コブシ文庫(ピンク)

コブシ

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酒癖

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私の持論。

 「酒癖が悪い奴は、性根がそういう奴」

かなり偏見があるかもしれない。

 「理性のタガを取っ払う、なりたい自分になるための道具」

TVか本でか忘れたけれど、酒とは・・・と、どこかのお偉い先生が言っていた。

だよな~!と、変に納得した。

よく、女性にワイセツな行為をした容疑者が言うセリフ。

 「酒に酔っていて・・・」

いやいやいや、元からアンタの本能がそんなんやて!

お偉い先生のお墨付きにより、元々抱いていた持論が、更に強固なものになった。

という訳で私は、酒癖が悪い人間とは、極力関わらないようにしている。

 私自身は、酒癖は悪くない・・・と思う。

 普段から、話術で人を笑かすのが好きな私。

 酔うと更に、拍車がかかる。

しかし、私が一番危惧しているのは、記憶を無くす程飲んだ次の日。

 流石に最近は、そこまで飲むことはない。

けれど若い頃は、後先考えず無茶な飲み方をしていた。

 仕事先が、気合いであけんかい!みたいな所ばかりだったせいもある。

 翌日、恐る恐る、同席者に聞き込み、記憶の糸を手繰る調査。

ホッと胸を撫で下ろす。

この繰り返しだった若かりし頃。

 何が怖いって、暴力を振るう事、女性へのセクハラの二点。

これだけは絶対に避けたかった。

 私の後輩に、酒癖が悪いと評判のMという男がいる。

 私は昔、あるグループ会社の社長Kさんの付き人をしていた。

 私は初代の付き人で、Mは2番目の付き人だった。

 大学院出のインテリで、どちらかというと私の苦手なタイプだった。

 付き人の引き継ぎの際も、屁理屈ばかりこねて、我慢するのに苦労した記憶がある。

そのせいか、Mとプライベートで飲みに行った事は1度もない。

その後、よくMの酒癖の悪さを耳にしていた。

 年に数回、歴代の付き人10人が、Kさんを囲む会をする。

その会の時は、皆、ホテルに泊まって、遅くまで飲み明かす。

 二次会以降は、Kさんの体調が良ければ皆で行く。

でも、Kさんの仕事や体調によっては一次会でお開き。

 後は、気の会う者同士で個々に行く。

 昨年の会の時。

 Kさんの仕事の都合で、一次会でお開き。

 店を出て、それぞれ泊まるホテルにチェックインしに行く。

タクシーで相乗りして、ホテルまで行く。

その時は、Mと二人で相乗りして行った。

チェックインするのが、皆、バラバラなので、Mと二人っきりになった。

 「ホテルのバーで、一杯やるか?」

 誘わないのもやらしいので、Mを誘ってみた。

 「行きますか。」

 「考えてみたら、Mとサシで飲むん初めてやな?」

 「ホンマですね~。」

 一抹の不安を抱きつつ、Mと飲みに行く事になった。

Mの酒癖。

 絡み方が、シャレにならないらしい。

 私が付き人をしていたKさんの父、先代の付き人をしていたOBのRさん(いかつい方)を本気で怒らせて、新年会の席で、どつかれたらしい。

 「アイツ、ホンマあかんで!」

その話を、Rさんから聞いていた。

 私も、最初はMの事が苦手で、話すのを避けていた。

 歴代の付き人たちの中でも、1人浮いている事が多々あった。

そんなMを見ていると、なんか、可哀想になってきて、最近は話すようになっていた。

ただ、サシで飲むのは初めてだった。

 Rさんの話を思い出し、殴らないようにしなければと、気を引き締めた。

お互い、一次会でそこそこ酒は飲んでいたので、ある程度は酔っていた。

 「お疲れっす!」

 二人グラスを鳴らして、サシ飲みスタート。

 仕事の話、お互い子持ちなので、子供の話などをとりとめもなくしていた。

(40分か・・・。)

そろそろ、話もつきてきた。

 別段、聞いていたような絡み酒でもなかった。

 元々、話もあわないので、そろそろ帰ろうと思っていた。

すると、私の携帯が鳴った。

 電話に出ると、弟分のようにかわいがっていたYだった。

 「コブシさん、今、どこおるんですか?」

 「お~、今、Mと飲んでんねん。」

 Yも、4代目の付き人で、この会に来ていた。

 「へ~、コブシさんがMさんと飲むなんて珍しいですね~。」

このYとは、ノリも合うし、何よりも、ある事がきっかけで、私のファン的な存在だった。

 私が言う事に、いつも声が出んくらい笑ってくれる。

 丁度、Mと飲むのもお腹一杯になってたところ。

 「3人で二軒目行くか!」

 思いがけず、3人で二軒目に行く事になった。

そして、そこでMの酒癖の悪さを知る事になった。

 野郎ばかりで飲むのもなんだから、女の子がいる店を探す事になった。

ホテルから出て、あてもなく3人で歩いていた。

 「あそこ、何かいっぱい店あるみたいですよ!」

 Yが指差したビル。

 外にあるネオン看板に、いくつも店の名前が書いてあった。

 「よっしゃっ!5階の店にするか!」

 「5」

 私の好きな数字。

こういう迷った時、私はいつもこんな決め方をする。

5階のフロアに着いた。

 楽しそうな声が、外にまで漏れている店があった。

 「ここにするか!」

 扉を開ける。

 思いの外、店の中は満席に近い状態。

 「いっぱいですか?」

 「え~と・・・あ、大丈夫です!」

 1つだけボックス席が空いていた。

 Mが向かいに座り、私とYが隣同士に座った。

 「いらっしゃいませ~!」

ホステスさんが二人。

 一人がMの隣、後の一人が、私とYの間に座った。

 私とYについたホステスさんは、チーママらしく30代後半。

 Mの隣には、胸が強調された服を着た20代後半の女性。

 「叶姉妹か!」

 Mが、その子の胸をガン見しながら声を上げた。

 服のせいもあるんだろうけど、確かに、パンパンに胸が張っていた。

 真面目そうなMの反応が、意外だった。

 私やYは、下ネタバンバン話すけど、Mが下ネタ話してるのは、見たことなかった。

 皆で乾杯し、私とYとチーママで、たわいもないバカ話をしていた。

 「も~スミマセ~ン!この人なんとかして下さ~い!」

 向かいのホステスが、笑いながら私たちに訴えかけた。

 見ると、Mが相変わらず、ホステスの胸をガン見しながら、触っていた。

 「お~い!ここはピンサロか!」

 私が笑いながら突っ込んで、我に帰るM。

 「だってコブシさん、見てくださいこの乳!」

 「乳言うな!牛か!」

 結局、Mは最後まで、外だったら捕まるレベルのセクハラを、ホステスさんにし続けていた。

あの真面目そうなMが・・・。

 人間というのは、わからないものだ。
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