5 / 89
ヴィヴィアンの婚約
ヴィヴィアンは叫んだ
しおりを挟む
解呪のためにヴィヴィアンの家を訪れたスカーレットは、まず婚約者からの手紙と贈り物を、一つ一つ念入りに調べた。
「かなり悪質だわ。特にこの珊瑚の髪飾り。容姿のコピーだけじゃなくて、魔力や生命力も、ごっそり吸い取って、同じ型の呪具に送るように造られてる。これつけてて、体調が悪くなったりしなかった?」
ヴィヴィアンは、カフェテラスで婚約者たちに近づいたときのことを思い出した。
「あの二人に近づいたとき、内臓をぐるぐる掻き回されるみたいで、吐くかと思った。スカーレットのところに行ったら、何ともなくなったけど」
「うちは呪いなんか寄せ付けない仕様だからね。あんた、この髪飾りつけたまま相手の女にもっと近づいてたら、かなり危なかったかも」
スカーレットは医療従事者用の黒い鞄から工具を取り出すと、髪飾りを分解しはじめた。
薄い血の色の珊瑚の玉が、飾りの台からぽろりと外れた途端、どす黒い煙が立ち登り、ヴィヴィアンの方へゆるゆると流れてきた。
「うひゃあ」
「呪具から呪いの核を外しても諦めないとは、恐るべき執念ね。呪いの主はそれなりの腕のようだわ。でも呪い返しには好都合だわ。強い呪いは強く返るから。ヴィヴィアン、そいつを呪い元に追い返して!」
「え、どうやって?」
「大っ嫌いな奴に向かって、心の底から拒否する言葉を叫ぶ感じで!」
「急に言われても……えっと、うわっ、こっち来ないでください!」
「弱い! 及び腰禁止!」
「おっ、お帰りはあちらです!」
「丁寧すぎる! もっと乱暴でよし!」
「黒くてキモい! 臭そう! 身体に悪そう! 嫌煙万歳!」
「はいトドメ!」
「婚約詐欺師! 地獄でザマミロ!」
「よし!」
ヴィヴィアンに向かって這い寄っていた黒い煙は、叫び声をぶつけられるたびに萎縮して、終いには小指の先ほどの黒い虫に変化した。
スカーレットが指で弾くと、虫はふっと姿を消した。
「肺腑を抉るほどじゃなかったけど、まずまず効いたんじゃないかしら」
「何が?」
「あんたの罵詈雑言」
「罵詈…そういうの苦手だから。そんなに腹が立ってたわけでもないし」
「あのね、こんなことされたら普通は怒るの。命吸い取られかけて、怒らないほうが異常でしょうが」
「異常……そっか、私のほうが普通じゃなくて、異常か」
ズレた方向にずぶずぶと落ち込んでいくヴィヴィアンを見て、スカーレットは何か言いたそうなそぶりをしたけれども、言うのは今ではないと思い直したようだった。
「ほら、さっさと残りも片付けるわよ」
ブレスレットの解呪も髪飾りと同じような手順で行われた。
スカーフと手紙の束は、スカーレットが平手でバシバシと叩いただけで、もわもわと大量の黒煙が上がってきた。
「ほら叫ぶ!」
「帰れ外道! 黒いヤツ退散! 消えろ害虫!」
煙が虫になると、間髪を入れずにスカーレットが弾いて消していく。指では間に合わなくなったのか、鞄から黒いファイルケースを取り出して、裂帛の気合いとともに虫を容赦なく叩きのめすスカーレットの姿は、ヴィヴィアンには舞い踊る悪鬼よりも恐ろしく、いや、頼もしく思われた。
「はい全部終了。お疲れ様」
「ありがとう。スカーレットこそ、お疲れさま……うう、怒鳴りすぎて、頭がグラグラする」
大声を出す機会など滅多にないヴィヴィアンにとって、呪い返しの罵詈雑言は、あまりにも過酷な作業だった。
「休ませてあげたいところだけど、あまり時間がないのよね。出かけるから支度して」
「どこに行くの?」
「カフェテラスの近くに病院があるでしょ。あんたの婚約者、そこの入院病棟にいると思う。女も一緒にね」
「え…会うの? 私も?」
「あんたが行かなくちゃ始まらないでしょ。呪い返しの結果を確認しないとね。それに、あんたが盗られたものも、きっちり取り返さないと」
「生命力と、魔力?」
