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事件発生 オーバーキル
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僕は伊勢海チイト。訳あって異世界に転生した日本人だ。
女神からチート能力を授かった僕は、なんやかんやを経てこの世界を救った。
魔王を倒し、真最終魔王を倒し、真最終魔王_決定版ファイナルを倒し、世界に平和をもたらしたのだ。
隠居した僕は、スタート地点であるサ=イショ村にてスローライフを満喫している真っ最中であった。
今日も僕は麗らかな日差しの中、カウチに座って優雅にモーニングコーヒーを啜っていたのだが、
「チイト! 大変なことが起きたわ!」
家の中にいてもわかるほどに大きく、緊迫した少女の声であった。
彼女の名前はパトナ。この世界にやってきたばかりで何も分からなかった僕に、手を差し伸べてくれた心優しい少女である。
パトナは僕の家に飛び込むと、肩で息をしながら精一杯の声量で叫んだ。
「村長が殺されているの!」
□ ■ □
僕はパトナに連れられて村長の家に向かった。そこには既に人だかりができている。十人位はいるかな?
「意外と少ないわね」
朝の忙しい時間だからね。しょうがないね。
僕とパトナが到着すると、何事かと野次馬していた村人たちがさっと道を開けてくれた。
「チイトさんが来たよ」
「おお、彼が来たならこの事件は解決したも同然だな!」
「パトナは早くツケを払え」
「あと風呂場で大音量で歌うのやめろ」
様々な声をかけられながら、僕たちは村長の家に入った。いや、パトナは家に入らなかった。外で村人たちと口論していた。僕はパトナを置いていくことにした。
廊下の奥のドアを開けると、目の前には明らかな異常事態が広がっていた。
部屋の真ん中にはサ=イショ村の村長、マネロンが倒れている。
腹のあたりで真っ二つに切り裂かれていて、これだけなら過酷なタイプの異世界あるあるといった死に様なのだが、周辺の光景は異常そのものであった。
僕の正面、壁があったであろう場所が、抉り取られたかのように大きく崩れている。まるで古龍がここで剛爪を振るったみたいな、強大な暴力の跡が残されていた。
「まるで古龍がここで剛爪を振るったみたいね」
いつの間にか戻っていたパトナが、僕の背中越しに現場を眺めて呟いた。例えが被ってしまった。なんか嫌だなぁ。
「話し合いは終わったの?」
「チイトがこの事件を解決したらツケはチャラよ」
勝手に決めないでほしいなぁ。
「さぁチイト! バシッと犯人を見つけてイテコマし※1てやりましょう!」
パトナは僕の背中を力強く叩いて激励した。
うまく使われているような気がしないでもなかったが、僕は彼女に頷き返した。
僕はこんな非道なことをする犯人を見逃せる性格ではないのだ。
「スキル【鑑定】!」
僕の声に呼応して、目の前に仮想的なディスプレイが出現した。僕が授かったチート能力の一つだ。
そこには倒れている村長のステータスが余す所なく表示されている。HP、MP、保有スキルに状態異常。あと身長とか体重とか血圧とか、その辺も。
ちなみにこのステータス画面はパトナも見ることができる。僕とパトナはなんかふわっとした力で結びついているのだ。
「血圧がゼロのゼロ……! 死んでいるわ」
「だろうね」
僕たちがどうしてここに来たのか忘れたのだろうか?
そんなことより、と僕はHPの欄を見た。そこには真っ赤な文字で-65535と記載されている。
オーバーダメージ。それも、この世界で観測できる最大値だ。
ここから分かることは一つ。
マネロン村長は、上記を逸するほどの凄まじい力で殺されたということ。
「一撃で、この強さを……?」
隣でステータス画面を見ていたパトナが慄いて一歩後ずさった。
パトナの眼は部屋に残された凄惨な血痕――ではなく、僕の顔をしっかりと捉えている。まさかコイツ、僕を疑ってるのか?
