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第2章
第29話ーー遠藤 夏菜子は立ち上がるーー②
しおりを挟む「それで友香は何作るんだ?」
王都の繁華街を歩くのは二人の男女。
農作師の天職を持つ岡田 信二と薬師の天音 友香だった。
先ほどまではここに遠藤夏菜子と岡田信二も混ざって久しぶりに楽しい昼食会が開かれていたが、食べ終わってしばらくすると同級生である岡田は料理の仕込みがあると言って王城に戻り、夏菜子もやる事があると戻っていった。
残された二人は買い物をするという名目で繁華街をブラついているたが、目的がないわけではなかった。
「そういう信二君は?」
どうやら先に言わせたいらしい友香は逆に聞き返して、信二は肩をすくめて答えた。
「俺のやれる事なんて言ったら野菜や果物を育てるくらいだからな。それも飯にする前に仕込みし終えたから後でトモに渡すだけだ」
愛称で呼ばれた知幸ことトモはオルグド団長と夏菜子の為に絶賛調理の仕込み中である。
時折厨房からは「うおぉぉぉおっ!!」という叫び声が聞こえているが、作っているのは料理で、その量も二人分である。
それなのに厨房からはマシンガンのような包丁とまな板を打ち鳴らす音が聞こえてくるのはちょっとした謎現象である。
「随分早いね。いつやったの?」
「部屋に戻ってすぐな。家庭菜園よろしく、改造した種が実り出したから急速成長させて熟成させてるとこだ」
「急速って、大丈夫なのそれ?」
農作師のスキルには植物の成長を促進させるものや、品種改良をしやすくするスキルがある。
信二はこれらを用いて枯れた穀倉地帯に水分が僅かでも成長し、寒さにも強い苗を普及させていた。
「当然。確かに品質とかは時間をかけてゆっくり成長させたのには若干劣るが、俺が直接操作してやったのは別だからな」
「ふーん?それで何を育てたの?」
「りんごっぽい何かだな」
「…………急に不安になったわ」
肝心の育てた物を聞き出すと胸を張って言い切る信二に友香は額に手を当てて天を仰ぐ。
「おいおい、食ったら美味いんだぞ?見た目はアレだが」
「何よそのりんごっぽい何かって?!しかも見た目はアレって余計になに?!」
「ん」
信二の襟に掴みかかって問いただす友香に信二は予想通りの反応だと言わんばかりに、予め用意していたらしくポケットからソレを友香に渡す。
「……何、これ?」
「りんごっぽい“何か”だっ!」
グッとサムズアップしながら答える信二から渡されたものを見ると、そこには確かに地球でもよく知られる赤々とした丸いりんごがあった。
ただ、その表面には明らかにオッサンと思しき表情が浮かんでいる。
ものすごい笑顔で。キランッと光そうな歯をみせながら。
「名付けて“笑顔のリン・ゴさん”だ!」
「キモいわっ!!」
恐らく人生最大速度の投球を誇るのではないかと思えるほどの勢いで信二に叩き返した。が、そこは流石元野球部。
突然の投球にも対応して難なくキャッチする。
「おいおい、食い物を粗末にすんなよなぁ~本当に美味いんだぞ」
「見た目からしてアウトなのよ!しかも変に区切るなっ余計にキモいわ!」
今にも『HAHAHAッ』とか言って笑い出しそうな顔のリンゴは友香の言う通り、控えめに言っても気持ち悪い。
それなのに何の躊躇いもなく、普通のリンゴを食べるように齧り付く信二はある意味で凄いと言っていいだろう。
通りを歩く人々も人目も気にせず騒ぎ立てる二人に視線を向けているが、笑顔のリン・ゴさんを見ると視線を背けたりドン引きしている人ばかりだった。
「しょうがねぇだろ、実験で育ててみたら何故かこんな顔が出来ちまったんだからよ」
「本当に何作ってるのよ……」
「まぁ騙されたと思ってちょっと食ってみ?」
そう言ってもう一つのリン・ゴさんを取り出すと友香に差し出す信二。
