スペリオンズ~異なる地平に降り立つ巨人

バガン

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剣よ花よ その1

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 『私の第二の人生は、父と兄を埋葬したところから始まった。』

 書き出しはこんなものでいいだろう。読み物というのはまず自分語りから始めるものだ。自身の半生を記録していた日誌の編纂に、ようやく時間を充てられる暇ができた。

 窓の外には、よく手入れされた庭、厳かながら程よく装飾の添えられた外壁、豊かな自然の木々、そして満天の星々。建築してから早15年ながら、今まで休暇程度にしか使われなかったこの別墅を、自分の邸宅としてようやく落ち着ける。

 これも子供たちが立派に成長して、自分たちの跡目を継いでくれたおかげだ。波瀾な自分の人生に思いを馳せながら、ペンを走らせる。

 「あなた、お茶にしませんこと?」
 「そうだな・・・今書き始めたところなのに。」
 「いいじゃない、どうせ時間はあり余っているんですから。」
 「ああ、そういえばそうか。」

 真っ白な本の世界から、暖かな光の灯る現実へと帰還すると、そこではティーセットを携えた妻が迎えてくれる。出逢った頃と比べると随分皺だらけになったものだが、それは自分も同じ。もう孫もいる年齢なのだから。
  「これからはもっとゆっくり、まったりと過ごしましょう?若いころは大変でしたもの。」
 「そうさなぁ、しかしこうも暇になってしまうとそれはそれで落ち着かん。」
 「あら、散々休みが欲しいと愚痴っていたのは誰だったかしら?」
 「その元凶が言うか?」
 「あら、ごめんあそばせ。」

 性格の面においても同じだ。当初は美しくも触れるもの皆傷つけるバラのような気質だったのが、今ではすっかり鳴りを潜めてしおらしくもなってくれた。性根こそは変わらず強かで、プライドが高いままだが。


 「それで、さっきは何をしていらしたの?」
 「日誌だよ。この世界に来た当初から綴っていたのを、改めて書き写しておこうと思ってな。領主を降りたから、もう過去を知られても問題なかろうて。」
 「それは、私と出会う前のことから書いていますの?」
 「ああ、お前と会ったのは38・・・いや33だったかの時、それから30年以上も『ダイス・ウォードル』を名乗っていたから。」
 「あの頃は何もかも新鮮でしたわね。それに、まさかどこの馬の骨とも知らない男性と結婚させられるとは思いませんでしたわ。」
 「俺もとんだじゃじゃ馬娘がいたもんだなと思ったよ。」
 「おあいこですわね。」

 その強さがあったから、今まで支えあってこれた。この女性が妻でよかったと、心の底から思える。ある一点を除けばの話であるが、そればかりは妻には何の非もないことだ。 

 それは運命が悪かったとしか言えない。今となっては昔の話だが。

 「さて、一息ついたところでそろそろ再開といこうかな。」
 「あとで私にも読ませてくださるかしら?」
 「いいぞ、と言ってもあまり面白いことは書いていないと思うが。」
 「他人の日記は面白い読み物だと聞きますわ。」
 「趣味のいい読み物とも言わないな。まあ、これは読んでもらうために書いているのだけれど。」
 「それは、一体誰に?」
 「俺が生きていた証のため。」

 私と同時期にこちらの世界へと飛ばされてきた多くの友人、こちらの世界で会えた人たち、そして最愛にして最初の妻、その多くが悲しくも私よりも先に旅立っていった。思い返す度に心が痛む。自分の無力さ、世の無常さに。

 思えばすべての始まりの出来事すら理不尽に満ちていた。その時から最大限の努力を以て抵抗し続けていたが、その度に運命に押し流されてもいた。父のように器用な生き方が出来れば、兄のように力を持っていればとも悩んだ、そんな苦難苦闘の日々を綴られている。
 
 今となってはすべてが思い出。いずれ脳が蕩けてきた頃に思い出すために読む必要が出てくるかもしれないし、あるいは別の誰かが読むこともあるだろうし、綺麗な装丁本に清書しておいたほうが読みやすい。その一ページ目となる、当時漂着物の中から拾ったボロボロの大学ノートを捲る。

