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出会い
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「・・・7~!8~!9~!10っ!」
レフリーが両手を交錯してゴングが打ち鳴らされる。
「弘、お前もう辞めた方がいいんじゃないか。」
男の名は中村弘。連敗中の嚙ませ犬ボクサー。
控室でバンテージを外しながら、トレーナーは呟くように哀れんで弘に言った。もう何度このセリフを聞いたのかさえもカウントしたくなかった。負けることに何の感情も抱かなくなってきている。
初めて負けた時。悔しくて涙が止まらなかった。いつからかな・・・あんなに燃えるように練習していた自分が無気力になってしまったのは・・
「へ~ボクサーやってるんだ。」
人からこう言われたい。
ただこの言葉を言われたいだけでしがみつくように続けているのかな?
でも、戦績は恥ずかしくて言えない。戦績2勝(2KO)5敗。
リアルアンパンマンみたいに腫れ上がった顔のまま電車に乗って家に帰る。好奇の目で見てくる乗客にも馴れていた。車窓から見える夜の景色をボーっと眺めていた。
自宅のアパートがある駅に着く。歩いて20分。
また、負けちゃったか・・・
いつも試合が終わり、打たれ過ぎて頭が朦朧としながらも、帰趨本能があるのか自宅までの道をオートマチックに帰っていた。弘が駅前の繁華街をオートマチックに歩いていた時。
「ちょっと!止めて下さい!」
女性の怒気を含んだ悲痛な叫び。弘は声のする方を見た。若い女性が2人組のチャラそうな男たちに絡まれていた。行き交う人はいたけれど、皆、関わりたくないのか素通りしていた。
「・・あの。」
オートマチックに弘は近付いて声を掛けた。
「あ?何だよ!文句あんの・・な、何だコイツ!顔化け物みたいじゃん!」
そう言ってチャラそうな男たちは弘の顔を見て気味悪がり逃げていった。
「あ、ありがとうございます!あの男たちスゴくしつこかったんです!」
気の強そうなサラリとした長い髪の毛が印象的な美しい女性だった。
「いや、僕は何もしてないんですけどね。僕の顔見て逃げていっただけですから・・」
弘は殴られて腫れた顔でうまく喋れず、女性がキチンと聞き取れたか心配だった。
「・・で、でも、どうしたんですか、その顔?」
「あ、ぼ、僕、ボクサーなんです。今日、試合だったんで・・」
女性は笑っていた。
「僕ボクサーなんですって、ダジャレですか?」
意図せずダジャレを言っていた事に気付いた弘。このシリアスなタイミングでのダジャレに女性は笑いのツボにハマったのか笑い続けていた。
「・・おもしろい人!え、ボクサーなんですか?今日試合だったんですか?」
「はい、でも試合は負けました・・」
「そうなんですか・・・。あ、あの~私、何かお礼がしたいです!失礼ですけど試合終わって食事されたんですか?」
「いえ、まだですけど・・」
「じゃあ、よければご馳走させて下さい!私、父がボクシングジムの会長なんです!だからボクサーが減量で大変なの小さい頃から見てきたからよくわかるんです!お腹空いてるんじゃないですか?」
「え、そ、そうなんですか?」
思いがけない女性の言葉に驚いたけれど、弘に断る理由はなかった。近くのファミレスに入った2人。
「父のジムは藤本ジムって言います。聞いた事ありますか?」
藤本ジム?確か会長はアマチュアの世界で有名な方で、アマチュアで実績があるプロ選手が何人かいたなぁ・・・
「1つの事に打ち込んでいる人って、すっっっごく尊敬してるんです!私が中途半端で続かない人間だから・・」
弘は“っ”の部分が可愛いなと思った。
女性はすごく綺麗な方で、笑うとまた違った美しさをかもし出す不思議な魅力があった。
「でも、僕は負け続けの情けないボクサーなんです・・」
「そんな事ないです!ボクサーをやってる時点で尊敬します!じゃあ!私が勝利の女神になってあげます!そしたら本当のお礼になるでしょ?食事だけではお礼した気がしないんで!」
「・・・え?」
「だって、誰も助けてくれなかったのに、あなただけが助けてくれたんだもん!だから次の試合が決まったら教えて下さい!私、応援に行きます!これ私の名前と連絡先です!」
弘は減量が終わり、食べたかったカルボナーラを食べた。
初めて出会った女性に食事をご馳走になる。
非日常の出来事。
女性は藤本美里。歳は弘よりも3つ下の22歳。
美里さんか・・・
思いがけない出会い。
綺麗な女性だったな・・・勝利の女神・・か。でも、お父さんが藤本ジムの会長してるって言ってたなぁ・・
今までの負け続けの自分。
俺、今日で何連敗だっけ・・・1,2,3・・5連敗か。
18歳で小さな手に大きな夢を握りしめ大阪から上京。19歳でプロデビュー。2連続KO勝ちして、スポーツ新聞の小さな記事になった事もある。
いつからこんなんなったのかな・・そりゃ引退勧告されるよな・・・
でも、女性の為に次は勝つんだ!って、何か動機が不純だよな・・・
若干の後ろめたさを感じつつ眠りについた弘。
レフリーが両手を交錯してゴングが打ち鳴らされる。
「弘、お前もう辞めた方がいいんじゃないか。」
男の名は中村弘。連敗中の嚙ませ犬ボクサー。
控室でバンテージを外しながら、トレーナーは呟くように哀れんで弘に言った。もう何度このセリフを聞いたのかさえもカウントしたくなかった。負けることに何の感情も抱かなくなってきている。
初めて負けた時。悔しくて涙が止まらなかった。いつからかな・・・あんなに燃えるように練習していた自分が無気力になってしまったのは・・
「へ~ボクサーやってるんだ。」
人からこう言われたい。
ただこの言葉を言われたいだけでしがみつくように続けているのかな?