友香はしばらくその無駄にいい笑顔をするリン・ゴさんを見つめた後、覚悟を決めたように受け取って齧り付いた。
周囲から「おぉっ」と謎のどよめきが聴こえてきた。
「……………………何これめっちゃ美味い」
「「「「?!?!」」」」
シャクシャクと咀嚼音を響かせながら頬張る友香に周囲から同時に某スニーキングゲームのアラート音のような『?!』が飛び交う。
実際にこの笑顔のリン・ゴさん。めちゃくちゃ美味い。
表面からは普通のリンゴと同じ爽やかな香りが僅かにするだけなのに、一度齧るとそこから芳醇な甘いリンゴの香りが拡散して鼻腔を擽り、一噛み毎に極小のカプセルが弾け飛んでいるのではと思えるほどに水々しい。
それなのに口内には濃厚な甘味が広がり、程よい酸味がすぐにサッパリとしてくれる。
それは正に文句の付け所がないほどに美味いリンゴであった。
………ただその見た目と、食べた後に勝ち誇られているような微妙な腹立たしさがなければの話だが。
「だろ?今はまだ実験中だから量産は無理だけど、近いうちに南側の開拓村で実験的に試す予定だ」
「成功はしてほしいけど、果てしなく失敗してほしいと願ってしまう自分が何故か憎いわ……」
想像してほしい。笑顔をしたオッサン顔のリンゴが一つの木からいくつも実り、それが村周囲を囲むほどの果樹園を……一言でいって余り近寄りたくはない事だろう。
しかもそれが収穫時期になると木箱いっぱいに詰められると思うとある種のトラウマものである。
「まぁそれはいいとして、お前は何作るってんだ?」
すっかり逸れてしまっていた話題を戻して信二が再び問いかける。
「私はアロマ、というよりはキャンドルね」
「キャンドルって蝋燭か?そんなもん作ってどうすんだよ」
「もちろん雰囲気作りよ」
「……蝋燭だけで雰囲気ねぇ~、何がいいんだか」
「アンタはもうちょっとそういうの勉強した方がいいと思うよ。それとキャンドルって言ってよね」
嘆息する信二に友香はジト目で叱責して「何より」と言葉を続けた。
「この私が作るキャンドルなのよ。そこら辺にあるものと一緒にしないでほしいわね」
天音 友香の天職は薬師である。
主に薬学に精通したジョブで調合師と同じ様に風邪や病、毒物などに対する薬を作る事ができる。
ただそれだと薬以外の調合を可能とする調合師の方が上位ジョブに感じるが、実際には違う。
調合師はあくまでも調合のエキスパートであって、確かに腕のあるものが調合を行えば専門にしている者と引けを取らない高品質のものが出来上がるが、残念ながらそこまでだ。
それに対して薬師は薬に関するエキスパートであり、患者に薬を飲ませる事で“薬効効果上昇”という付与効果が得られる。
分かりやすくRPG系ゲームで例えると猛毒状態で下級の解毒薬を使っても効果はゼロなのに、薬師が飲ませれば下級の解毒薬であっても薬効効果上昇によって猛毒状態を解除出来るというものだ。
なので調合という枠だけ見ると薬師は調合師の下位互換にあるが、薬学で見ると同列或いは逆転してしまう事もある。
そんな薬学のエキスパートである彼女が提供するキャンドルが果たして普通の見ているだけで心が安らぎ、仄かに香るアロマの香りで癒されるだけの代物なのか。
ーー答えは否だ。断じて違う。
天音 友香は常識人であり、至極まともな感性を持った人間であるのは間違いない。けれど彼女は女子高生だ。
転移してから一年近く経ってしまい、もう女子高生とはいえなくとも閉鎖された空間と同年代の友人達がいる事で彼女の心は未だ恋も焦がれる女子高生だ。
そんな彼女の娯楽といえば、恋話。この一点に限る。
転移してきたクラスメイトの女子の大半……というより、自分以外の女子は全員が戦闘系或いは魔法職の天職を授かったせいで、現在は散り散りとなってそう言った色恋話が全く出来なくなってしまっているが、身近で。
