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ヴィヴィアンの婚約
ヴィヴィアンは侍女を得た
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グリッド家の人々は、メアリーのいた二人部屋から、六人部屋の病室に移動して、今夜は家族全員で泊まるとのことだった。
イルザ・サポゲニンが気絶させたという、病院の事務員たちは、薬壺の呪いの支配を受けて、吸魔の呪具である絆創膏を患者に貼って回っていたらしい。すでに全員、意識と正気を取り戻し、仕事に復帰している。
アーチバル・グリッドは、昨晩、末の息子に付き添って病室にいる間に、薬壺に意識を乗っ取られたらしく、窓から身投げしようとしていたところをイルザとスカーレットに発見され、イルザの物理的説得と、スカーレットの張り手によって、無事に解呪されたのだった。
薬壺の呪いの核だったらしき青い髪の女性は、ヴィヴィアンの求人広告をお腹の上に掛けられた状態で、寝台に寝かされていた。
額に大きなたんこぶが出来ていたけれど、簡易的な検査をした限りでは、脳機能には問題がなさそうとのことだった。
腹の上の広告は、いつ目覚めてもいいようにと、ギル・グリッドが乗せておいたのだという。
「その求人広告って、雇用に相応しい者が触れれば確実に応募してくる術式が仕込んであるんだったわよね」
「うん。でも、一人も来なかった。残念無念」
「ヴィヴィアンが雇うに値する人間が、たまたま居なかったってだけのことよ」
「今宵こそは本懐を遂げる所存」
「だといいけど…」
薬壺の中の人だった女性は、年齢がよく分からない顔立ちだった。
(童顔だけど、並々ならぬ苦労をしてきた感じがするわね。息子がいて、ハンニバル・グリッドを殺したいほど憎んでいる……遠い昔のグリッド家で、一体何があったのかしらねえ)
セイモア・グリッドも、まだ目覚めていなかった。
「私の屍鬼の術だけであれば、そろそろ目覚める頃なのだが、妻の解呪との重ねがけになったために、眠りが少し長引いているのだろう」
「イルザお姉様の脱毛は、結果的に、強力な解呪としてセイモア・グリッドに働いていましたものね」
そのイルザは、ヴィヴィアンが治療器の布団叩きを作り終えたあと、報告のために王城へと向かったので、ここにはいない。
毛を失って元気になった患者は少なくないが、回復の度合いが最も高かったのは、メアリーと同じ病気の者たちだった。
そうした状況から、病院長夫妻とスカーレットは、自己魔力不全症候群の発症原因が、メアリーと同じ薬壺の呪いによるものだった可能性があると考えた。
メアリーの発症と同時期に、患者が急に増えていたことも、根拠の一つとなった。
そこで、アーチバル・グリッドに患者リストを確認してもらったところ、ほぼ全員が、グリッド家の傍系であることが判明した。
「我が家門の傍系ではない患者たちも、遠く遡れば、ハンニバル・グリッドや、薬壺の中の女性につながるのではないかと思う」
「その人たちも、みんな髪の色が青系統だったっていうし、きっとそうだね、父さん」
父と弟、それから薬壺の女性の髪色を見比べるように眺めていたギル・グリッドは、ふと思ったことを口にした。
「始祖のハンニバル・グリッドって、元はどこから来た人なんだろう。父さんは知ってるの?」
「先代が、その前の世代から聞いたという話を、子どもの頃に少しだけ聞いたのだが……この世界の者ではないという説が、かなり昔からあるのだそうだ」
「この世界じゃないって…そんなこと、ありえるの?」
「分からん。私も驚いて聞いてみたのだが、父は……先代は、それ以上のことは、語らなかった」
この世界では、異世界の遺物とされる物が発見されることがある。
