスタさん」
「はい、なんでしょう?」
「なんでわざわざこんな所に連れてきたんだ?小型の魔物を倒すだけなんだろ?」
「そ、そうです。てっきりこのまま倒す場所に案内してくれるものだと……」

 俺たちの質問を分かっていたのか、フフっと笑うと建物に入りながら説明をしてくれた。

「もちろん案内させて戴きます。ただ私ではなく、依頼を受けて下さった冒険者の方が案内する事となっています。なんせ、見ての通り私には戦闘スキルなんてありませんからね」

 重厚な鉄扉を潜ると入ってすぐの正面には受付らしきカウンターが四つと左手側には教室の黒板二つ分くらいの掲示板がすぐに目に付いた。
反対の右手側には酒場も兼用されているようで昼間から呑んだくれている冒険者達がいたが、俺たちが入ってくるや否やそれまでの愉快な雰囲気から一変して剣呑な眼差しを向けてくるもの輩が視界に入る。
 
(これは……アレか?西部劇とかでよく見るあの絡みシーン的なものか?やべぇ、だったら超テンション上がるんだが!)

 実はハリウッド映画の。特にガンアクションが多分に含む西部劇モノが大好きだったりする。
近年では余り見かけなくなってしまったが、荒野の七人とか本気で憧れる。

 ただ現実は常に非情だ。
特に何か絡まれる事もなく俺たちは奥の別室へと普通に案内されてしまった。
 ……解せぬ。

 案内された部屋はどこぞの応接間のようで向かいあった長椅子の間にシンプルな作りをした背の低いテーブルが置かれているだけの簡素な部屋だった。
促されるままに椅子に腰をかけるとアリスタさんがお茶を用意してくれて対面に座る。

「それではまずこれからの予定を説明しますね」

 そう言ってアリスタさんはテーブルにこの近辺の大雑把な地図を開いた。
俺たちは互いに「お願いします」といって一緒になって地図を覗き込む。

「まず此処が今私たちのいるスグルト王国で、お二人にはここより南下した所にある魔獣の森へ向かって戴きます。後でご紹介しますが、腕利きの冒険者チームも同行しますので安心してくださいね」

 魔獣と聞いて一瞬二人に表情が強張ったが、次いででた言葉にちょっとだけ安堵する。
(びっくりした……いきなり魔獣のいる森に放り込まれるのかと思ったぜ)

「魔獣の森とは称していますが、実際には下級の魔獣しかいない初心者向けの森なので、お二人のように最初のクラスチェンジを行うためのポイント稼ぎをしに行く新人さんが多く向かう場所でもあるんです」
「へぇ……でもそんだけ狩りまくってたら森の生態系とか崩れないんっすか?」

 常識的に考えて一箇所の森で狩りをし続けたら当然動物の個体数は減少する一方で何らかの異常がきたす筈だ。
これは日本どころか世界各地に起こっている現象で番をなくした個体は数を減らし絶滅するしかない。そして場合によってはその個体がいなくなったことにより、食物連鎖に狂いが生じて最悪、森そのものがなくなってしまう事も珍しくない。
 それなのにアリスタさんの口ぶりでは常に冒険者達が狩りまくっているように聞こえるのでどうなっているのか気になる所だった。

「ふふっ。良い質問です。ですが安心して下さい。下級とはいえ魔獣の多くは強い繁殖能力を持ち合わせている上に成長速度も人とは大きく異なります。
  例えばこの森に多く生息するグロウウルフは生後した日には自分の足で歩き周り、十日後には生体と変わらない運動能力を持ちます。
なのでギルドでは七日間に一度の割合で狩りを行い適当に間引かないと森から溢れたグロウウルフが王都へ侵攻してくるのを防いでいるのです」

 アフリカなどを生き抜く草食動物は驚異的な成長速度を見せると聞いた事があるが、魔獣だと肉食でも関係なく成長が早いようだ。間引きをしないとならないくらいに。

 「なるほど、それなら心配はいらないっすね。所で、狩りに行くのは良いんですが、俺ら丸腰なんっすけど……」
「あ、それは安心して下さい。王城から支度金の方を頂いていますので後で二階にある武具屋で整えて戴きます」

 どうやらその辺のこともしっかりしてくれているらしい。

 その後は狩りに行く前の心構えや倒した魔獣の報奨金などの説明を一通り終えてから話していた通りの装備も受け取った。

 装備品は鎖帷子に魔獣の皮から作ったという胸当てと小手。武器は鉄製の両刃剣と剥ぎ取り用のナイフを貰った。
その他にも傷の治りや体力などを回復してくれる回復薬(ポーション)二つに水筒やら火打ち石やら何やらと一通りの冒険者に必要な道具も揃えてくれた。

