殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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「クラウド殿下、失礼しますよ?」

 ミランダはノックもそこそこにクラウドの執務室へと入った。マリウスとアマンダも後に続く。

 するとそこには、のんびりとお茶を飲んでいるクラウドの姿があった。

「あぁ、ミランダ...どうしたんだい?」

「クラウド殿下、南の砦からなにか報せは届いていませんか?」

「南の砦...あぁ、もしかしたらこれのことかな?」

 そう言ってクラウドは、乱雑に積み上がった書類の山の中から一通の封書を取り出した。

「まだ封を開けてもいないじゃないですか...」

 ミランダは呆れながらそう指摘した。

「あぁ、済まん...このところバタバタしててな...」

 のんびり茶をしばいてる暇はあるのに? ミランダは喉まで出掛かった言葉をすんでのところで呑み込んで、あくまでも冷静にこう続けた。

「読んでください。今すぐに」

「あぁ、分かった...」

 クラウドはノロノロとペーパーナイフを使って封を開けている。ミランダはその仕草一つ一つにもイライラしてしょうがなかった。

「...なんて書いてありましたか?」

 ややあってミランダがそう問い掛けると、

「南の砦に蛮族共が攻めて来たそうだ...」

「やっぱりそうだったか...」

 懸念していたことが当たってしまったマリウスは、口唇を噛んで目を伏せた。

「それで!? どう対策されます!?」

「対策...とは?」

「おい! 兄上! しっかりしてくれ! 南の砦では今、リリアナが戦えない状態なんだぞ! 王都から援軍を送らなくていいのか!?」

 矢も盾も堪らんとばかりに、マリウスはハッキリしない自分の兄を叱咤した。

「あぁ、そうだな...お前の言う通りだ...直ちに手配しよう...」

 そう言ってクラウドは、またしてもノロノロと書類を書き始めた。

「クラウド殿下、差出がましいようですが、少しお休みになられた方が良いと思います。大分お疲れのご様子ですし。よろしかったら私が診て差し上げましょうか?」

 アマンダはそう言ってクラウドに近付いたが、

「いや、そうも言っておられん...アマンダ夫人、お気遣いには感謝する...」

 クラウドは断固として受け付けなかった。

「分かりました...」

 そう言われてしまえば、アマンダとしてもそれ以上は強く言えなかった。ただ、医者としてはクラウドの疲労の色が濃いのが気になって仕方なかった。

 ちなみに、クラウド達がそんなやり取りを繰り広げている間、側に控えている金髪のメイドはずっとほくそ笑んでいたのだが、誰一人としてそのことに気付いた者はいなかった。
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