「利息もガッポリ毟り取らなくちゃ。行くわよ!」
「かなり悪質だわ。特にこの珊瑚の髪飾り。容姿のコピーだけじゃなくて、魔力や生命力も、ごっそり吸い取って、同じ型の呪具に送るように造られてる。これつけてて、体調が悪くなったりしなかった?」
ヴィヴィアンは、カフェテラスで婚約者たちに近づいたときのことを思い出した。
「あの二人に近づいたとき、内臓をぐるぐる掻き回されるみたいで、吐くかと思った。スカーレットのところに行ったら、何ともなくなったけど」
「うちは呪いなんか寄せ付けない仕様だからね。あんた、この髪飾りつけたまま相手の女にもっと近づいてたら、かなり危なかったかも」
スカーレットは医療従事者用の黒い鞄から工具を取り出すと、髪飾りを分解しはじめた。
薄い血の色の珊瑚の玉が、飾りの台からぽろりと外れた途端、どす黒い煙が立ち登り、ヴィヴィアンの方へゆるゆると流れてきた。
「うひゃあ」
「呪具から呪いの核を外しても諦めないとは、恐るべき執念ね。呪いの主はそれなりの腕のようだわ。でも呪い返しには好都合だわ。強い呪いは強く返るから。ヴィヴィアン、そいつを呪い元に追い返して!」
「え、どうやって?」
「大っ嫌いな奴に向かって、心の底から拒否する言葉を叫ぶ感じで!」
「急に言われても……えっと、うわっ、こっち来ないでください!」
「弱い! 及び腰禁止!」
「おっ、お帰りはあちらです!」
「丁寧すぎる! もっと乱暴でよし!」
「黒くてキモい! 臭そう! 身体に悪そう! 嫌煙万歳!」
「はいトドメ!」
「婚約詐欺師! 地獄でザマミロ!」
「よし!」
ヴィヴィアンに向かって這い寄っていた黒い煙は、叫び声をぶつけられるたびに萎縮して、終いには小指の先ほどの黒い虫に変化した。
スカーレットが指で弾くと、虫はふっと姿を消した。
「肺腑を抉るほどじゃなかったけど、まずまず効いたんじゃないかしら」
「何が?」
「あんたの罵詈雑言」
「罵詈…そういうの苦手だから。そんなに腹が立ってたわけでもないし」
「あのね、こんなことされたら普通は怒るの。命吸い取られかけて、怒らないほうが異常でしょうが」
「異常……そっか、私のほうが普通じゃなくて、異常か」
ズレた方向にずぶずぶと落ち込んでいくヴィヴィアンを見て、スカーレットは何か言いたそうなそぶりをしたけれども、言うのは今ではないと思い直したようだった。
「ほら、さっさと残りも片付けるわよ」
ブレスレットの解呪も髪飾りと同じような手順で行われた。
スカーフと手紙の束は、スカーレットが平手でバシバシと叩いただけで、もわもわと大量の黒煙が上がってきた。
「ほら叫ぶ!」
「帰れ外道! 黒いヤツ退散! 消えろ害虫!」
煙が虫になると、間髪を入れずにスカーレットが弾いて消していく。指では間に合わなくなったのか、鞄から黒いファイルケースを取り出して、裂帛の気合いとともに虫を容赦なく叩きのめすスカーレットの姿は、ヴィヴィアンには舞い踊る悪鬼よりも恐ろしく、いや、頼もしく思われた。
「はい全部終了。お疲れ様」
「ありがとう。スカーレットこそ、お疲れさま……うう、怒鳴りすぎて、頭がグラグラする」
大声を出す機会など滅多にないヴィヴィアンにとって、呪い返しの罵詈雑言は、あまりにも過酷な作業だった。
「休ませてあげたいところだけど、あまり時間がないのよね。出かけるから支度して」
「どこに行くの?」
「カフェテラスの近くに病院があるでしょ。あんたの婚約者、そこの入院病棟にいると思う。女も一緒にね」
「え…会うの? 私も?」
「あんたが行かなくちゃ始まらないでしょ。呪い返しの結果を確認しないとね。それに、あんたが盗られたものも、きっちり取り返さないと」
「生命力と、魔力?」
「利息もガッポリ毟り取らなくちゃ。行くわよ!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる