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第二依頼

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「おい…お前らそこまでかきこまなくても飯は逃げないぞ」

「ふぉんふぉ?」

「……?」

「はぁ…相棒フェイこいつらそんなに酷かったのか? あそこにいた時」

「ん、気分で飯抜きとかもあったから」

「なるほどな?」

ローストビーフを丸ごと口に入れようと奮闘しているレンと不思議そうにこちらを見るリンを見ながら、あいつを始末しておいて正解だったと思う。

「はは、レン君…ちゃんと切って食べた方が美味しいよ」

配達人フレディ』は中々口に入れれないレンを笑いながら自分の分のローストビーフを均一に切り、レンに分ける。

「おい、お前の分までやらなくても良いんだぞフレディ」

「そう言うシリウスもリンちゃんに生ハム分けてるじゃないか」

「………」

配達人フレディ』の言う事を無視しながら遠慮がちに食べているリンの皿に自分の分を分けていく。

「はぁ…」

少し残った自分の分を食べ終わった後に席を立ち、帽子掛けに掛けている帽子を被ると仮面を着け相棒を手招きする。

「?」

相棒フェイも食べ終えたら準備しろ、下見に行く」

「ん、それなら大丈夫」

「リン、レン、残ったの食べて良いから良い子にしてて」

「「分かった!」」

「…現金な奴らだ」

そう言いながら準備し終えた相棒フェイを連れ、外に出るために扉を開け階段を上る。

「おい、外出するから開けてくれ」

そう外に伝えると隠し扉が開き、三人の家族らしき人物が見える。

「いってらっしゃいませ」

「おう、警備任せたぞ」

「任せた」

家の外に出ると、街に向かい地図を呼び出し依頼された標的のいる宿に向かう。

「随分とここらへんは入り組んでるな」

「このくらい複雑ならバレずに始末出来る」

そう言いながら俺と相棒フェイは隣の二階建ての宿の辛うじて空いている窓に投げナイフを投擲する。

「当たったか?」

「ばっちり」

空いた窓からなくなった気配を確認した後に再び宿の周辺を歩き回る。

「入り組んでいるからバレずに始末は出来るだろうが、この衛兵の量は凄いな」

「逃走経路、ここならあそこの時計塔から狙撃して屋根伝いに走って、ここの市場に紛れるのが良い」

「同感だ」

地図を立体にして共有して提案してくる相棒フェイに賛成し、この入り組んだ地区全体を見下ろせる時計塔に向かう。

「私の銃だとこのぐらいが限度、それ以上は殺傷能力が落ちてしまう」

「なら近い方が相棒フェイ遠い方を俺が狙撃する形だな」

時計塔を囲んでいる塀を人目がつかない場所で超え、中に入り階段を上がって行く。

「それにしても、けほっ…ここ整備ちゃんとしているの?」

「少し埃っぽいな」

「さて、もうすぐだな」

少し愚痴を吐きながら時計塔の内部から上がり、鐘が置かれている頂上につく。

「耳栓だ、明日狙撃する時はこの鐘が鳴る深夜に狙撃する…ここまで月が明るいならいけるよな?」

少し煽るように言うと相棒フェイは少し首を傾げ自信満々に言う。

「余裕」

「分かった、頼りにしてるぜ」

暫くここで見下ろして、辺りを見回す。

相棒リアン、あそこ」

「ん?あれか」

身体強化の魔法を使い視覚を強化したあとに相棒フェイが指さした方向を見ると、前に助けた冒険者が標的と会って何かを話している。

「というか、お前身体強化使えたのか」

「使える、一応魔法を一部だけ習わされた」

「そうか、それなら良い」

良い事を聞いた、それなら逃げる時に置いて行ってしまうことはないだろう。

相棒リアン!」

「どうした……おい、予定が違うぞ『配達人フレディ』」

素早くリスティアをホルスターから引き抜き、馬車に乗った標的を狙う。

「商人を狙うから相棒リアンは研究者を」

「分かった、ヘマすんなよ」

門があるこちら側に来る馬車を狙い、その中にいる研究者がどこにいるのかを予測する。

「すぅ……はぁ…」

引き金を引き魔弾を同時に発射する、直線的に突き進むリスティアの魔弾は正確に街灯に照らされた馬車の中にいるであろう標的の影に当たる。

「こっちも仕留めた」

その馬車をひいていた商人は正確にノーシュを撃った相棒フェイに射抜かれている。

「確認のため近づくぞ」

時計塔から飛び下り、屋根に着地する。

その時の衝撃が響くが気にせずに屋根の上を駆け抜ける、その隣に相棒フェイが追い付く。

屋根から飛び降り馬車の前に到着し近づく。

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なにが起きたのか分からなかった、突然馬車が止まったと思った瞬間今回依頼を出してきた『第三皇子』様の腕が消し飛んだ。

「?! ッは」

突然の激痛が走ったのだろう、声にならない叫びを上げのたうち回る『第三皇子』を護衛とシスターに任せ外に出て辺りを警戒する、馬を引いていた商人の頭が吹き飛び内容物が飛び散っていた。

「くそっ」

舌打ちをしながら前を見ると、淡い街灯の光と月明かりに照らされながら二つの黒い影が暗闇から現れる、よく見ると全身を黒の服で統一した人だ。

あれは…あの時の!