 格好だけ見たら駆け出しの冒険者そのものだ。
昔やったRPGの主人公は正にこんな感じだったので少しだけテンションが上がってくる。
 結奈はまだ着替えに手間取っているらしくいないが、アリスタさんが何やら近づいてきた。

「それでは弓弦様。王城より貴方には冒険者登録の方も済ませておくようにと伺っておりますのでこちらに来てください」
「ん?俺だけ?」
「はい。そのように伺っていますが……何かありましたか?」

ーーあぁ、そういうことね。何でわざわざギルドに来てから装備やら何やら整えるのかと思ったが……。

 どうやら俺は早急に見限られたようだ。
 時間的に考えると恐らく俺のステータスを知る団長殿の判断だろう。
これが温情なのかそれともせめてもの情けなのか……。

「あの、弓弦様?」
「あ、すんません。ちょっと呆けてたみたいです。それで登録にはどうしたら?」
「それではこちらに来てください」

 それで案内されたのは最初に通された部屋で簡単な登録を済ませると首から下げていた銅のプレートを出すように言われて預けると、たい焼きなんかを焼く時に見る鉄板同士にプレートを挟んでガシャンッと挟んでから返された。

 見ると名前しか表記されていなかったプレートの端っこに星が一つ開けられている。
最初の説明で聞いていた冒険者のランクを表すマークだ。
 星一つで新人。二つで駆け出し。三つで一人前。四つめからはプレートの色が銀に変わって熟練者となり最終的には金になるらしい。
 現在金のプレートを持っているのは王国でも六人しかいないらしく英雄的存在として崇められている、冒険者としては最高峰の存在だ。

 手続きを終える頃には結奈も戻ってきた。
見ると俺の装備とは異なり、一見すると重そうな防具だが立ち振る舞いからして軽いのだろうと分かる。
 武器は細剣(レイピア)だ。ただ彼女は魔力が高いからクラスチェンジした後は魔法職になるだろうから殆ど使う事はないだろう。

 でもこれでハッキリした事がわかった。俺は見限られたのだと。
装備の質は自分を守るために最大限配慮するものだ。場合によっては武器よりも重視すべきものでもある。
 それが結奈と比較して自分の価値が言葉で言われるよりも明確に告げられたのだ。
ここまでくれば本当に笑うしかないが、それを言ったところで結奈にもアリスタさんにも罪はない。
 ただ自分に運がなかったのだと諦めるしかない。

「おう、似合ってんじゃん」

 なので運のない哀れな道化は空気を壊さないように、見限られたとバレないように結奈へ見た目の感想を述べた。

「あ、ありがとう。でも何で皮鎧なんですか?」
「……こっちのが動きやすそうだったからな。変か?」
「ううんっ凄い似合ってるよ。冒険者って感じだね!」
「そりゃありがとさん」

 分かっていても、頭の中で理解して諦めていても。
どうしても人の感情は真逆の方に向かってしまう。
無邪気に笑う結奈を尻目に俺は胸の奥から込み上げてくる苛立ちを必死に抑えて表に出さないように努める。

「そ、それでは下で依頼を受けて下さった冒険者の方も見えていると思いますので行きましょうか」

 空気を読んでかアリスタさんは笑顔で移動する事を勧めてくる。
何となく俺の扱いを悟ってくれたのだろう。装備を受け取る際にアリスタさんは近くにいた。
 武具屋の店主は俺を確認するや真っ先に装備を渡して来ていたから俺の注文なんかは聞いていないのにあたかも自分で選びましたよっといってからの結奈の装備だ。
 底なしのギャルゲ主人公並みの鈍感差がない限り嫌でも気付くだろう。

 きっとアリスタさんは俺に冒険者登録をする事までしか聞かされていない。
そしてからの依頼を受けた冒険者という奴らの任務は……。

「弓弦くん?どうしたの、何か怖い顔してるけど……」
「あ?……っと悪い。無意識に緊張してたみたいだわ」
「ゆ、弓弦くんでも緊張することあるんだね」

 どう言う意味だと突っかかりたくなる思いを飲み込み、少しだけ当たりかけていた自分に反省しながら話題を転換させた。

「そういうお前……じゃない。結奈、さんは緊張とかしないのか?」
「ふふ。結奈でいいよ。それと緊張はしてる。見て?さっきからちょっと震えが止まんないの」

 そう言って差し出した右手は確かに少しだけ震えていた。
俺はポケットから愛用のオイルライターを取り出すと、それを結奈の右手に乗せた。

「しばらく握ってろ。手の中に何かあると人間って落ち着くらしーぜ」
「え、でもこれ」
「あとで返せよ。大事なもんだからな。あくまで貸すだけだ」
「……うん、ありがとう」

礼を言うと結奈は大切そうにその小さな手には大きく見えるオイルライターを握りしめた。



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