Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−

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4章:【Desperado】

第49話:「無敵の男」

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――地下・ネストシティ・融合炉格納層。

 アッシュとセヴェルの激しい肉弾戦が続いていた。

 金属のきしむ音、破砕するコンクリート、焼け焦げた空気のにおい――。

 アッシュの拳がセヴェルの顔面をとらえる。だが、セヴェルは怯まず、頭突きで返す。衝撃で両者がよろけた刹那、セヴェルの踵がアッシュの脇腹をえぐるように突き刺さる。

「チッ……てめぇ、まだ動けるのか」

 血を吐きながらアッシュが唸る。

 セヴェルの拳が振り抜かれ、空気を裂いた。だが、それをかわしたアッシュは一瞬の隙を突き、膝蹴りを顎に叩き込む。

 ごきりと音がして、セヴェルがぐらついた。

「……ふっ、いい動きだ」

「まだ終わってねぇぞ」

 拳と拳、蹴りと蹴りが交差する。
 強化義肢と薬物強化の肉体がぶつかり合い、格納層の床が次々に砕けていく。

 だが――

 両者の動きが、ついに止まった。

 荒い呼吸……剥き出しの鋼と、血まみれの皮膚。

 静寂が訪れたその瞬間、アリアの声が耳元を打った。

『……アッシュ。ケインが……死んだわ……』

 アッシュは短く息をつき、静かに呟く。

「――あんたの相棒、死んだらしいぜ」

 セヴェルは、沈黙の中でふっと笑った。

「……どうやら、俺たちは負けたようだな」

 アッシュは肩をすくめ、疲れたように応じる。

「まだやるってんなら、相手になるぜ。
 ……もう、薬の効果も切れてるだろ?」

 セヴェルはゆっくり首を振った。

「いや――次の遊び相手が来てるらしい」

「……なに?」

 セヴェルは口元をゆがめ、ニヤリと笑う。

「気づかなかったのか? 
 あの女の仲間が、すでにここを囲んでる」

 直後、アリアの声が割り込んだ。

『アッシュ、本当よ。リヴィアが“もしもの時”に備えて、“百龍”を派遣してたみたい』

 アリアの義眼オウルアイが周囲の情報を解析し、データがアッシュの視界にリンクされる。
 出口はすでに、すべて塞がれていた。

 セヴェルはゆっくりと立ち上がる。
 そして、アッシュに背を向けたまま言った。

「そういうわけだ……
 ふっ、お前との戦いは、悪くなかったぜ」

 アッシュは目を細める。

「行くのか……あんた、死ぬぜ」

 だが、セヴェルは振り返らず、静かに言った。

「死にに行くんじゃねぇのさ……
 俺の中に、まだ“何か”が生きてるのか。
 それを、確かめに行くんだよ」

 アッシュはわずかに口角を上げた。

「……どっちが命知らずだか」

 セヴェルは足を止めぬまま、言葉を落とす。

「最後に教えてやる。この薬を作ったやつの名――
 “ゼノ”って名乗ってたぜ」

 ――その瞬間、アッシュの表情が凍りついた。


「……ゼノ、だと……?」


 セヴェルは懐から取り出した錠剤を一粒再び飲み込んだ。

「じゃあな、ヒーロー」

 その姿は、薄闇の中へとゆっくり溶けていく。
 そして――
 死神の影は、虚空へと消え去った。


 * * *

 ――後に、セヴェルの遺体が発見された。
 顔には、どこか満ち足りたような笑みが残されていたという。

 彼が巻き添えにした“ヴァイロン”の数は、十を超えていた。

 無敵の男。
 ――そう呼ばれるには、十分な最期だった。




――See you in the ashes...
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