それも自分たちが信頼を置く教師である夏菜子先生が一国に仕える聖騎士。それも聖騎士団長であるオルグド・バランと恋仲であると知ってしまったらヒートアップ!もとい、応援せずにはいられない。
普段から自分たちの心労を吐露させて貰ってるので恩返しの意味も込めて精一杯バックアップせねばと意気込む友香は宛ら飢えた狼のように獰猛な笑みを浮かべて自慢気に胸を張るのであった。
「……頼むから変なもんは混ぜてくれるなよ?」
その笑みに若干引きつり気味になった信二が忠告するが。
「失礼ね。ちょっと媚薬効果のある薬を混ぜるだけよ」
「絶対やめろ!ってか媚薬とか一年近くこの世界いるのに初耳なんだがっ?!」
「そんなもの簡単に作れるわよ。薬師舐めんな」
「お願いです、友香様。その媚薬を私めにお譲りいただけませんでしょうか」
ツッコミを入れてからの懇切丁寧に頭を下げて恭しくも強請る信二に友香はにっこり笑顔のスマイルで一言。
「去勢してきたら考えてもいいよ♪」
「意味ねぇーーーーっ!!」
確かに意味がない。
意中の相手がいようとも、誘惑して最後の一押しを手に入れようとも、全ての根幹から断ち切られるような要望を突きつけられては全くの無意味である。
ちなみに媚薬はこの世界にも存在する。
ただし、廃人真っしぐらな上強い幻覚作用を含むドラッグに近い物のため取り締まれてるがあるにはある。
友香が作り上げたのは媚薬と言っているが、あくまでも興奮作用を含む薬の一つだ。
吊り橋効果の逆バージョンを引き起こす薬で、心拍数を上げる事により、体温の上昇と発汗性を高める効果を持つ。
ただそれだけでは弱いので友香は二種類のキャンドルを作ることにしていた。
一つは興奮作用を引き起こすキャンドル。もう一つはキャンドルの炎が時間経過によって強くなるものだ。
二つ目の狙いとしては視覚による扇情効果を狙っている。
本来気分を落ち着かせるキャンドルやアロマなどはゆっくりと燃えていくことで視覚と嗅覚からリラックス効果をもたらすが、友香の用意する二種類のキャンドルでは気分が高揚している時に情熱的に燃える炎を見て更に高揚感を高めようとしているのだ。
それらの話を聞き終えた信二は若干引きつった笑みを浮かべて「お前、なんか悪魔みたいな奴だな」と、感想を述べたのは言うまでもない。
いくら知人の恋路を応援する為とはいえ、取り締まられる事のない依存性もなければ危険性もない媚薬紛いのものを易々と作り上げるだけでなく、それを使用する事に何の罪悪感もない様は確かに悪魔的所業といえなくもなかった。
「失礼ね。確かに媚薬とは言ったけど、正確には限りなく催眠術に近い、精神心理学に則った方法よ」
「いや、それ何の弁解にもなってねぇから。寧ろ悪化してる事に気づけ」
弁解する友香に信二はチョップをかましつつ注意するが、当の本人は特に悪びれた様子もなくやめるつもりはないようで信二の手を払っては数歩先を歩いていく。
その背中を追うように信二は黙って跡をついて行った。
しばらく歩いた先で噴水が見えるちょっとした広場まで来るとそれまで黙っていた友香が口を開いた。
「別にいいじゃない。人間、誰だって支えになってくれる人が欲しいものよ……今あの人に倒れられたら私達は一体誰に支えてもらったらいいの?」
「それは……」
突然何を言い出すのかと思った信二だったが、質問に答えるよりも先にその声音からは何かに怯えているように弱々しく吐き出された言葉だと気付いてしまい言葉に詰まってしまった。
「アキラ君?それとも飛鳥?違うでしょ。
あの二人は確かに頼りになるけど、私からしたらあくまでも頼りになるだけ。アンタもそうでしょ?」
「…………」
返事はない。答えがないのではない。答えられないからだ。
友香の話したこと、それは紛れもない事実で否定のしようのない事だったからだ。
