さつき

佐々木 すい

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皐月

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 4月の終わり、彼女は部活を始めた。
彼女は、今まで運動と無縁だった。運動が苦手というのもあるが、体力が無いため運動は自然と避けてきたのだ。なので、僕は勝手に彼女は写真部とか美術部とか、文化系の部活に入部すると思っていた。しかし、いつものように一緒に登校していたとき、
「私、バドミントン部に入部する」
「は?」
 僕は冗談だと思った。いや、冗談であってほしい。僕は、中学3年間バドミントン部に所属していたが、バドミントンが激しく辛いスポーツということは身にしみて分かる。今の彼女の体力でバドミントンを始めたらきっと初日で辞めてしまうだろう。なので僕は
「なんでバドミントンなの?写真部とかいいと思うけど。」
 と言うと彼女は
「バドミントンずっとやってみたかったんだよね~奏多に教えてもらえるし」

 次の日彼女は、本当にバドミントン部に入部した。

 彼女が部活を初めて1ヶ月程が経ったころは、朝、彼女と登校中、前の日部活の話を聞くのが僕の日課となっていた。
「ずっとグラウンド走らされてさぁ、私バドミントンしたくてバドミントン部入ったんだけど!!」
「試合でバテないように、ランニングは大切だよ。麻里ただでさえ体力ないんだから。」
 僕が麻里にそう言うと、麻里は案外すぐに納得した。
 午後から雨が降った。グラウンドは雨で走れそうに無いし、同じクラスのバドミントン部のやつが校内で走ると言っていたので、麻里の部活の様子を見に行くことにした。2階の東棟の廊下をバドミントン部が走っている。近づくと邪魔になると思い、廊下がちょうど見える教室から見ることにした。男子20名程が2列で走り、その後ろを女子10名程が2列で走っていた。僕の高校は部活に力を入れていて、いわゆる部活強豪校というものだ。もちろんバドミントン部も強く、県内の選抜に選ばれるほどの実力のある人や県外からわざわざ入部しにきている人が集まった部だ。放課後はよくコーチの怒号が廊下や体育館に響いている。僕は走っているバドミントン部の人たちを見て、ある異変に気づいた。麻里が居ないのだ。外は大雨だから先に帰るとは思っていなかったが、帰ってしまったのか。だから、僕も帰ることにした。 
 家に着くと、麻里に電話をかけた。留守電設定になっていたため、僕はメッセージを残すことにした。
「もしもし麻里?帰るなら連絡しろよ~!明日も雨だから部活廊下でトレーニングらしいぞ(笑)じゃあ、明日な。」

 麻里が初めて居なくなった日だ。
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