聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

文字の大きさ
11 / 51
第1章 聖女誕生

第11話 王宮にて

しおりを挟む
 約3時間後、カインが応援の騎士を引き連れて戻って来た。

 待ってる間は何事も無く、警戒していた賊の仲間は居なかったようだ。

「カイン、ご苦労。賊共は纏めて馬車に乗せろ。準備出来次第、王都に向かう」

「リシャール様、こちらを。レイモンド様から預かりました」

 レイモンドは長年、リシャールの側近を務めている。信頼の置ける腹心の部下だ。そのレイモンドからのメモに目を通したリシャールは、

「やっぱりな...」

 獲物を捉えた鷹のような目をしてほくそ笑んだ。


◇◇◇


 空が茜色に染まる頃、西日に照らされた王都の外壁が見えて来た。王都をグルっと囲い外敵から守るように聳える外壁は、優に10mを越える高さを誇り、圧倒的な存在感を放っている。

 セントライト王国の王都エストリアは人口20万人を越える大都市である。都市部中央の小高い丘の上に聳える王宮を軸に、東西南北へと放射線状に街路が伸び、それに沿ってキレイに区画整理された街並みが広がっている。

 王都には東西南北に4つの通用門が設置されている。リシャール達一行は王都で一番利用者の多い東の通用門から入ることにした。一般向けの入門許可を求める長蛇の列を尻目に、貴人専用のゲートからすんなり中に入る。

「ふぅ、やっと着いたな」

 リシャールがホッと一息ついていると、その横でセイラが目をキラキラさせてハシャイでいる。

「うわぁ、こんな風になってるんだ~!  人が沢山居るな~!」

「初めてだとそう思うものか」

 リシャールにしてみれば見慣れた光景なので、セイラの反応が新鮮に見えた。
 
「まぁ取り敢えず、ようこそ王都へ。早速王宮に行こうか」

 王宮は別名『白鳥宮』と呼ばれる。貴重な白大理石を分断に取り入れた華麗な意匠と、某ネズミの国を思わせるメルヘンチックな外観が合わさって、夕闇が迫る中に白く浮かび上がる様は幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「凄えな...」

 セイラが圧倒されたように呟いた。

「気に入って貰えたようでなによりだよ。さ、中に入ろうか」

 リシャールがまだボーっとしているセイラの手を引いた。

「リシャール様、お疲れ様でした。お待ちしておりましたよ」

「レイモンド、遅くなった。セイラ、彼はレイモンドといって僕の側近を務めている。レイモンド、彼女がセイラだ。よろしく頼む」

「あ、あぁ、セイラだ。よろしく」

「レイモンドです。こちらこそよろしくお願いします」

 レイモンドは年の頃はリシャールと同じくらいだろうか。少しくすんだような銀髪に緑の瞳、スラリとした長身に人懐こそうな笑みを浮かべている。リシャールに負けず劣らずの美男で、2人並べばさぞや絵になることだろう。

「これはなんとも麗しい方だ。リシャール様が夢中になるのも無理ありませんね」

「レイモンド、余計なこと言うな」

「これは失礼を」

 セイラが「やっぱりローリーじゃねぇか」と囁く。リシャールが窘めるが、レイモンドは涼しい顔である。

「レイモンドとは乳兄弟でね。優秀な奴ではあるんだがチャラいのが欠点なんだ。では僕の執務室に行こうか」

 後ろでレイモンドが、チャラくないですよ~ と言ってるのを無視して進む。

 リシャールの執務室は華美な装飾がほとんど無く、落ち着いた雰囲気の実務的な部屋だった。早速レイモンドに確認する。

「レイモンド、神殿への根回しは済んでいるな?」

「はい、明日の早朝に『聖女認定の儀』を執り行うこと、神官様方に了承済みです」

『聖女認定の儀』とは、神殿の祈りの間で聖女候補者が神に祈りを捧げ、神力の強さを示すというもので、初代聖女の故事に由来している。聖女候補者には聖水を作り出す事と、この儀式を司る事の両方が求められる。

「良し。ところで大神官様のご容態は相変わらずか?」

「はい...なにせお年を召していらしゃいますので回復魔法もあまり効果が無く...」

「そうか...そうだっ!  セイラっ!」

「な、なんだよ!?」

 今までの話についていけず、ボケっとしていたセイラは、いきなり振られてビックリした。

「君の回復魔法を試して欲しい。良いかな?」

「へっ!? 誰に!?」

「大神官様にだ。レイモンド、早速手配してくれ」

「いやいや、まだ聖女候補でしかない方を大神官様に合わすなんて神殿側が了承しませんよ。ましてや回復魔法を掛けるだなんて」

「セイラの魔力は桁違いだ。試してみる価値は十分にある。どうせこのままじゃジリ貧なんだ。手遅れになる前に試せる物はなんでも試してみるべきだ」

「はぁ、わかりましたよ。神殿に掛け合ってみます」

「頼む。セイラ、今日は疲れたろう?  部屋を用意してあるから、夕食までゆっくり休んでくれ。夕食は一緒に食べよう」

「あ、あぁ、分かった」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

急に王妃って言われても…。オジサマが好きなだけだったのに…

satomi
恋愛
オジサマが好きな令嬢、私ミシェル=オートロックスと申します。侯爵家長女です。今回の夜会を逃すと、どこの馬の骨ともわからない男に私の純潔を捧げることに!ならばこの夜会で出会った素敵なオジサマに何としてでも純潔を捧げましょう!…と生まれたのが三つ子。子どもは予定外だったけど、可愛いから良し!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...