「チイトの仕業だ!」
その時、声が響いた。二階へ続く階段から降りてきた男性の声であった。
「こんな馬鹿げた真似が出来るやつはチイトしかいねェ! お前が俺の親父を殺したんだろう!」
マネロン村長の息子、コアクトーだ。
彼は怒り狂った様子で僕を指差し、口角泡を飛ばした。
彼にはステータス画面が見えていないが、それでもこの異常な現場を見れば常人には出来ない事件であることは明白だ。
だからとてもレベルが高い僕がやったのだと、そう決めつけているのだろう。
確かに僕なら出来る。だが、やるなら絶対証拠が残らないようにする。存在ごと抹消するとか。
犯人は僕じゃないが、やっていないことを証明するのは難しい。さてどうしたものかと悩んでいると、
「チイトさんがそんなことするわけないだろう!」
「彼が何度私たちを救ってくれたと思ってるの!?」
「犯人がチイトさんなわけない!」
パトナに続いて入ってきたらしい村人達が、皆で僕を擁護してくれた。僕は彼らにこんなにも信頼されていたのかと、じいんと胸が温かくなった。
「そうよ! 絶対にチイトじゃないわ!」
パトナもなんだかんだ言って僕を信じてくれているのか、僕を庇うような言葉を発してくれている。さっきは疑いの眼で見つめられたが、あの態度は彼女なりのお茶目といったところだろうか。
「チイトだったらもっと外道極まりない手段を使うわ!」
パトナは僕を何だと思ってるんだ?
「チッ。だったらよォ、真犯人を見つけてみせろよ。アンタならそれくらい簡単だよなァ?」
「当然よ! ほら行くわよチイト! さっさと真犯人を突き止めて、あの憎たらしいコアクトーをドツキマワし※2てやるわ!」
僕が反論するより早く、パトナがコアクトーに啖呵を切った。勝手に言うなとも思うが、僕の気持ちもおんなじだ。やることは結局変わらないしね。
僕は絶対にマネロン村長を殺した犯人を探し出す。そして平和なサ=イショ村を取り戻すのだ。
――――――
【注釈】
※1 イテコマ・す:異世界語で『貴方の奥歯をガタガタ言わせますよ』という意味を持つ
※2 ドツキマワ・す:異世界語において少し暴力的なコミュニケーションを指す言葉
女神からチート能力を授かった僕は、なんやかんやを経てこの世界を救った。
魔王を倒し、真最終魔王を倒し、真最終魔王_決定版ファイナルを倒し、世界に平和をもたらしたのだ。
隠居した僕は、スタート地点であるサ=イショ村にてスローライフを満喫している真っ最中であった。
今日も僕は麗らかな日差しの中、カウチに座って優雅にモーニングコーヒーを啜っていたのだが、
「チイト! 大変なことが起きたわ!」
家の中にいてもわかるほどに大きく、緊迫した少女の声であった。
彼女の名前はパトナ。この世界にやってきたばかりで何も分からなかった僕に、手を差し伸べてくれた心優しい少女である。
パトナは僕の家に飛び込むと、肩で息をしながら精一杯の声量で叫んだ。
「村長が殺されているの!」
□ ■ □
僕はパトナに連れられて村長の家に向かった。そこには既に人だかりができている。十人位はいるかな?
