聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

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第2章 聖女と聖獣

第37話 顕現

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 リシャール達は厚みより速度を重視した作戦を採る事にした。

 騎馬隊を先行させ、まずはエインツの町へ一刻も早く到着する事を優先する。重歩兵含む歩兵大隊は、かなり遅れて到着するので、それまでは先行した騎馬隊が橋頭堡を築きそこを死守するのが狙いだ。

 帝国軍の動向は気になるが、それよりも瘴気に苦しんでいるであろう町民達を、出来るだけ早く救ってあげたいという神殿側の意向が強かったので、こういう形になった。

 当然、神官達も騎乗して向かう事になるが、実は神官の採用基準の一つに馬に乗れる事という項目があるようで、全員が難なくこなしている。

 ゴドウィン大神官まで騎乗して行くと言った時には、さすがにリシャールも驚いたが、

「まだまだ若い者には負けませんぞ」

 と言われてしまえば何も言えなかった。

 神官達の献身に応えるべく、精鋭を揃えた騎馬隊は、帝国軍からの攻撃に晒された時、味方の到着まで体を張って神官達を守る覚悟を固めた。

 かなりの強行軍ではあったが、明日にはエインツの町に着きそうだ。リシャールは側近のレイモンドを伴い先行部隊と行動を共にしている。

 周りからは危険だからと止められたが、神官達を危険に晒している以上、王族としての矜持がそれを是としなかった。

 リシャールは気を引き締めて真っ直ぐ前を見詰めた。


◇◇◇


 リシャール達先行部隊は、通常馬車で約3日は掛かる道程を僅か1日半で駆け抜けるという強行軍でエインツの町に到着した。

 まだお昼過ぎという時間帯にも関わらず、濃い瘴気に覆われた町は、薄暗く陰鬱な雰囲気と淀んだ空気が漂っていた。

「うっ!」

 町に入った瞬間、強行軍で疲れている全員が顔を顰めて町中を見渡す。

「これは酷い...殿下、直ちに瘴気の浄化を開始して良いですかな?」

 一番疲れているはずのゴドウィン大神官がそう言ってくれる。

「お疲れの所申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。騎馬隊、神官様方をお守りしろっ! レイモンド、諜報部隊と合流する。何人か連れて僕に続けっ!」

「「はっ!」」

 リシャールは立て続けに指示を下し、自身は何人かの護衛を連れて町中に突入する。

「レイモンド、諜報部隊が泊まってる宿屋はどっちだ?」

 レイモンドが走りながら町の地図を見て、

「その角を右ですっ!」「殿下っ! こちらですっ!」

 レイモンドの声に諜報部隊の隊長グレンの声が重なる。

「殿下っ! ご無事で何よりですっ! お早いご到着でっ!」

「ご苦労、隊長どんな状況だ?」

「はっ! 帝国軍は未だ動きを見せず、現在も部下が監視中です」

「瘴気の発生元と原因は何か分かったか?」

「申し訳ありません、発生元は山の方からとしか。原因は不明です」

「分かった。ご苦労だった。少し休んでくれ」

「あ、ありがたきお言葉っ!」

 何故動かない? 何を待ってる? 帝国軍の不可解な動きにリシャールが首を捻っていると、町の入口の方から青い光が広がって来た。浄化が始まったなとリシャールは安堵した。

 その時だった。


「グオォォォォッーーーーー!!!!!」


 地の底から響き渡るうなり声と共に、立って居られない程の激しい揺れが襲って来た。

 リシャール達は全員が地に倒れ込んだ。何が起こったのか分からず、ただ呆然と空を見上げた時、

 灰色のウロコを身に纏った巨大な竜の姿がそこにあった。


「グオォォォォッーーーーー!!!!!」


 竜が咆哮する。その威圧で人々は金縛りに遭ったように動けなくなる。

 圧倒的な存在を目の前に人は、ただ恐怖し、地にひれ伏し、命乞いをするしかない。

 本能的にそう感じたリシャールは、ただ一つの事だけを考えていた。

 (タチアナ、ごめん。約束守れそうにないかも)


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