 「あの頃は右も左もわからなかった。本当によく生きていられたと思う。」

 数百人単位で、『あの時』流れ着いた人たちが、落ち着くころには数えるほどしか残っていなかった。狂乱の中死ぬ者もいれば、不平不満を垂らしながら村から出て行った者、領地同士の戦で死んだ者などすべてを含めて。それら一人ひとりの名前を、誰かが記録しておかなければならないと、私が自主的につけていたのが始まりだったか。

 「・・・そうだ、忘れていた。」

 日記ともう一つ、遺さなければならないものがあったのを思い出した。

 
 ☆


 「なるほど、つまりキミが父上の言っていた兄だということは・・・ステイッステイッ!わかった。ステイッ!落ち着け!」
 「ヨコセ・・・オレノ・・・。」
 「正確にはキミのものではないんだろう?ステーイ!」

 旅が終わって数日のこと。アキラはバロンの特別補充員として活躍していた。 

 今のところは、朝の体操のレクチャーとかそんな地味なのだけれど、ゆくゆくは戦闘員として徴用されることになるという。

 その一環として、アキラは隊長ワルツの元で話をしていたのだが・・・

 「うーむ、エリザベスが言うからには本当なのだろうけど、しかしにわかには信じ難いな。」
 「それを言ったら、ツバサがこの世界に来たってこと自体が奇跡でしょう。」
 「まあ確かに。しかし、それもさらに別の兄が来たというのは、ちょっとややこしすぎやしないか?」
 「それは運命に文句を言って。」

 ツバサの息子であるワルツ隊長が見せてくれたのは、兄・・・平行世界のアキラが持っていた短刀である。ガイが言っていた鷹山流短刀術に使われる、伝統の物だ。

 「ならウチに還すべきだろう?」
 「だが今は我が家の家宝なのだ!ステーイ!」

 そんなわけでアキラは我慢のできない犬のように手を伸ばしている。

 「この剣に相応しい、強者ならば授けることもやぶさかではないが。」
 「なら、俺は相応しい。」
 「それは果たしてどうかな?バロンの精鋭たちを相手にしても、そんなことを言えるかな?」
 「ホホーゥ?」

 面白いことを言いなさる、とアキラは不敵に笑う。

 「いっちょ、ここらで俺の実力というやつを見せつけてもいいかもな。」
 「おいおい、仲良くしてくれよ?しかしまあ、新入りのキミを優遇しすぎるというのも、彼らに対してメンツが立たんと言うもの。」
 「じゃあやろうよ!いややりましょうよ!」


 ☆


 そんなわけで俺は今、訓練所の入り口前でウォーミングアップしている。

 「随分と余裕そうだな新入り。」
 「おっ、ラッツ先輩。」
 「副長と呼べ副長と!」

 この人は若くしてバロン副団長にまで上り詰めたエリートのラッツ先輩。

 「今日の種目は、バロン新人いびりもとい新人歓迎の『100人組手』だ!可愛がってやるから覚悟しておけよ!」
 「先輩の時はどうだったんすか?」
 「副長と呼べ!私の時はもちろん全員突破したさ。史上最年少にして、唯一さ。」
 「当時いくつ?」
 「20だ。」
 「じゃあ今日から2番目ね。」

 俺はまだ19だからな。ガイの話に出てくる俺は20代前半らしいけど、なら歳が若い俺の方が強いというのが常套。

 「武器は?」
 「いらない。拳が一番だ。」

 ともかく訓練場に足を踏み入れると、視線が一斉に集まるのを感じる。教室の皆にあったほんわかとした空気はまあないが、最初から期待もしていない。

 「じっくり教えてやろうではないか~・・・バロンのきびしさをな~・・・。」
 「おおこわいこわい。じっくりと言わず、10人ぐらいまとめてかかってきてくれたら楽なんだけど。」
 「言うたな?最初からそのつもりだ!第一小隊出ろっ!」

