かつて転生者だった私たちは

塩沢ぷじゃん

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 運命のイタズラというものがあるとするなら、きっと今日この時この場所に来たことがそうなのだろう。


 特に用という用もなく町を散策していると雨が降ってきた。雨宿りしようとして、そういえばこの辺に気になっていた喫茶店があることを思い出す。
 普段は喫茶店なんて小洒落た所には恥ずかしくて行けないのだが、この時は雨宿りという自分への言い訳もできたし行ってみようと思ったのだった。

 喫茶店【流星亭】に入ると見目麗しいマスターが「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」とまるで某声優様のような美声で声を掛けてくれた。
 あまりにも眩しすぎて正直ずぶ濡れになってもいいからすぐお店から逃げ出したいという衝動を抑え、端の方のテーブル席にコソコソと座る。

 紅茶とケーキのセットを頼み、チラチラとマスターを盗み見た。目の肥やしにするとかでは決して無く、どうにも以前見たことがあると思ったからだ。
 長身で均整のとれた体つきに濃い赤色の髪、橙に近い金色の瞳。
 ケーキセットが運ばれてきた際、思いの外至近距離で相対してしまったのでアワアワした態度しかとれなかったのがうらめしい。
 純粋なヒロインならこんなことないのかしら。見た目は可愛いはずなのに、前世の記憶に引っ張られていまだにコミュ障気味なのは我ながらどうかと思う。あ、紅茶美味しい。
 声に出てたのか、マスターがこちらを見た気がしたけど自意識過剰かもしれない。

 チリンチリンとベルを鳴らしながら店のドアが開く。

「いきなり土砂降りで参ったよ。しばらく雨宿りさせてくれアレク。あ、ついでにプレート閉店にしといたから」

 入ってきたのは黒髪黒瞳、やや細身で女性と見間違えるくらい美形。「勝手なことすんなジュリアン」とのマスターの言葉に親しい間柄なのかななんてケーキを食べながら聞き耳を立てる。ケーキも美味しい。

 ……え、ジュリアン?ジュリアンと仰った?それにアレクって、アレックス⁉︎
 騎士団長の息子で自分も騎士団に所属してたんじゃないの⁉︎まさかだって喫茶店のマスターなんてしてるなんて思わなかったから完全にその可能性を排除してたわ。
 そう思って改めて見てみれば確かにアレックス・クルーガーだ。髪型をもう少し無造作にすればあの頃と同じ、いやもちろん今はもっと大人っぽくなってはいますが。
 そんな私をよそにややトーンを落としての会話が続く。

「なんだ、お客さん居たのか。ってあの顔……どうやら俺が天才アーティストのジュリアン・カーシーだと気付いてしまったみたいだな」

 頼まれたらサインの1つでも書いてやるかなどとまんざらでも無さそうな表情を浮かべている。“あの顔”と言った時に俺と同じ考えかと思ったじゃないか、と呆れつつアレックスが口を開く。

「いや、あの顔はどう見たってーー」

 言いかけたところでまた店のドアが開いた。

「すまない、閉店の札が掛かっていたがしばらく中で休ませてもらえないだろうか」

 入ってきたのはフード付き外套をまとった二人組。
 フードを下ろすと金髪に青い瞳の美形でまさに絵に描いたような王子様だなーもうイケメンお腹いっぱいだなー……王子様って本当に王子様じゃん!
 あまりの華やかさに意識がどこかへ行ってまた転生するのかしらなんて呆けてたらまさかの王子ご本人!

「ライラ、どうぞ入って。アレックスにジュリアン、久しぶりだな」

 ジュリアンが居るとは思わなかったのか意外そうな顔をしているが、アレックスが騎士団ではなくここに居ることは承知してるのか。
 王子、エリオット・シュザウアーに促されて店内に入ってきたのは王子の婚約者候補、いや、学園の卒業パーティーで正式に婚約したライラ・ベレッティーだ。

 どうしよう、『聖天乙女』の主要キャラ勢揃いじゃない。私はどうすれば、いえ、もう学校は卒業したのだし今更何も無いわよね。でもみんなとあまり交流無かったし、「みんな久しぶりー」なんてフレンドリーに話しかけられないよね。特にライラとは一応ライバル関係だった訳だし、ここは存在を消すべくただのオブジェのひとつに

「え、聖女……」

 ライラの呟きに皆がこちらを向く。アレックスが、あー…という表情をしている。私はといえば、全員に注視されてきっととてつもなく間の抜けた顔をしていることだろう。
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