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大好きな爺ちゃん

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小学生の頃、休日に家族4人で車に乗って出掛ける時。


低学年だった弟は必ず出掛ける目的地までの道順を地図で調べていた。


そして、助手席に座り、運転するアイツに道順を「これ右!あ、そこを左!」とナビをする。


「鉄也は頼りになるな~!」


かたやボクは乗り物酔いしやすかったので、ほとんど寝ていた。


だけど、寝てない時もあるわけで、弟のテキパキとナビするのを見ているのがイヤで寝たフリをして目を閉じていた。


「公一は寝てばっかりやな。」


笑いながら話すあいつらの言葉。


いや、起きてるけどね。


聞いてるけどね。


どうせボクなんて・・・


兄弟間で起こる日常的な小競り合い。


「お前は兄貴だろうが!」


いつものようにアイツに怒鳴られて叩かれる日々。


いつしかアイツの顔色を窺うような子供になっていた。


ただただアイツが怖くて仕方なかった。


いつしか家族の中に居ても窮屈に感じるようになっていた。


それでも、爺ちゃんだけは違った。


いつでもボクの事を気にかけてくれた。


ウチの婆ちゃんは入院するほどではないけど、精神病なのか頭がおかしかった。


だからか、爺ちゃんと婆ちゃんは別居していた。


ボクが物心ついた時からだったので、なんで一緒に住まないのかな?と疑問に思っていた。


爺ちゃんは囲碁が好きで、いつも黒と白の石を並べた盤の前で座っていた。


ボクはそんな爺ちゃんが大好きだったので、いつも側にいた。


ボクは五並べしか知らないので、爺ちゃんとよくやっていた。


わざと勝たせてくれる事がほとんどだったけど、たまに爺ちゃんが勝つ事もあった。


勝負事に異常な程、負けず嫌いだったボクは、よく負けが確定する前に盤上をぐちゃぐちゃにしていた。


優しい爺ちゃんもダメな事はダメだ!と、真剣にボクを怒った。


ボクは、爺ちゃんなんか嫌いだ!と言って2階の自分の部屋に駆け上がり、ふて寝をしていたっけな。


「爺ちゃんなんか死んだらいいんだ!」


そうやって呟いた後、本当に爺ちゃんが死ぬ事をリアルに想像したボク。


「神様ごめんなさい!今のは取り消しして下さい!」


大好きだった爺ちゃんがいなくなってしまう事が悲しくて、よく泣いていたっけな。


あの涙とアイツに殴られて泣いた涙は、きっと成分が違うんだろうなと思っていた。


今になって思うと、爺ちゃんはボクの事を真剣に考えて、囲碁だけではなく、生活面でもきちんとした大人になって欲しいと願って怒ってくれていたんだなとしみじみ思う。


でも、ある日、たった一人の味方だった爺ちゃんが倒れてしまった。
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