ヴィヴィアンが愛読する「異世界格言集」も、考古学者たちが発掘した異世界の古文献を、イルザ・サポゲニンが趣味で解読し、格言と思しきものを収集して編集したものだ。
けれども、異世界の人間がこちらに出現したという事例は、少なくとも公的には一度も報告されていない。
「ねえ父さん、家に帰ったら、うちに伝わっている古い記録を、きちんと調べてみようよ」
「私もそうするつもりだ。お前たちの母が亡くなる前までは、密かに調査をしていたのだが、いろいろな形で妨害されて、なかなか進まなかったのだ」
「父さん、ギル兄さん、僕も手伝うよ。家を出る時に、書庫の蔵書をかなり持ち出したんだけど、その中に、個人の手記みたいなのが、いくつかあったんだ。呪術に関するメモが多かったんだけど、それ以外の記事もあった。だけど、そういうところを読もうとしても、なぜか頭に入ってこなくて」
「呪いの妨害だな。知られては困ることが書かれてあるのだろう。私の時もそうだった」
「きっと、もうそんなことは起きないよね」
「ユアン、私にも手伝わせて。御本家から蔵書を持ち出したのって、私の病気のためだったのでしょう? ずっとあなたに支えてもらっていたのだから、今度は私の番よ」
「メアリー…うん。一緒に頑張ろう」
その時、ポスターを腹にかけて寝ていた女性が、唸り声をあげた。
「ぬ? うぬぬぬ……ぬうううう」
ヴィヴィアンは無詠唱で女性の寝台脇に転移すると、腹に掛けられていたポスターを取り上げて、薄目を開けた女性の顔に突きつけた。
「はい、これ見て」
「へ? ほ?」
「無職の貴女に朗報です。高待遇で即採用」
「しょ、職種は?」
「戦闘系侍女」
「天職!」
「じゃ、よろしく」
ヴィヴィアンは、呆気に取られているグリッド家の面々と病院長に挨拶をした。
「そういうわけで、帰ります。本日は誠にお疲れ様でした」
スカーレットは苦笑を浮かべながら見送った。
「お疲れ様、ヴィヴィアン。あとでそっちに行くから待ってて」
「分かった。また夜食作っとく……我は願う、憩いの我が家に全員集合」
次の瞬間、ヴィヴィアンと青い髪の女性は消えていた。
「だいぶ雑な詠唱だったけど、ちゃんと帰れたかしら」
イルザ・サポゲニンが気絶させたという、病院の事務員たちは、薬壺の呪いの支配を受けて、吸魔の呪具である絆創膏を患者に貼って回っていたらしい。すでに全員、意識と正気を取り戻し、仕事に復帰している。
アーチバル・グリッドは、昨晩、末の息子に付き添って病室にいる間に、薬壺に意識を乗っ取られたらしく、窓から身投げしようとしていたところをイルザとスカーレットに発見され、イルザの物理的説得と、スカーレットの張り手によって、無事に解呪されたのだった。
薬壺の呪いの核だったらしき青い髪の女性は、ヴィヴィアンの求人広告をお腹の上に掛けられた状態で、寝台に寝かされていた。
額に大きなたんこぶが出来ていたけれど、簡易的な検査をした限りでは、脳機能には問題がなさそうとのことだった。
腹の上の広告は、いつ目覚めてもいいようにと、ギル・グリッドが乗せておいたのだという。
「その求人広告って、雇用に相応しい者が触れれば確実に応募してくる術式が仕込んであるんだったわよね」
「うん。でも、一人も来なかった。残念無念」
「ヴィヴィアンが雇うに値する人間が、たまたま居なかったってだけのことよ」
「今宵こそは本懐を遂げる所存」
「だといいけど…」
薬壺の中の人だった女性は、年齢がよく分からない顔立ちだった。
(童顔だけど、並々ならぬ苦労をしてきた感じがするわね。息子がいて、ハンニバル・グリッドを殺したいほど憎んでいる……遠い昔のグリッド家で、一体何があったのかしらねえ)
セイモア・グリッドも、まだ目覚めていなかった。
「私の屍鬼の術だけであれば、そろそろ目覚める頃なのだが、妻の解呪との重ねがけになったために、眠りが少し長引いているのだろう」