 兵隊たちが目の前にズラッと並んだ。一糸乱れぬという具合に、同時に抜刀して同時に切りかかってくる。

 「トゥッ!飛龍三段蹴り!」
 「グワー!」
 「なんだ、バロンだのゼノンだのも大したことねえな!」

 首筋を蹴りつけて、一斉に10人をノックアウトする。

 「成程、言うだけのことはあるな。第二小隊、ゼノン能力の使用を許可する!」
 「能力と言いつつ銃撃じゃないか!当たらなければどうということはないけどな!」
 「くそっ、ちょこまかと!」

 姿勢は低くし、目を凝らす。銃口を見れば攻撃の向きは予測できる。

 「魔法が使えるからって、やることは変わんねえな!何人いようと、一度にかかれる人数は3人が限度ってもんだ。」

 そんなこんなで、あっという間に99人を撃破した。

 「こっちはまだまだ余裕あるぜ?」
 「なかなかやるな。だが、次は私だ。」
 「・・・ちょっと休憩させて。」
 「よかろう。10分休止だ。」

 気づけば参加者以外のギャラリーが増えていた。ゼノンの他の部隊や、見物に来た民間人。いつの間にか賭けが始まっている。

 「新入りに賭けるやつはいねーかー?」
 「さすがにラッツが勝つだろう?」

 一応軍隊なのに嬉々として賭博に参加しているのはいかがなものか。

 「割と薄給なんだよ。」
 「こんなことしてるから薄給にされてるんじゃないすか。」

 国を守る軍隊が薄給と言うのもどうしたものかと思う。それにしても、この訓練場もなかなかボロっちい。壁があちこち崩れたままになっている。

 まあ、ここ最近ずっと平和だったらしいから、平和ボケしているのも経費削減されるのもわかるが、脅威というものは既にそこまで迫っている。

 事実、俺たちはスペリオンに負けているし。

 「よーし、続きだ続き!」
 「気合入ってるな。だがそれもすぐ叩き折られるだろう。」

 新人のやる気叩き折ってどうすんのさ。負けるつもりもないが。

 「もう一度聞くが、武器は本当に持たないんだな。」
 「いらない。鍛えたのは拳だけだったから。」
 「それは誰から教わったのだ?」
 「自己流。誰も教えてくれなかったからな。」
 「お前の環境がどうだったのかは知らないが、お前は戦いを学ぶ必要がなかっただけではないのか?」
 「・・・そうかもしれない。けど、俺は強くならなければなかった。」
 「何のために?」
 「・・・今関係ある?」
 「そうだな。さあ来い、チャレンジャー!」

