聖女である私を追放する? 別に構いませんが退職金はしっかり払って貰いますからね?

真理亜

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「それだけですか? 他には?」

 そんなフリードリヒの態度には目もくれず、アンジュは淡々と問いを重ねた。

「えっ!? あ、あぁ、他になんか言われたかな?...」

 フリードリヒは首を捻って思い出そうとするが、上手く行かないらしい。

「そうですか...」

 するとアンジュは明らかに落胆したような表情を浮かべてそう呟いた。

「まぁ、もうどうでもいいですね...とにかく退職金はしっかり払って貰いますよ? 王族たる者、まさか約束を反古にしたりなんかしませんよね?」

「ま、待て! ま、待ってくれ! ちゃ、ちゃんと払う! ちゃんと払うが一度にこれだけの大金はいくらなんでも無理だ! せ、せめて分割にして貰えないだろうか?」

 フリードリヒは縋り付くようにしてそう懇願した。

「えぇ、構いませんよ。それじゃ分割して月毎に払って下さいな」

「月毎か...そこをなんとか年毎って訳には...」

 フリードリヒは尚も譲歩を引き出そうとするが、

「いきません。そんなに時間が掛かるのは却下です」

 アンジュに鰾膠も無く断られた。

「だよな...フゥ...分かったよ...なんとかしよう...」

 さすがにこれ以上は無理だと悟ったのか、フリードリヒは大きなため息を一つ吐いてそう言った。

「期待してますよ。金の送り先は後で連絡しますから」

「あぁ、分かった...」

「それでは王太子殿下、ご機嫌よう。シン、行こうか」

 アンジュはシンを従えて颯爽とその場を後にした。一人残されたフリードリヒは、なんとも言えない後味の悪さを感じて佇んでいた。


◇◇◇


 アンジュが去ってから一週間後。

「王太子殿下! 大変です! 結界の一部が崩れてそこから魔物が侵入して来てしまっているとのことです!」

 近衛兵が慌ただしくやって来てフリードリヒにそう告げた。

「な、なんだとぉ!?」

 一部とはいえ結界が崩れるなどあってはならないことだ。国の存亡に関わる。アンジュが聖女だった時は当然ながらこんなことは一度もなかった。

「騎士団を向かわせろ! なんとかして魔物の侵入を防ぐんだ! それで足りなきゃ傭兵ギルドに連絡して傭兵共を雇え!」

「わ、分かりました! 王太子殿下!? どちらに!?」

「俺は神殿に向かう!」

 言うが早いかフリードリヒは神殿へと駆け出していた。


◇◇◇


「おい、神官長! 結界が一部崩れたぞ! 一体どうなっているんだ!」

 神殿に着くや否やフリードリヒは神官長を怒鳴り付けた。

「王太子殿下、ご自分の目でお確かめになったら如何です?」

 だが神官長は恐れ入る様子も無く粛々と指差した。

「な、なんだこれは!?」

 そこにはフリードリヒがアンジュの代わりに選んだ5人の女達が泡を吹いてぶっ倒れていたのだった。
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