月夜の晩に

ラプラス

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プロローグ

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 「まずはどこから話そうかな」

コーヒーカップをテーブルに置いて、ラルフはリーゼを見つめた。

 「メイフィールドさんとおばばの関係が知りたいです」
 「了解。君の言うおばばはは、僕の実姉にあたるんだ」
 「おばばはあなたのこと、遠い親戚と言っていました」
 「ははは…まぁ、姉さんから見たらそうなってしまったのかもしれないね」
 「?」
 「…僕らの一族は代々女系で、夢見の力を使って神殿と協力し天の啓示を伝えて来た。姉さんもそうだったんだよ」


 ラルフは昔を思い出していた。

 『二つの世界が交わるなんて、あってはいけないことだ』

 そう言ったのは誰だったか、今ではもうわからない。
 ただ、信心深い一族はその言葉の通り姉さんの見た夢を禁忌と扱う事にした。
 姉さんの見た夢には、異世界から落ちてきた子供が出てきたらしい。その子供がこの世界に大きな影響を与えるというが…。
 その夢のせいで姉さんは巫女の資格を剥奪。一族を勘当された。

 しかし、姉さんはひねくれることもなくこう言った。
 「ちょうどよかった。夢に出てくる子供を探しに行こうと思っていたところなんだ」
 なんと、姉さんは子供を探し自分で育てると言う。
 「それに、お前には悪いが私はやっとあそこを出られてホッとしている」

 リーゼロッテには話すつもりはないが、メイフィールド家は代々表向きは巫女として、裏では暗殺と諜報活動を行なっていた。姉はそれを苦々しい思いで受け止めるしかなかったのだと、それを聞いた時に思った。

 「子どもに罪はない。一族があの子を探し出して殺してしまう前に、私が見つけて保護する。それに、私はあの子のことを知っているの。可哀想な魂。始まりの場所から落とされた可哀想な子」

 後半の姉さんの言葉はよくわからなかったけれど、僕は姉さんに協力した。
 そして姉さんがリーゼロッテを見つけた日。
 姉さんは啓示を一つ零した。

 「アルメの丘とサリムの小川。それらのちょうど真ん中に流れる紅く燃える星は、私。どうかその時が来たら、この子を迎えに来てあげて。あなたがこの子を暗闇の外に連れ出してあげるのよ」

 それが姉さんとの最後の会話だった。



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