「意外と少ないわね」
朝の忙しい時間だからね。しょうがないね。
僕とパトナが到着すると、何事かと野次馬していた村人たちがさっと道を開けてくれた。
「チイトさんが来たよ」
「おお、彼が来たならこの事件は解決したも同然だな!」
「パトナは早くツケを払え」
「あと風呂場で大音量で歌うのやめろ」
様々な声をかけられながら、僕たちは村長の家に入った。いや、パトナは家に入らなかった。外で村人たちと口論していた。僕はパトナを置いていくことにした。
廊下の奥のドアを開けると、目の前には明らかな異常事態が広がっていた。
部屋の真ん中にはサ=イショ村の村長、マネロンが倒れている。
腹のあたりで真っ二つに切り裂かれていて、これだけなら過酷なタイプの異世界あるあるといった死に様なのだが、周辺の光景は異常そのものであった。
僕の正面、壁があったであろう場所が、抉り取られたかのように大きく崩れている。まるで古龍がここで剛爪を振るったみたいな、強大な暴力の跡が残されていた。
「まるで古龍がここで剛爪を振るったみたいね」
いつの間にか戻っていたパトナが、僕の背中越しに現場を眺めて呟いた。例えが被ってしまった。なんか嫌だなぁ。
「話し合いは終わったの?」
「チイトがこの事件を解決したらツケはチャラよ」
勝手に決めないでほしいなぁ。
「さぁチイト! バシッと犯人を見つけてイテコマし※1てやりましょう!」
パトナは僕の背中を力強く叩いて激励した。
うまく使われているような気がしないでもなかったが、僕は彼女に頷き返した。
僕はこんな非道なことをする犯人を見逃せる性格ではないのだ。
「スキル【鑑定】!」
僕の声に呼応して、目の前に仮想的なディスプレイが出現した。僕が授かったチート能力の一つだ。
そこには倒れている村長のステータスが余す所なく表示されている。HP、MP、保有スキルに状態異常。あと身長とか体重とか血圧とか、その辺も。
ちなみにこのステータス画面はパトナも見ることができる。僕とパトナはなんかふわっとした力で結びついているのだ。
「血圧がゼロのゼロ……! 死んでいるわ」
「だろうね」
僕たちがどうしてここに来たのか忘れたのだろうか?
そんなことより、と僕はHPの欄を見た。そこには真っ赤な文字で-65535と記載されている。
オーバーダメージ。それも、この世界で観測できる最大値だ。
ここから分かることは一つ。
マネロン村長は、上記を逸するほどの凄まじい力で殺されたということ。
「一撃で、この強さを……?」
隣でステータス画面を見ていたパトナが慄いて一歩後ずさった。
パトナの眼は部屋に残された凄惨な血痕――ではなく、僕の顔をしっかりと捉えている。まさかコイツ、僕を疑ってるのか?
「チイトの仕業だ!」
その時、声が響いた。二階へ続く階段から降りてきた男性の声であった。
「こんな馬鹿げた真似が出来るやつはチイトしかいねェ! お前が俺の親父を殺したんだろう!」
マネロン村長の息子、コアクトーだ。
彼は怒り狂った様子で僕を指差し、口角泡を飛ばした。
彼にはステータス画面が見えていないが、それでもこの異常な現場を見れば常人には出来ない事件であることは明白だ。
だからとてもレベルが高い僕がやったのだと、そう決めつけているのだろう。
確かに僕なら出来る。だが、やるなら絶対証拠が残らないようにする。存在ごと抹消するとか。
犯人は僕じゃないが、やっていないことを証明するのは難しい。さてどうしたものかと悩んでいると、
「チイトさんがそんなことするわけないだろう!」
「彼が何度私たちを救ってくれたと思ってるの!?」
「犯人がチイトさんなわけない!」
パトナに続いて入ってきたらしい村人達が、皆で僕を擁護してくれた。僕は彼らにこんなにも信頼されていたのかと、じいんと胸が温かくなった。
「そうよ! 絶対にチイトじゃないわ!」
パトナもなんだかんだ言って僕を信じてくれているのか、僕を庇うような言葉を発してくれている。さっきは疑いの眼で見つめられたが、あの態度は彼女なりのお茶目といったところだろうか。
「チイトだったらもっと外道極まりない手段を使うわ!」
パトナは僕を何だと思ってるんだ?
「チッ。だったらよォ、真犯人を見つけてみせろよ。アンタならそれくらい簡単だよなァ?」
「当然よ! ほら行くわよチイト! さっさと真犯人を突き止めて、あの憎たらしいコアクトーをドツキマワし※2てやるわ!」
僕が反論するより早く、パトナがコアクトーに啖呵を切った。勝手に言うなとも思うが、僕の気持ちもおんなじだ。やることは結局変わらないしね。
僕は絶対にマネロン村長を殺した犯人を探し出す。そして平和なサ=イショ村を取り戻すのだ。
――――――
【注釈】
※1 イテコマ・す:異世界語で『貴方の奥歯をガタガタ言わせますよ』という意味を持つ
※2 ドツキマワ・す:異世界語において少し暴力的なコミュニケーションを指す言葉
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