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第2章 聖女と聖獣
第30話 不穏な気配
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王都から馬車で約3日、霊峰の麓にある町エインツに諜報部隊の総勢10名が到着した。
目の前には霊峰『ラース・ダシャン』を含む峻嶺な山脈が広がっている。
彼らはこれから2名ずつに分かれ、それぞれが領主館、冒険者ギルド、宿屋、酒場などに散って情報収集を行う。
当然ながら全員が目立たない町民の姿である。諜報部隊の隊長グレンは部隊員を前に最終確認を行っていた。
「各員の持ち場に関しては以上だ。質問のある者はいるか?」
「集める情報は邪竜関連のものだけでよろしいのでしょうか?」
「いや、もう一つある。アズガルド帝国に関してもだ」
部隊員の間に緊張が走る。
アズガルド帝国とは、目の前に広がる山脈を国境にして、セントライト王国と隣接している軍事国家である。表立って敵対している訳ではないが、国境付近でのいざこざは絶えず続いている。
帝国の狙いは鉱山資源で、この付近の山からは良質なミスリルが産出される。ミスリルで作った武器防具は、高価だが非常に頑丈なので求める人は多い。
「不穏な動きをしているという噂がある。合わせて調査してくれ」
「了解しました」
部隊員達と別れた後、宿屋の1室を仮の前線本部とし、盗聴防止の魔道具や進入阻止のトラップを設置し終えたグレンは、この町に着いた時の異様な雰囲気を思い出していた。
淀んだような、粘り着くような濃い瘴気に町全体が覆われ、昼間なのに薄暗く感じられる。町行く人々は皆一様に元気が無く、まるで何かを恐れているかのような印象を受けた。それに、
「っ!」
この時折感じる地面の揺れは一体なんだろう? それに伴って響いて来るこのうなり声のようなものは?
グレンは言い知れぬ不安に襲われ身震いした。
◇◇◇
セントライト王国の南側には肥沃な穀倉地帯が広がっている。その大地を巡り長年に渡って対立しているのが、隣国であるルーフェン王国で、現在は停戦状態にある。
隣国との国境沿いに構えた砦の前に、王家の紋章をあしらった豪華な馬車が止まった。
馬車から降り立ったのは、軍服を身に纏った金髪碧眼の美丈夫で、リシャールの兄にあたる、セントライト王国の王太子エルヴィン・セントライトその人である。
表向きは視察という名目だが、王太子自らが停戦状態にあるとはいえ、最前線まで赴いて来たのにはもちろん理由がある。
ここ最近、隣国が停戦協定を無視するかのような挑発行為を繰り返しているのである。
相手の出方次第では再び戦争状態に陥ってしまうので、それを避けるべく相手方とギリギリまで交渉するためにエルヴィンは遣って来たのだ。
交渉が決裂し、戦争状態になったら、エルヴィンはそのまま王国軍の指揮を取ることになる。
「殿下、ご足労頂きありがとうございます」
「将軍、状況はどうなっている?」
砦の守護を任されている将軍は、渋い顔でエルヴィンに告げる。
「良くありません。敵は演習と称して一個師団を国境沿いに展開しております。いつ攻め込んで来てもおかしくありません」
「将軍、まだ『敵』ではない。言葉には気を付けるように」
「はっ! 申し訳ありません」
そう、まだ国境を越えていない以上、相手がどれだけ軍事行動を取ろうとも表立って抗議することは出来ない。
そのために水面下で交渉を進める訳だが、ここまであからさまだと交渉する事自体が難しいかも知れない。
エルヴィンは頭を抱えそうになるのをグッと堪える。北側ではアズガルド帝国が不穏な動きを見せているという。
王国の未来に若干の不安を感じなからも、エルヴィンは目の前の戦いに集中する。
目の前には霊峰『ラース・ダシャン』を含む峻嶺な山脈が広がっている。
彼らはこれから2名ずつに分かれ、それぞれが領主館、冒険者ギルド、宿屋、酒場などに散って情報収集を行う。
当然ながら全員が目立たない町民の姿である。諜報部隊の隊長グレンは部隊員を前に最終確認を行っていた。
「各員の持ち場に関しては以上だ。質問のある者はいるか?」
「集める情報は邪竜関連のものだけでよろしいのでしょうか?」
「いや、もう一つある。アズガルド帝国に関してもだ」
部隊員の間に緊張が走る。
アズガルド帝国とは、目の前に広がる山脈を国境にして、セントライト王国と隣接している軍事国家である。表立って敵対している訳ではないが、国境付近でのいざこざは絶えず続いている。
帝国の狙いは鉱山資源で、この付近の山からは良質なミスリルが産出される。ミスリルで作った武器防具は、高価だが非常に頑丈なので求める人は多い。
「不穏な動きをしているという噂がある。合わせて調査してくれ」
「了解しました」
部隊員達と別れた後、宿屋の1室を仮の前線本部とし、盗聴防止の魔道具や進入阻止のトラップを設置し終えたグレンは、この町に着いた時の異様な雰囲気を思い出していた。
淀んだような、粘り着くような濃い瘴気に町全体が覆われ、昼間なのに薄暗く感じられる。町行く人々は皆一様に元気が無く、まるで何かを恐れているかのような印象を受けた。それに、
「っ!」
この時折感じる地面の揺れは一体なんだろう? それに伴って響いて来るこのうなり声のようなものは?
グレンは言い知れぬ不安に襲われ身震いした。
◇◇◇
セントライト王国の南側には肥沃な穀倉地帯が広がっている。その大地を巡り長年に渡って対立しているのが、隣国であるルーフェン王国で、現在は停戦状態にある。
隣国との国境沿いに構えた砦の前に、王家の紋章をあしらった豪華な馬車が止まった。
馬車から降り立ったのは、軍服を身に纏った金髪碧眼の美丈夫で、リシャールの兄にあたる、セントライト王国の王太子エルヴィン・セントライトその人である。
表向きは視察という名目だが、王太子自らが停戦状態にあるとはいえ、最前線まで赴いて来たのにはもちろん理由がある。
ここ最近、隣国が停戦協定を無視するかのような挑発行為を繰り返しているのである。
相手の出方次第では再び戦争状態に陥ってしまうので、それを避けるべく相手方とギリギリまで交渉するためにエルヴィンは遣って来たのだ。
交渉が決裂し、戦争状態になったら、エルヴィンはそのまま王国軍の指揮を取ることになる。
「殿下、ご足労頂きありがとうございます」
「将軍、状況はどうなっている?」
砦の守護を任されている将軍は、渋い顔でエルヴィンに告げる。
「良くありません。敵は演習と称して一個師団を国境沿いに展開しております。いつ攻め込んで来てもおかしくありません」
「将軍、まだ『敵』ではない。言葉には気を付けるように」
「はっ! 申し訳ありません」
そう、まだ国境を越えていない以上、相手がどれだけ軍事行動を取ろうとも表立って抗議することは出来ない。
そのために水面下で交渉を進める訳だが、ここまであからさまだと交渉する事自体が難しいかも知れない。
エルヴィンは頭を抱えそうになるのをグッと堪える。北側ではアズガルド帝国が不穏な動きを見せているという。
王国の未来に若干の不安を感じなからも、エルヴィンは目の前の戦いに集中する。
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