でも、戦績は恥ずかしくて言えない。戦績2勝(2KO)5敗。
リアルアンパンマンみたいに腫れ上がった顔のまま電車に乗って家に帰る。好奇の目で見てくる乗客にも馴れていた。車窓から見える夜の景色をボーっと眺めていた。
自宅のアパートがある駅に着く。歩いて20分。
また、負けちゃったか・・・
いつも試合が終わり、打たれ過ぎて頭が朦朧としながらも、帰趨本能があるのか自宅までの道をオートマチックに帰っていた。弘が駅前の繁華街をオートマチックに歩いていた時。
「ちょっと!止めて下さい!」
女性の怒気を含んだ悲痛な叫び。弘は声のする方を見た。若い女性が2人組のチャラそうな男たちに絡まれていた。行き交う人はいたけれど、皆、関わりたくないのか素通りしていた。
「・・あの。」
オートマチックに弘は近付いて声を掛けた。
「あ?何だよ!文句あんの・・な、何だコイツ!顔化け物みたいじゃん!」
そう言ってチャラそうな男たちは弘の顔を見て気味悪がり逃げていった。
「あ、ありがとうございます!あの男たちスゴくしつこかったんです!」
気の強そうなサラリとした長い髪の毛が印象的な美しい女性だった。
「いや、僕は何もしてないんですけどね。僕の顔見て逃げていっただけですから・・」
弘は殴られて腫れた顔でうまく喋れず、女性がキチンと聞き取れたか心配だった。
「・・で、でも、どうしたんですか、その顔?」
「あ、ぼ、僕、ボクサーなんです。今日、試合だったんで・・」
女性は笑っていた。
「僕ボクサーなんですって、ダジャレですか?」
意図せずダジャレを言っていた事に気付いた弘。このシリアスなタイミングでのダジャレに女性は笑いのツボにハマったのか笑い続けていた。
「・・おもしろい人!え、ボクサーなんですか?今日試合だったんですか?」
「はい、でも試合は負けました・・」
「そうなんですか・・・。あ、あの~私、何かお礼がしたいです!失礼ですけど試合終わって食事されたんですか?」
「いえ、まだですけど・・」
「じゃあ、よければご馳走させて下さい!私、父がボクシングジムの会長なんです!だからボクサーが減量で大変なの小さい頃から見てきたからよくわかるんです!お腹空いてるんじゃないですか?」
「え、そ、そうなんですか?」
思いがけない女性の言葉に驚いたけれど、弘に断る理由はなかった。近くのファミレスに入った2人。
「父のジムは藤本ジムって言います。聞いた事ありますか?」
藤本ジム?確か会長はアマチュアの世界で有名な方で、アマチュアで実績があるプロ選手が何人かいたなぁ・・・
「1つの事に打ち込んでいる人って、すっっっごく尊敬してるんです!私が中途半端で続かない人間だから・・」
弘は“っ”の部分が可愛いなと思った。
女性はすごく綺麗な方で、笑うとまた違った美しさをかもし出す不思議な魅力があった。
「でも、僕は負け続けの情けないボクサーなんです・・」
「そんな事ないです!ボクサーをやってる時点で尊敬します!じゃあ!私が勝利の女神になってあげます!そしたら本当のお礼になるでしょ?食事だけではお礼した気がしないんで!」
「・・・え?」
「だって、誰も助けてくれなかったのに、あなただけが助けてくれたんだもん!だから次の試合が決まったら教えて下さい!私、応援に行きます!これ私の名前と連絡先です!」
弘は減量が終わり、食べたかったカルボナーラを食べた。
初めて出会った女性に食事をご馳走になる。
非日常の出来事。
女性は藤本美里。歳は弘よりも3つ下の22歳。
美里さんか・・・
思いがけない出会い。
綺麗な女性だったな・・・勝利の女神・・か。でも、お父さんが藤本ジムの会長してるって言ってたなぁ・・
今までの負け続けの自分。
俺、今日で何連敗だっけ・・・1,2,3・・5連敗か。
18歳で小さな手に大きな夢を握りしめ大阪から上京。19歳でプロデビュー。2連続KO勝ちして、スポーツ新聞の小さな記事になった事もある。
いつからこんなんなったのかな・・そりゃ引退勧告されるよな・・・
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若干の後ろめたさを感じつつ眠りについた弘。
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