PEACE KEEPER

狐目ねつき

文字の大きさ
35 / 154
Brotherhood

34話 兄と弟④

しおりを挟む
 何故アウルをここに寄越したんだ、エレニド。
 あいつ、まさか俺を助けようと……?


 何はともあれ助かった。
 戦力としては心許ないが、これで時間が稼げる。
 他の団士もそろそろ駆け付けてくるハズだ。
 それまでなんとか持ちこたえてくれ、アウル……。



 疾走はやい――!
 だが、攻撃が正直過ぎる――これでは!
 やはり、迎撃されたか……。



 アウルの奴……やはりスピードは大したもんだな。俺には無い持ち味だ。
 ――よし、そこだ! 行け!
 なにっ!?

 魔神があんな術までビスタに覚えさせていたとは……。
 アウル、もう少し距離をとって戦わないと時間稼ぎにならないぞ……!

 馬鹿っ、真正面からはヤメろ!

 ビスタが剣を――マズい!

「アウル、距離を――!」







 弟が斬り伏せられた姿を見て、俺はやっと自分の考えが間違っていることに気が付いた。

 俺は一体何をやっているんだ?

 アウルを、この国を、命を懸けて守ると誓ってここに来たっていうのに……。

 "死にたくない"という感情ばかりが先行し、弟の登場を素直に喜んでしまい、守ると誓った相手に護られるという体たらく――。

 "俺は大馬鹿野郎だ"

 なにが天才だ。
 なにが親衛士団だ。
 なにがピースキーパー家だ。
 
 たった一人の弟だぞ。
 お前が守れよ、クルーイル!



「ビスタぁ――っ!」


◇◆◇◆


「大した実力もないのに出しゃばる真似なんてするから、こういう目に遭うんだよ」

 そう言いながらビスタは、地に伏したままのアウルの方へと歩を進める。そして側に立ち、目元へと剣を突き付けた。
 だがそこで先程から動かなかった――否、動けずにいたクルーイルから突如名を呼ばれ、硬直してしまう。

(――兄貴!?)

 その声に反応したのはビスタだけではなく、身体から精神が乖離しかけていたアウルもであった。声量の大きさのお陰で意識を取り戻したのだ。

「……なに?」

 すっかり興味を失っていた相手からの介入。
 ビスタはやや苛々とした調子で返事をする。
『思えば今日は止めを刺すのを邪魔されてばかりだな』と、少しだけ苦笑を混じらせながら。

「俺を……。俺を先に殺れ!」


(えっ……?)

 唐突な提案にアウルは驚き、ビスタも眉を動かす。
 ただ、その提案は問題の解決足り得るものでは決してない。
 殺す順序を入れ替えるだけ、という至極単純な内容ではあるが些か不可解であった。

「急にどうしたんだい、クルーイル? さっきはあんなに"死にたくない"って喚いてたのに……何か狙いでもあるのかな?」

 切っ先の狙いを瀕死のアウルから少しも逸らさずに、同じく瀕死であるはずの男にビスタが問う。

「これは、元々俺の戦いだ……! アウルは関係ない。だから、殺るならまず俺からにしろ……」

(ダメだ――兄貴!)

 と、アウルは叫ぼうとするが、負傷による弱りきった身体では声を出すのも儘ならない。
 必死の訴えは兄には届かず。


「……主張は良く解らないけど、潔いんだね。わかった。友人であるキミに敬意を表して、先に殺してあげるよ」

「……オマエ・・・とは友人になった覚えは無いがな」

「あははは」

 この後に及んで憎まれ口を叩くクルーイルに向けて、ビスタは長剣リアーズルの切っ先を先程と同じように心臓部へと突き付けた。

(ダメだって、兄貴……! 頼むから……)

 懇願をするようにアウルは目で訴えを続ける。
 通じたのか、大人しく坐したままのクルーイルと視線がぶつかる。
 するとクルーイルは『心配するな』とでも言わんばかりに、落ち着いた様子で微笑んでいた。
 しかしその笑みは、安心感を与えるようなものではない。
 "覚悟は決まっている"といった類いのそれであった。



「――最後に何か言い残すことはあるかい?」

 魔神なりの温情なのか辞世の言葉を残す機会を与えると、クルーイルは静かに口を開く。

「そうだな、ビスタ・・・に伝えといてくれ。先にあっちで待ってる、と」

「……伝えとくよ」

 


「それと――アウル」

 ―――っ!

 不意に呼ばれたアウルは返事をすることが敵わなかったが、目の動きだけで反応を示す。


「約束……守れなくてすまない」

 ――ダメだよ、兄貴。そんなこと言わないで。

「さっきも言ったが、お前は必ず俺なんかよりも優秀な戦士になれる。それは嘘なんかじゃない。俺が保証する」

 ――兄貴、死なないで、お願いだから……!

 涙を流すアウルは気力を振り絞ってどうにか起き上がろうとする。
 だが血を失いすぎたためか、身体に全く力が入らない。


「……あと最後に、ひとつだけ」

 ――やだ。やだ、やだ、やだ、やだ……!



「今まで兄貴らしいこと、何一つしてやれなくて……ゴメンな」

 ――兄貴っ!!

 その言葉はクルーイルがずっと言えずにいた言葉。
 不安定でとてもイビツだった兄弟愛。
 最後の最後で和解を見せ、結実したのだ。




「終わり?」

「ああ……殺れ」


 その日、一人の戦士が、命を散らした――。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...