勇者である獅堂アキラはクラス全員を纏めて上げれる程のカリスマ性と扇動性を持ち合わせ、強さも他者を寄せ付けないくらいに特筆している。
枢木飛鳥も同様に男子だけでなく女子からの信頼度は抜群で、おまけに勇者の称号を持ち合わせていないにも関わらず風の属性加護を保有していることで、アキラに並ぶくらい支持率が高い。
そんな二人を友香も信二も心から信頼している、が。
自分たちの心を支えてくれる存在ではないと思っていた。
彼らの強さは信用出来る。
皆んなを纏めて引っ張ってくれる言動力と行動力も信頼出来る。
けれど『心』の支えとなる存在かと問われれば答えは否だ。
何故ならこれまで自分たちの不安を親身になって聞いてくれたのはいつだって遠藤 夏菜子という人間だけだったからだ。
右も左もわからないのに突然召喚された先で、魔王討伐を目標に沸き立つクラスメイトに最初こそ乗せられたが後になって押し寄せてくる不安と恐怖の声に耳を傾け、その後も様々なフォローをしてくれた人。
本当は自分自身でもどうしたらいいのか分かっていなかった筈なのにそれでも“教師だから”という理由で影ながら支え続けてくれた人。
そんな『心』の支えである彼女が、あの男。
葉山 弓弦の死亡を聞きつけ心を酷く痛めてしまい、それでもこれ以上の犠牲は出させまいと身を粉にして働き続ける姿を近くで見続けていた友香にとっては何よりも苦痛だった。
『このままでは遠からずに遠藤夏菜子は倒れてしまう』
『自分たちの心の拠り所がなくなってしまう』
それは勝手な要望だと分かっていてもこのまま許容するには余りにも酷だ。
そう判断した友香はオルグド・バラン聖騎士団長に目をつけた。
オルグドは何かと夏菜子に気を遣っているのは見ていて分かった。
気がつけば彼らは互いを愛称で呼び合っているのも知っている。
それはつまり、遠藤夏菜子の『心』の拠り所であり、支えにもなりうる存在であると判断するには十分なものだった。
「ーーだから私は手段を選ばない。多少強引でも良いから団長さんには先生と恋仲にでも何でもなって心の拠り所になってもらわなきゃいけないの」
全ての心情を吐露する友香に信二は終始無言で聞いてい、やがて自分の中で折り合いが付いたのか口を開いた。
「はぁ……色々言いたい事はあるが、まぁ確かにそうだわな。
先生に倒れられるのは俺たち召喚者にとっては痛手以外のなにものでもねぇからな……お前がナニ考えてっかは知んねぇけど、最大限協力してやるよ」
「何よ、人を悪者みたいに」
「実際そうだろ?俺たち。いや、自分にとっての最善策を取るために先生の意思は関係なく媚薬紛いのものを作ってそれを使おうとしてんだから」
「嫌な言い方。確かに媚薬紛いではあるけど、大前提として本人にその気がなければ全くの無害なんだからね」
唇を尖らせて抗議の声を上げる友香だが、続く信二の言葉に黙ることとなる。
「それだけじゃねぇよ。お前、使い潰す気だろ?先生だけじゃなく俺もトモもクラスの奴ら全員を巻き込んででも自分を守ろうとしてるだろ」
「なっ」
驚いたように顔を青くして向き直る友香。
信二の言葉に反応してしまったのはそれが間違っていなかったからだ。
自己保身へと走る為に、それに繋がる行動の一つ。あるいは手段として大層な言葉を連ねて誤魔化しはしてもあっさりとその考えを見破られてしまったが為に友香は言葉を詰まらせてしまったのだ。
必死に脳内を弁明の言葉で隠そうと思案するが、その前に信二はひらひらと手を振って否定しようとする友香の考えを遮る。
「あー、いいからいいからそういうの。別に責めてねぇし責めるつもりもねぇ。
そういうのはお門違いってやつだからな」
「………お門違い?」
「よくわかんねぇ世界に来て、自己保身に走ろうとすんのは当然な事だと俺は思ってる。
寧ろ意気揚々として戦いに行くなんて漫画やアニメの世界だけだと思ってたんだが、どうもそういうのは俺たち以外(・・・・・)いないらしい。だからお前が俺たちを巻き込んで盾にしてでも生き残りたいと思っての行動なら怒るのは筋違いって奴だろ?」
