29 / 54
第25話
しおりを挟む夏休みも中盤、お盆の時期になった。
本日は日課の朝食作りの前にやることがある。
キッチンへ向かい持参したきゅうりと茄子と割り箸を取り出し組み立てる。
そして完成したら仏間へと行く。
お仏壇へいつものお鉢(仏飯)に加え、先程作った精霊馬と昨日購入した鬼灯をお供えした。
ロウソクに火を灯し遺影を綺麗にふく。
そこには仲良く笑顔を向けるはじめさんのご両親。
はじめさんはお父さん似、咲さんはお母さん似だと一目でわかる。
手を合わせ挨拶をしていると、隣にはじめさんが座り同じく手を合わせる。
「毎日ありがとうな。両親もきっと喜んでくれているよ。
精霊馬か、もうそんな時期なんだな。
今年は結城の不格好な精霊馬じゃ無いから二人ともすぐ帰って来そうだ。
ーーー昔、精霊馬作りは俺の担当だった。
初めての精霊馬作りの時、俺はきゅうりの馬だけしか作らなかったんだ。
そんな俺に姉さんが困った顔をしていたのを思い出す。」
昔を懐かしむように精霊馬を見つめるはじめさん。
きゅうりは先祖や故人を迎える馬、茄子は送り出す牛。
ご両親にいつまでもそばにいて欲しいという気持ちの表れだったのだろう。
「ふっ、あの頃牛が居なきゃ帰れない、ずっと居てくれるんだと思ってたんだ。だが茄子の牛は『牛に乗ってゆっくりと、少しでも長くこの世にいて欲しい』って願いを込めた物だと聞いて慌てて作ったよ。
『両親に牛さえ用意せず、さっさと歩いて帰れって俺が思ってるって誤解されたらどうしよう』って。ははっ我ながらガキだな。」
はじめさんは笑って話しているが、その時のはじめさんの心境を思うと心が痛む。
そんな気持ちを読み取ったのであろう、はじめさんが私の頭を撫でながら話す。
「そんな顔するな。
確かにその頃両親が居なくなって寂しい気持ちだった事は否定しない。
だが、今こうして当時の事を笑顔で語れるのは姉さんが居て結城が居てそしてゆづ葉、お前がそばに居て笑顔をくれるおかげなんだ。」
そう言い優しい笑顔を見せてくれた。
自分の存在をそんな風に思ってくれていることに心が温かくなる。
私はこんな温かな気持ちをはじめさんに少しでも返せているのかな?
そう尋ねると
「バカが。返すも何も俺のが一方的に貰っている気がしている。
ーーーゆづ葉はそのままで居てくれるだけで俺は幸せだ。」
見つめ合いそのまま自然とお互いの顔が近付いて行く。
そこで待ったを掛けたのはもう一人の家主の咲さんだ。
「あらあら、はじめも言うようになったわね、しかもお父さん達の目の前で。
きっとゆづ葉が供えてくれた馬に早速乗ってあなた達のこと間近で見てるわよ。」
揶揄うように言われ
「「あっ!」」
と同時に声を発し、お仏壇の前だと思い出す。
お互いを見ながら苦笑いし、前に向き直りご両親の遺影に謝った。
その時にロウソクの火が大きく揺れた。
遺影の中のお二人はそのロウソクの揺らぎで一瞬ウィンクしたように見えたのは気のせいじゃないと思う。
そんな事がありつつ朝食の時間になった。
家族で楽しい食卓を囲んでいると、咲さんが私に声を掛ける。
「ゆづ葉はお盆どうするの?
確か毎年一葉さんのご実家の方に帰省しているんでしょ?私が聞いた時点ではまだ決めかねてるって聞いたんだけど。」
一葉さんとは私の母のことだ。
いつの間にか連絡先を交換し、個人的に交流を持っているそうだ。
「今年は受験生と言うことで私は家に残ることにしました。
まあ本当は受験に支障は無いんですが、祖父母宅は遠いですし、、何よりはじめさんと離れたく無くて。」
チラッとはじめさんを見る。
目が合いキョトンとした後、箸からポロッと漬物を落とした。
そしてソッポを向くと口を押さえ
「そ、そうか。」
と静かに言う。
「うふふふっ、嬉しそうね、はじめ。
じゃあそう言う事なら、ご両親がいない間はじめが本郷家へお世話になりに行きなさい。
ゆづ葉一人で家にいるのは心配だもの。」
そう言ってくれるのはありがたいけど、はじめさんが了承してくれるかどうか。
ーー案の定、渋っている様子だ。
「ゆづ葉を一人にするのは絶対反対だが、俺が本郷家に行くのは、、、ちょっと。。二人っきりだと、、もし何かあったら。。
うちにゆづ葉を泊らせるのはダメなのか?」
「うちに泊まりにきても良いんだけどーーー、最近空き巣被害が多いでしょ?
