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「イリン! それはどういう意味だ!?」

 イリンの婚約者、宰相子息の公爵子息キインが叫ぶ。

「言葉通りの意味ですわ。あなたに纏わり付くその女があまりにも不快だったんで、噴水に突き落としてやりました。そのまま溺れ死ねばいいものを、しぶとく生きてるんですもの。オマケに真冬だったというのに風邪も引かずピンピンとしていて。これはもうその女自体が病原菌なんでは? と思いましたの。梅毒スピロヘータとか淋病淋菌とか毛じらみとか」

「いやなんで性病ばっかり!?」

 キインが突っ込むとイリンは至極当然といった顔で、

「あら? あなたとその女はそういう関係じゃなかったんですの?」

「そ、それはその...」

 キインが言い澱む。認めているようなものである。

「その女にそう指摘すると『私が身分の低い生まれだからといって、そんな目でみるなんて酷い!』と言って泣くんですもの。話し合いにもなりませんわ。だから病原菌はさっさと駆除するしかないと思ったんですの」

 キインが何も言えないでいると、サーシャがプルプル震えながら、

「キイン様を責めないで下さい! 悪いのは私なんです! 私がお優しいキイン様に甘えてしまったばっかりに...」

 と言って泣き出した。そこへ、

「皆さん、よおく見て下さい。あれ泣き真似ですからね? ほら、見て見て! 涙なんて一滴も溢れてないでしょう?」

 口を挟んだのは、いつの間にかアリンの側に来ていた侯爵令嬢のウリンである。ちなみにカインの取り巻きの一人、騎士団長子息の侯爵子息クインの婚約者である。

「ウリン! しゃしゃり出て来るな! サーシャは嘘泣きなんてしていない!」

 クインが怒鳴る。だがウリンは平然とした様子で、

「名女優じゃないんだから、そんなすぐポロポロと涙を流せる訳ないでしょう? とんだ大根役者ですよその女は。それに気付かず『私、今日うっかり教科書忘れちゃったんで見せて貰えません?』なんて甘い言葉に唆されて、あなたは何度も机を並べて見せてあげてましたね。あんまり腹が立ったんで、その女の教科書をビリビリに引き裂いてやりましたわ」

「なんだと!? あれはお前の仕業だったのか!? なんて酷いことをするんだ!」

 クインは怒り心頭のご様子だが、ウリンは涼しい顔で、

「だって教科書を全部机の中に入れっ放しにしてるんですもの。それでいて教科書を忘れたなんて平気で嘘を吐くんですよ? 教科書なんて必要ないでしょう? そんな嘘も見抜けないなんてお馬鹿さんですわね」

 クインは何も言えなくなってしまった。

「仕方ないですよ、ウリン様。クイン様は所詮『水曜日の男』ですから」

 そう言ってアリンの側にやって来たのは、伯爵令嬢のエリンである。ちなみにカインの取り巻きの一人、魔法騎士団長子息の伯爵子息ケインの婚約者である。

 
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