霹靂の魔法使い

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第二話 炎と雷

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 いつもと変わらない学院の朝。いや、今日はいつもより学院が騒々しくなっているようだ。

「なぁ、今日だろ?」

「ああ、あの霹靂が帰ってくる」

「確か……3年生の先輩を病院送りにしたのよね」

 と、このように学院中で噂されていた。生徒達が不安を漂わせる中、突然校庭の方から大声が聞こえてきた。

「ウォォォォオオオオオ!!!!!!!!」

 そこには、グラウンドの外周を颯爽と風魔法で飛ぶリオナとその後ろを巨大な先代学院長像を担ぎながらついていくアデンがいた。先代学院長像といえば、高さ2m、重さは500kg近くあるのだが、アデンはそれを背負い、時速80kmで飛ぶリオナについてみせていた。

「アデン!どうした?スピードが落ちて私と少し距離が出てきているぞ?」

「無茶言うなッ!ハァ、ハァ、こっちはもう限界なんだよ!」

 これは先日のアデンが起こした事件に対する刑罰だった。アデンは停学を免除するために、リオナから課された罰を受けなくてはならなかった。

「ほれ、あと一周だ。そろそろアイツも登校してくる。そんな姿ライナに見られたら……ぷっ、あははは!ウケる」

「クソッ、オリャァァアアアア!!!!」

 嘲笑うリオナを前に怒りが頂点に達したアデンは残る力を振り絞ってスパートをかける。そしてラスト一周を走り切り、ようやく解放されたアデンは既に立てなくなり、横になっていた。

「そんなんでくたばってるようじゃあは果たせんぞ?……さて、私は戻るから後始末はしておけよ~」

 そう言い残して、突然吹き荒れた風と共にアデンの目の前から消え去った。

「ちっ、余計な世話だっての」

 アデンは起き上がり、服についた砂埃を払い落とす。運動着のため汚れていても問題は然程ないが、汗の汚れまで染み付いているのを見ると、アデンは少し肩を落とす。

「(洗濯も自分でやらないといけないからなぁ)」

バチッ

「ーーッ!」

 一瞬だった。

「んだよ、反応しやがって」

 普通の人間ならば誰も今起きたことがすぐには理解できないだろう。彼がつまらなさそうに肩を落としたその時には、すでに終わっていたのだから。

「停学明け早々に仕掛けてくるとは本当に反省してきたとは思えねぇな、ライナ」

 アデンが呆れたように言った相手は、昨夜謹慎処分から解放されたライナ・フェリックスだった。吸い込まれるような漆黒の髪に、威圧を放つ金色の瞳の彼は、アデンを見ると少し微笑んだように見えた。

「反省?俺は俺のを示しただけだ。反省もクソもねぇよ。」

「はぁ、おめぇはそんなことばっか言ってるからおばさんが心配してるんじゃねぇか。一度実家に帰ったらどうだ?」

「あそこはもう俺の住むところじゃねぇさ。懐かしいとは思うが、俺の進む道には必要ねぇ。卒業後には出て行くつもりだしな」

「出て行くって、どこに行くんだよ。フェリックスの伝手があるのにもったいねぇことで。」

「ふん、フェリックスなんざただの飾りさ。過去の栄光に縋り付く堕ちた名だ。」

 ライナは、言い放つ。フェリックスの家系は古くからあった。その起源は記録に残っていないが、元は別大陸の移民という説もある。

「とはいえ、学院長もフェリックスだ。普通に今もすげえとは思うけどな。」

「それは他者からの感想だ。当事者からすればそれもまだ弱い。かつての英雄が偉大すぎたんだ。後の者はその遺産に頼るしかない。俺はそれが嫌なだけだ」

「ふーん。すげえ一族ってことしか知らねぇから、よく分かんねえけど。ウチの家族はみんな自由人ばっかだけどな。ハハハ」

「田舎領主のフラマ家なんかと比べるな」

「んだとぉ!」

「やるか!」

 次第に盛り上がって行く二人はお互いに魔法を準備する。一人は炎を、もう一人は雷を双方の魔法がぶつかる瞬間、彼等の足元に大きな穴が空いた。

「「ッ!!」」

「いけませんな。教員の見ていないところで魔法を使うのは、罰として反省文100枚を課しましょう。」

 ふわふわと箒に乗って現れたのは、魔道具のスペシャリストとも呼ばれるライナ達の学年主任、ウムル・リートンだった。
 ウムルは学院の中では厳しい方で、生徒達の監視を怠らない人だった。また、彼女の作った魔道具があちこちにあるこの学院では、生徒達の校則違反を見つけることなど容易いものだった。

「はぁ、まったく。帰ってきて早々校則違反とは、先が思いやられますね。ミスターライナ。」

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