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始まりと終わり
87 この花のように(クリストファー視点)
しおりを挟む美しい光景だった。
青い空に、木々の緑。足元にあるこの色とりどりのものは……『花』か。実物を見たことは私でさえ数えるほどの貴重な『花』。その『花』を大量に付けている大樹の下。
ーーー ノア・ヴォルテッラが居た。
真っ白な衣装を身に纏い、悪魔の頭を膝に乗せて。ノア・ヴォルテッラは静かにこちらを見ていた。
「………王太子、殿下」
「ノ…ノア……!」
なんということだ。
今ならわかる。
ノア・ヴォルテッラは美しい。
何故気付かなかったのか。ああ、私は魔女に騙されていたのだ。挙句に、叔父上などにノアを攫われ、こんなことに。
「ノア、もう安心だ。あの魔女は殺した。私は騙されていたのだ」
「………?」
何を言っているかわからない、と言ったようにノアが首を微かに傾けた。ああ、わかる。魔女の呪縛が解けた今ならわかるのだ。
とても愛らしい。
きっと本当にわかっていないのだ。きっとノアは知らない。ノアの膝に頭を預け、悪魔がニヤニヤ笑っていた。
きっとこの悪魔が、全てを仕組んだのだ…!
「ノア!此方へ来い!!」
そう。ノアは《聖女》だ。何も怖くない。
悪魔でさえ、きっとノアが滅してくれる。
私は駆け寄り、ノアの腕を掴……
「私の弟に触れるな」
首に痛みが走る。
………いつ、動いたのだ?
ノアと同じ翡翠の目を爛々と燃やして、悪魔が私の喉元に剣を突きつけていた。
「下郎が、ノアに触れるな、穢らわしい。私は妹と約束した。《白妙》を無事に連れ帰る、と」
…………は……………………?
誰だ、これは…!?
悪魔ではない。表情がまるで違う。なんだ?何が起こっている!?
「……あ…!……え、と………レスト、さん…?」
ノアの言葉に、目の前の男の表情が和らいだ。氷の炎のような表情が溶けるように。
「…まったく、お前の夫とやらは一体何をしているんだ。私なら軍規違反になろうが懲罰が待っていようが、愛する者から片時も離れんぞ?」
「……あ、え…………はい。ごめんなさい?」
「お前が謝るな。しかも何故疑問形?」
何が起こっているんだ!!??
「ノア!私は!!私はお前を選んだ!!」
「……え?」
「もうお前を虐げた国も、魔女もいない!だからノア!私の元に来い!」
ノアが
この目の前の花のように
笑った。
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