 詮索されるのは嫌いだ。

 「剣に雷を纏わせ・・・斬ッ!」
 「うおっと!!」

 斬撃が空気を切り裂いて襲い掛かってくる。あまり大げさなのは好きではないのだが、危険を感じて大きく避ける。
 
 果たしてその考えは正しかった。

 「ぐっ・・・避けたはずだろ?」
 「遅いな。私の斬撃は見た目以上に広いのだ。」
 「当たり判定おかしいだろ。」

 跳び避けるのが一歩遅れたのか、足が痺れる。見れば地面もうっすらと焦げているのが見える。

 「ちょっと、マジかよ?」
 「マジだ。」
 「マジで殺す気か!」
 「本気だと言っておろう!」

 バリバリと電流走る剣先を向けて、ラッツはアキラを追う。

 「子供相手に本気出して大人げないですよ!」
 「都合で子供と大人を使い分けるんじゃない!お前も戦士を名乗るなら、大人の男だろう!」 

 一理ある。と言いくるめられるところ、アキラもまだまだだ。

 「ならこっちも、武器を解禁させてもらう!」
 「ほう、使ってみい。剣か?槍か?」
 「投石だ!」
 
 壁際には、打ち捨てられたレンガが積もっている。それを良いスピードで投げつけてやる。

 「ふん、なかなかいい肩力してるが、そんなお遊びでバロンがグッハァ!」
 「なかなかいい球してるだろう!」
 「おのれぇ!サーベル電磁ムチィ!」
 「はっと!」

 剣先から、電撃が鞭になって伸びる。アキラが避けると、そのすぐ後ろを黒く焦がす稲妻が走る。

 地上に逃げ場はない、と判断するや否や、アキラは壁を走り始める。その身軽さにおおと、観衆からも驚きの声が上がる。
 
 「ちょこまかと!」
 「それっ!宙返り!」
 「舐め腐って!」
 「そして、工事ご苦労さん!」
 「なにっ?!」

 丸く切り落とされ、崩れ落ちる壁石。これを待っていた。大きく飛び跳ねると、オーバーヘッドキックで打ち出す。

 「これでもくらえっ!シュート!」
 「ぐわーっ!」
 「峰打ちじゃい、安心せい。」

 頭に血の昇っていたラッツは、思わぬ反撃に反応が遅れ、クリーンヒットを受けることとなった。

 「勝った!」
 「おのれ、まだ・・・。」
 「!?剣が!」

 ラッツの手を離れた剣がひとりでに浮いて、空中を舞っているアキラの喉元に迫る。

 「あ、危なかった・・・。」
 「ふっ、最後まで油断は禁物という事だ。」
 「殺す気かい!」
 「避けると思ったさ、あえてだ、あえて。」

 間一髪で避けたが、危ないところだった。抗議の一つもしたくなったが、そこに割って入る人影があった。

 「そこまでだ。この勝負、アキラの勝ちとしておこう。」
 「隊長!」
 「ラッツもそこは認めているだろう。」
 「悔しいですが、力はすごいものがあります。ですが・・・。」
 「うん、まだまだ遊び心が抜けていないと見える。」
 「常に余裕をもって当たれというのが、教えだったので。」
 「だが、無駄な行動が多かったように見える。無駄と余裕は違う、わかるね?」
 「・・・はい。」
 
 確かに、油断が無かったかと言われると嘘になる。締まりがなってないと思って、油断をしていたのはアキラの方だった。

 「賭博なんかやってる連中に負けるはずがないと、油断がありました。」
 「賭博?またか、全くそれは恥ずかしいところを見られてしまった。」
 「ギクッ、わ、私は参加してませんが。」

 「まあともかく、これからは忙しくなってくる。抜かれぬことが誇りであった我らの剣にも、出番があるやもしれぬ。そのための予算案提出もしてきたところだ。」
 「という事は、給料が!」
 「施設の整備もな。だがそのために、弛んだ根性に喝を入れるために、今日の100人組手を計画したのだ。」
 「な、なるほど。」

 実際アキラにも、今日戦った相手が弛んでいるのが見えた。本気ならもっと苦戦していたことだろう。無論負けはしないが。

 「新進気鋭の後輩が出来たのだ。皆、模範となれるように気を引き締めるように!」
 「オッス!よろしくおねがいします!」

 つまり、隊長には一杯食わされたというわけだ。ともあれ、アキラは改めてバロンの一員となった。

 「ところで隊長。あの短刀のことなんですが。」
 「うむ、そうだったな。約束通り君に・・・。」
 「いや、辞退しようかと。」
 「何故?」
 
 今日の戦いで分かった。短刀術は今の俺には性に合わない。

 「やっぱり、俺とその剣の持ち主だった俺は別なんだ。俺は俺の戦い方を磨くとするよ。」
 「そうか、それもいいだろう。代わりにラッツから剣術を学ぶと良い。」
 「俺雷出せないですけど?」
 「雷が無くても、キミはバロンなんだ。実際父上もそうだった。」

 そういえばそうだ。ツバサも能力がない代わりに、ツバサなりにがんばってたんだ。兄貴分の俺が負けるわけにはいかない。

 「フハハハ、私がみっちり鍛えてやるから覚悟しろよ!」
 「でも一回に俺に負けてるってことはお忘れなく。」
 「今日のところは、私の負けという事にしておいてやる。だが、私が本気で当たれば必ず私が勝つだろう。」
 「はいはい、よろしくおねがいしますね、先輩。」
 「副長と呼べ!いや、これからは師匠と呼べ!」
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