「イルザお姉様の脱毛は、結果的に、強力な解呪としてセイモア・グリッドに働いていましたものね」
そのイルザは、ヴィヴィアンが治療器の布団叩きを作り終えたあと、報告のために王城へと向かったので、ここにはいない。
毛を失って元気になった患者は少なくないが、回復の度合いが最も高かったのは、メアリーと同じ病気の者たちだった。
そうした状況から、病院長夫妻とスカーレットは、自己魔力不全症候群の発症原因が、メアリーと同じ薬壺の呪いによるものだった可能性があると考えた。
メアリーの発症と同時期に、患者が急に増えていたことも、根拠の一つとなった。
そこで、アーチバル・グリッドに患者リストを確認してもらったところ、ほぼ全員が、グリッド家の傍系であることが判明した。
「我が家門の傍系ではない患者たちも、遠く遡れば、ハンニバル・グリッドや、薬壺の中の女性につながるのではないかと思う」
「その人たちも、みんな髪の色が青系統だったっていうし、きっとそうだね、父さん」
父と弟、それから薬壺の女性の髪色を見比べるように眺めていたギル・グリッドは、ふと思ったことを口にした。
「始祖のハンニバル・グリッドって、元はどこから来た人なんだろう。父さんは知ってるの?」
「先代が、その前の世代から聞いたという話を、子どもの頃に少しだけ聞いたのだが……この世界の者ではないという説が、かなり昔からあるのだそうだ」
「この世界じゃないって…そんなこと、ありえるの?」
「分からん。私も驚いて聞いてみたのだが、父は……先代は、それ以上のことは、語らなかった」
この世界では、異世界の遺物とされる物が発見されることがある。
ヴィヴィアンが愛読する「異世界格言集」も、考古学者たちが発掘した異世界の古文献を、イルザ・サポゲニンが趣味で解読し、格言と思しきものを収集して編集したものだ。
けれども、異世界の人間がこちらに出現したという事例は、少なくとも公的には一度も報告されていない。
「ねえ父さん、家に帰ったら、うちに伝わっている古い記録を、きちんと調べてみようよ」
「私もそうするつもりだ。お前たちの母が亡くなる前までは、密かに調査をしていたのだが、いろいろな形で妨害されて、なかなか進まなかったのだ」
「父さん、ギル兄さん、僕も手伝うよ。家を出る時に、書庫の蔵書をかなり持ち出したんだけど、その中に、個人の手記みたいなのが、いくつかあったんだ。呪術に関するメモが多かったんだけど、それ以外の記事もあった。だけど、そういうところを読もうとしても、なぜか頭に入ってこなくて」
「呪いの妨害だな。知られては困ることが書かれてあるのだろう。私の時もそうだった」
「きっと、もうそんなことは起きないよね」
「ユアン、私にも手伝わせて。御本家から蔵書を持ち出したのって、私の病気のためだったのでしょう? ずっとあなたに支えてもらっていたのだから、今度は私の番よ」
「メアリー…うん。一緒に頑張ろう」
その時、ポスターを腹にかけて寝ていた女性が、唸り声をあげた。
「ぬ? うぬぬぬ……ぬうううう」
ヴィヴィアンは無詠唱で女性の寝台脇に転移すると、腹に掛けられていたポスターを取り上げて、薄目を開けた女性の顔に突きつけた。
「はい、これ見て」
「へ? ほ?」
「無職の貴女に朗報です。高待遇で即採用」
「しょ、職種は?」
「戦闘系侍女」
「天職!」
「じゃ、よろしく」
ヴィヴィアンは、呆気に取られているグリッド家の面々と病院長に挨拶をした。
「そういうわけで、帰ります。本日は誠にお疲れ様でした」
スカーレットは苦笑を浮かべながら見送った。
「お疲れ様、ヴィヴィアン。あとでそっちに行くから待ってて」
「分かった。また夜食作っとく……我は願う、憩いの我が家に全員集合」
次の瞬間、ヴィヴィアンと青い髪の女性は消えていた。
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