数日間家を空けるという行為に不安があるのよね。
その点ウチは真向かいが交番だから心配して無いんだけど。」
はじめさんが難しい顔で悩んでいると横から声が掛かる。結城ちゃんだ。
「はーい、私にいいアイディアがありまーす。
お兄ちゃんはゆづ葉お姉様と二人っきりが不味いって事だよね?
だったらゆづ葉お姉様のお宅に夕子お姉様も泊まれば問題ないと思うの!!
どう?」
結城ちゃんの発言に夕子が登場し驚いた。へぇ繋がりがあったんだ。
意外な交友関係に驚きはしたものの、『お姉様』呼びをしているので夕子が慕われているのだと伝わってくる。
「足立か、、、。足立がいれば確実に(理性は保たれるし)大丈夫だな。
まあ俺はそれで良いが、まずは足立の都合を聞かないといかんだろ。
ゆづ葉、足立にーー」
「わたしが今連絡入れたよー、二つ返事でOK貰った⭐︎」
はじめさんの言葉を遮り結城ちゃんが既に夕子から了承をもらった事を伝えた。
仕事の早い結城ちゃんに感心する。
「結城ちゃん、夕子と仲が良いの?
あの子なかなか自分の連絡先教えないのに、すごいね。」
そう素直に思ったことを口にすると結城ちゃんが早口で答える。
「な、仲が良いと言うか、連絡は規そ、いえいえ、はい仲良しです!
たまたま私の事を(お兄ちゃん担当諜報員として)気に入ってくれたらしく、連絡ヲ取リ合っテルンデスヨー。」
なんかかなりテンパっているけど、
ーーー夕子に仲が良い友人が出来た事に安堵した。
気難しい所もあるけれど、深く接するととても優しい性格なのだ。
そんなあの子の魅力に気付いてくれ、友人ができた事が嬉しい。
《親友が私だけじゃない事に少し嫉妬しそうになるけどね》
これは私の心の中だけに止めておく。
「で、話はまとまったんだよね?
はじめもそれで良いかしら?」
「あぁ、大丈夫だ。
ーーでも心配だからこっちにも顔出すからな。」
はじめさんも了承した。
「実はこうなるだろうと元々泊まる方向で話し進めてたけどね。
夕子ちゃんだっけ?その子が追加されるのも一葉さんは予期してたよ、ふふっ。」
さらっと怖い事を言う咲さんにタジタジになる。
一生両親や咲さんに敵う気がしない。
こうして急遽、本郷家お泊まり会が開催される事となった。
期間は明後日から3日間。
メンバーは私、夕子にはじめさん。
大好きな二人となら楽しい日々を過ごせそうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
???
Prrrrrrrrrr....... カチャッ
「良くお泊まりイベント教えてくれたわ、素晴らしい!ありがと!!」
私は興奮気味にお礼を述べる。
『わたし良い仕事しましたよね!!』
電話の向こうでもあの子は興奮しているようだ。
これはあれだ、ご褒美を期待してるな。
「ええ、そうね。ご褒美は何が良いの?」
どうせゆづ葉のプライベート写真だろうと予測するも
「お二人のパジャマ姿ツーショット永久保存版!!!」
意外な言葉に聞き返す。
「え?二人?ゆづ葉だけじゃなくて?」
「はいお二人で!!
できれば寝顔だと嬉しいです!」
いやいやいや、私まで寝たら誰が写真撮るの。この子ハイになり過ぎておかしくなってない?
呆れた口調で言葉を返す。
「二人の寝顔なんてどうやって撮るのよ。」
「あっ、兄に!!」
「、、、盗撮教師で訴える。。」
「そんなーー。」
この子は、、。なんかゆづ葉以上に疲れる。。
「はあ、、ツーショットだけは撮るから我慢しなさい。」
そう言って電話を切った。
ゆづ葉以外の他人なんて使うか使われるかの存在だったけど、、、
「ふふっ、あの子面白いじゃん。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる