聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

文字の大きさ
24 / 51
第2章 聖女と聖獣

第24話 食欲旺盛

しおりを挟む
 タチアナは慌ててその生物をセイラから引き離す。

「こらっ! そんなの食べちゃダメでしょ! ペッしなさいペッ!」

 そんなのってなんだ!? セイラは文句を言いたかったが痛さでそれ所じゃない。幸い甘噛みだったのか出血はしていないが痛いもんは痛い。セイラが睨み付けると、タチアナに叱られシュンとしている。

「セイラ様ぁ、申し訳ございません。お怪我はありませんでしたかぁ~?」

「いや怪我は無いがチチ、やっぱりそいつは危険な生物なんじゃねぇか?」

「う~ん、でも私には噛んだりしないし大人しいんですよね~♪ お~よちよち良い子ちゃんでちゅね~♪ それとタチアナですぅ~」

「...チチ、まさかお前、そいつををここで飼うつもりか?」

 セイラが信じられないとばかりにタチアナを見る。

「えっ!? ダメですか!? それとタチアナですぅ~」

「ダメに決まってるだろう? そんな得体の知れないモン。なぁ、ロ...リシャール王子?」

「そんなぁ~」

 リシャールもそうは思うが実際の所、こいつの正体が不明のまま放り出す訳にはいかないことも事実だろう。

「まずはこいつを鑑定して貰おう。タチアナ、鑑定スキル持ちの神官様は今日いらっしゃるかな?」

「はい~ 常にお一人は常駐されておりますので~」

「では鑑定を頼もう。タチアナ、抱えて行けるか? 重くないか?」

「大丈夫です~ この子軽いんで~」

 タチアナがそう言った時だった。その生物がいきなり飛んだ。

「あっ! どこ行くの~!? ちょっと待って~!」

 慌てて追い掛ける。生物は菜園に飛んで行って、トマトやキュウリを育てているエリアの所で止まった。

「クゥッ!」

 トマトに齧り付いていた。まさかこの見た目でベジタリアン!? 牙生えてるし爪も鋭いし、肉食にしか見えないが雑食なのかも知れない。リシャールはそう思った。

「お腹空いてたんですねぇ~」

「うわぁ、美味しそうに食ってんな~」

 口の周りをトマト汁だらけにしながら一心不乱に食べている。トマトを食べ終わると今度はキュウリの方を向いて、

「クゥッ!」

「キュウリも食べたいの?」

「クゥッ!」

 キュウリも美味しそうにポリポリと食べている。

「ホント美味しそうに食べますよねぇ~ 私、てっきりこの子肉食だとばかり思ってたんですけと、違うんですかねぇ~?」

 タチアナもリシャールと同じように思ってたみたいだ。

「ど~せならもっと色々食べさせてみっか?」

 セイラがまた面倒なことを言い出した。

「いやいや、こいつの鑑定が先だろ?」

「いいじゃねぇか。すぐ隣だし」
 
 確かに次は果物エリアで、リンゴ、梨、ブドウなどが撓に実ってる。リシャールとしてはさっさと終わらせたいし、ぶっちゃけこいつの食性なんぞどうでも良かったのだが、

「仕方ないな。これで最後だぞ」

「おう!」

 セイラが楽しそうなんで折れることにした。結果、与えた果物も全て平らげた。単に食い意地が張ってるだけなんじゃないのか? お腹が一杯になったのか、再びタチアナの腕の中で目を閉じている姿を見ながら、リシャールはそう思っていた。

「だがこうやって寝てると可愛いと言えなくもねぇか?」

 そう言ってセイラが頭を撫でようと手を伸ばした時だった。

 ガブッ!

「いってぇぇぇっ!!!」

 手に噛み付かれたセイラの絶叫が再び響き渡った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

急に王妃って言われても…。オジサマが好きなだけだったのに…

satomi
恋愛
オジサマが好きな令嬢、私ミシェル=オートロックスと申します。侯爵家長女です。今回の夜会を逃すと、どこの馬の骨ともわからない男に私の純潔を捧げることに!ならばこの夜会で出会った素敵なオジサマに何としてでも純潔を捧げましょう!…と生まれたのが三つ子。子どもは予定外だったけど、可愛いから良し!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...