Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−

I ∀

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【幕間】

第10話:「Kitchen Aria」

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 ネストの迷宮を抜け、いくつも枝分かれした地上への通路のうちの一つを辿って――  
 アッシュは、地上へと足を踏み出した。  

 荒廃した風が、顔を撫でる。  
 吹き溜まりの埃とさびの匂いが混じったこの空気――それを嫌う者も多いだろう。  
 だが、アッシュにとっては人工の閉塞空間より、よほど心地よい。  

 四番街への帰り道。  
 瓦礫に埋もれたスラムの通りを歩きながら、アッシュはふと空を見上げた。  
 空は鈍色にびいろで、どこまでも濁っていたが、それでも“見える空”のある暮らしを、地下の連中よりは幸運だと感じていた。  

 この街の住人たちも、きっとそう思っている。  
 口は悪く、手癖も悪い奴らばかりだが、地下よりも、ずっと――「生きている」。  

 その中でも特に雑多で騒がしい四番街の一角。  
 そこにある、小さな拠点の前でアッシュは足を止める。  

「……帰ったぜ」  

 ドアを開けると、室内は静まり返っていた。  
 誰の気配もなく、照明は切れ、ただ埃の匂いだけが染みついている。  

「……アイツは、帰ってねぇか」  

 アッシュは頭を掻いて、靴を蹴り脱ぎながら呟く。 
 腹の虫が、タイミングを見計らったように鳴る。  

「ちっ、腹減ったな」  

『そういえば、今日まだ何も食べてないもんね』  

 脳内に響くのは、AI――アリアの声。  
 いつものように、調子外れで、人間くさい。  

「あぁ……アイツがいたら、何か作らせようと思ってたんだがな」  

『私が作ろうか?』  

「は?」  

『レシピは完璧。
 あんたはその通りに動けばいいだけ』  

 アッシュは数秒だけ天井を睨み、それから諦めたように肩をすくめた。  

「……面倒くせぇけど、背に腹は代えられねぇな」  

 * * *

 三十分後。  
 キッチンのテーブルには、見た目だけは見事な一皿が完成していた。  

「……おお、見た目は上等じゃねぇか」  

『ふふん。AIの実力、舐めないでよね!』  

 アッシュは期待と警戒が入り混じった表情で、それを一口食べる。  

「……なんだ、これ?」  

『え?』  

「おい……砂糖、入れてねぇよな?
 なんで、こんなに甘ぇんだよ……ッ!?」  

『ちょっと待って、そんなはず……っ』  

 アリアは慌てて義眼オウルアイのセンサーを起動し、皿の成分を分析する。  

 ――甘さ:80%、酸味:20%、旨味:……0%  

『な、なにこれ!? バグってる!?』  

 アッシュはため息を吐き、皿を見下ろす。  

「……はぁ。まあ、慣れりゃイケるかもな」  

『マズいなら食べなくていいわよ』  

「いいさ――空腹っていうスパイスがあるからな」  

『ふんっ……』  

 その時だった。  
 ガチャリ、と玄関のドアが開く音。  

「――帰ったぞー」  

 間延びした声が、靴音とともに部屋に響いた。  

「おせぇんだよ、もう腹いっぱいだぜ」  

 アッシュは溜息をつきながら皿を押しやった。  
「次は、絶対アイツに作らせる」と心に決めながら。 




――See you in the ashes... 
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