「…………」
突然やってきた世界。自分の常識など一切通じない謎に包まれた場所で人間が最初に取るべき行動といえば生存本能からくる自己保身だ。
それなのにクラスメイトの大半はちょっとした説明を受けただけで、魔王討伐を掲げ、数日後には元の世界にいた時よりも生き生きとした姿を見せていた。
ごく普通の当たり前の感性を持つ人間がどうしてそんな行動をとったのか、友香も信二も理解できなかった。
だが、答えは日本人らしいといえばらしい回答でもあった。
ただ単純に元の世界が退屈極まりなかったからだ。
昨日と変わらない今日。今日と変わらない明日。それを繰り返すだけの毎日がどうしようもなく退屈で退屈で仕方がなかったのだ。
そこに世界を救う為だとか、平和を取り戻す為という御大層な理由など一切ない。ただ代わり映えのない毎日に飽きて刺激を求めていたからだ。
この世界にいればステータスという概念で数値化される自分の能力を見る事で強くなったと日毎に実感できる。
日本では決して振るうことのない剣や魔法を翳す事が出来る。
それらが平和で刺激に飢えていた平凡な高校生には余りにも甘美で、強過ぎる刺激となってしまった。
ーーだから理解できなかった。
信二も友香も知幸ですら、他のクラスメイトの余りあるヤル気がどうしても理解できなかった。
何故不安にならない?
何故怖くない?
こんな訳の分からない世界に突然連れてこられてどうして彼らは生き生きとしていられる?
三人は示し合わせたわけでもないのに同じ感想をクラスメイト達に抱いていた。
確かに代わり映えのない毎日に退屈感を感じなかったわけではない。新しい刺激に飢えなかったわけでもない。けれど、不満があったわけでもない。
繰り返される毎日の日常はそれなりに楽しかったし、たまにあるビックリイベントなんかでも十分に楽しかった。
それだけで三人は満足だった。高望みなんてしない。
平和で平凡で、ちょっとしたサプライズがあるだけで良かったーーそれなのに、異世界転移などという巫山戯た事件に巻き込まれて不安で不満でたまらなかった。
そうしてクラスメイトのヤル気に満ちた流れから夏菜子の元に集まったのがこの三人だ。
周囲からは臆病者だとか後衛職だからだとか散々言われたが、決して間違った行動だとは思っていなかった。
『自分たちこそがマトモで、他の奴らが異常なのだ』と確信を持って言えたからだ。
だから信二は友香に自信を持って宣言できた。
「安心しろ。お前は間違ってねぇ。
使い潰されるのは勘弁だが、お前のその考えは至極まともだ。だから協力する俺のためにもな」
おちゃらけた感じに信二がそう言い切ると、胸の内を見透かされて青ざめていた友香の表情が和らいだ。
その表情は何処か安心したようにホッとしたものだった。
「……カッコくらいつけなよ。バカ」
「カッコよくねぇ事に協力すんだ。カッコよくする必要ねぇだろ?」
「違いない」
天音 友香は決して善人ではない。けれど悪人にもなれない。
自分で心がけているわけではないが、善行と悪行の違いくらいは分別している。だが、自分の生存権が脅かされるのなら自ら進んで悪行だと思える行為でもやってのけれる。
ただ信二に媚薬云々、支え云々の話をしたのは自分の行いが決して人に褒められる行為ではないと理解していたからだ。
その後ろめたさから彼にだけ胸の内を僅かに話してしまった。黙っていればバレはしなかったにも関わらず。
二人はしばし向き合うと、どちらからともなく互いに拳を付き合わせて微笑みあった。
★
「ハッ!なんか置いてかれてる気がする?!」
ーーby 富田 知幸。
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