聖女である私を追放する? 別に構いませんが退職金はしっかり払って貰いますからね?

真理亜

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「昔話だと!? なんだ急に!?」

 フリードリヒは訝しむがアンジュは素知らぬ顔で続けた。

「昔々、とある寒村に貧しい農家がありました。家族構成は両親に子供が兄弟姉妹合わせて5人という大所帯でした。子供達は家計を助けるため、幼い頃から必死に両親のお手伝いをして働きますが、暮らし向きは一向に良くなりません。そんなある日、ついにどうしようもなくなった両親はある決断をします。それは口減らしをすることです」

「お、おい、い、一体なんの話を!?」

 アンジュの口振りに言い知れぬ不安を感じたフリードリヒが堪らず口を挟むが、アンジュは構わず続けた。

「口減らしの対象に選ばれたのは末っ子に当たる5歳の女の子でした。まだ幼い故に農家の労働力にはならないと判断されたんでしょう。両親は闇ルートで人身売買を行っている業者に女の子を売り飛ばしました。二束三文で。その女の子はとある娼館が買い取りました。ロリコン変態クソ野郎共の相手をさせるためです。女の子は毎日泣き喚きながら変態共のオモチャにされていました」

「お、おい、ま、まさかそれって...」

 フリードリヒの声が掠れる。

「えぇ、お察しの通り私の過去の話ですよ。どうです? 結構ヘビーな生い立ちでしょ?」

 アンジュは自嘲気味に笑ったが、フリードリヒはとてもじゃないが笑えなかった。

「ちなみにちょうど同じ頃、私の実家のお隣さんだった家も同じような状況でしてね。その家はやはり末っ子の5歳の男の子を口減らししたんですよ。その子は私と同じ娼館に売られ、ショタコン変態クソ野郎共の相手をさせられていました。幼い頃って男の子の方が可愛かったりしますからね。同じ境遇だった私達は毎日泣き暮らしていましたよ。二人で寄り添って、いつかはこんな生活から絶対に抜け出してやると誓ったもんです。それが今そこに居る彼になります。名前はシンです」

 アンジュが指差す先には、黒装束を身に纏った男が居て、フリードリヒに鋭い眼光を放っていた。

「男の子は成長して可愛くなくなると今度は傭兵団に売られるんですよ。そこでシンは文字通り死に物狂いで努力して生き延び、今こうして私の護衛を勤めてくれているという訳です」

 シンはアンジュを守るようにすっとアンジュの背後に回った。

「女の子は成長すればそのまま普通の娼婦として娼館に勤めることになりますが、その前に私は運良く聖女としての力に目覚めましたから、クソみたいな生活から抜け出すことが出来たんです。私はすぐにシンの安否を確認しました。生きていると知った時は神に感謝しましたよ」
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