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【オストハウプトシュタット王妃視点】
しおりを挟む『アールツナイ』を連れ帰ると意気揚々と国を出た娘と息子が帰ってきた。
変わり果てた姿で。
皮膚は赤く腫れ爛れて、肉は腐り酷い悪臭を漂わせていた。
初めは虫に刺されたんだと思った。
息子はそう言った。情に訴え、『アールツナイ』を連れ帰る計画を失敗した娘と息子は一晩、明かり取りの窓さえない真っ暗な牢獄に入れられたそうだ。食事も水も無く、明くる朝には解放され、逃げ帰ってきた……と。
王女殿下と王太子殿下は呪われています。それも力の強い魔物に。
魔物…。
アールツナイ…!あの女狐の息子!あれが呪ったのか。それとも呪われているものを、見て見ぬ振りをしたのか…!女狐と同じ深い緑の瞳を思い出す。……そう言えば夫は帰ってこない。息子と娘の余りにも酷い様に忘れかけていた。
……元より傀儡の王だった。
王妃になるべく、幼い日より血の滲むような努力と我慢をし続けたわたくしを捨て、国も地位も何もかも捨てて、あの女狐と添い遂げたいと、あの人が言ったあの日から。あの日から、わたくしはあの人を、夫を、フィーリプを愛することはやめた。呪術で心を縛り、肉体を縛り、そしてアレスゲーテに送り出す際には呪術で舌を焼いた。何も喋れないように。息子が介助としてついていくのに不自然さがないように。
あれは道具だ。最早わたくしの最愛ではない。
けれど何故だろう。どうしてこんなにもわたくしは苛々しているのだろう。
10日も経たぬうちに息子と娘は息を引き取った。
呪われた遺体は、神官に言われるがままに聖火で骨も残さず焼き尽くした。
ああ、わたくしは何をしているのだろう。
息子たちを焼く炎の向こうで、あの女狐が嗤う。お前などに彼は渡さない、と。
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