「近づくな!」

そう叫ぶも近づく顔が闇に包まれている二人は何かを素早く引き抜き馬車に向かって魔法のようなものを発射する。

慌てて腰の剣を引き抜き全て弾き馬車を守る。

「なるほど、相棒」

「ん、分かった」

そう話しながら片方が白い…銃?! なんであんなものが。

動揺している瞬間にけたたましい音をあげながら無数の魔力の銃弾が『曲がりくねりながら』こちらに迫る。

「風の精霊よ! 馬車に風の加護を!」

風の精霊にお願いをし馬車の周りを小規模の竜巻を発生させ、銃弾を弾く。

「あれは無理」

「問題ない」

もう片方が黒い銃を構え辺りの魔素が吸われ始める。

「まずいッ」

風の精霊が息が出来ないように口をパクつかせ苦しむ、それのせいで竜巻の勢いが落ちてしまう。

「土の精霊よ! 土の加護で守りたまえ!」

一番相性の良い土の精霊を呼び出し壁を何十にも作り馬車にも分厚いドーム状の壁で覆う。

「相——、——な?」

「問——ない、標——以——も始——」

何か言っているようだ、聞き取りづらいが気にせづに魔力を精霊に流し壁の強度を上げる。

少し息を吐いた瞬間にとてつもない衝撃の後に自分の体が吹き飛ばされ、体の角度がおかしくなりながら骨をぐしゃぐしゃにされ吹き飛ぶ。

「ぐぅ!? 水の精霊よ癒したまえ」

口から普通に生活していたら見ないような量を吐き出しながら前を見て傷を癒しながら立ち上がる。

「そんなっ」

あれほど魔力をつぎ込んだ壁は無残に抉られ、道が出来ていた。

「や、やめ——」

ドズンッ!っと鈍い音が三発聞こえ馬車に慌てて近づくと

「相棒、これ?」

「あぁ、そいつだ」

『第三皇子』の頭が半分しかない死体であったであろうモノを掴み引きずりながらもう一人に放り投げる、それをもう片方が頷きながら心臓にもう一発撃ちこむ。

「こいつは?」

いつの間にか近づかれ鳩尾を殴られ「パンッ!」と体の中で聞こえてはいけない音を聞きながら蹲る。

「ま——」

なにかをもう片方が言おうとした瞬間に視界が暗闇に包まれる。

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「おい」

「え?」

少し声を強めながら冒険者の頭を吹き飛ばした相棒フェイに詰め寄る。

「こいつからまだ報酬を受け取ってないだろ」

「あー、まぁー…いいじゃん」

「顔を背けながら言うな、不満げな顔が仮面越しからでも分かるぞ」

相棒フェイは不満げな様子を見せながら逃走経路に向かって身体強化をして駆け抜ける。

「あ、おい…」

溜息を吐くのをぐっとこらえ、相棒フェイの後を追うように逃走経路に向かって駆け抜ける。

しばらく駆け抜けスラム街に侵入する、相棒フェイの姿が見えないが問題は無い。

魂の半分をノーシュに入れてあるため正確ではないがどこにいるか把握出来る。

街灯すらないスラム街を駆け、おおよそ把握した場所に着くと三個の人間であったであろう死体が転がっている。

「おい、こいつらどうしたんだ相棒フェイ

相棒リアンの事を馬鹿にしたのが一人、家族ファミリーを襲うと言ったのが二人」

隣の暗闇から現れた相棒フェイは仮面を着けていても分かるほどに殺気をまき散らしている、正直息がし辛いほどなので押さえてほしい。

「災難だったな、さて…そろそろ」

「戻ろう」

隠れ家に向けて再び駆ける、つくづく月の光が明るい日だ。

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「おかえりシリウス、カイレン」

「おう」

「ん、ただいま」

「随分遅かったじゃないか、下見にしては」

「始末してきた」

「……不測の事態だね」

「あぁ、予定と違ったぞ『配達人フレディ』」

「そうか、で? 始末したのは標的だけかい?」

「そこに関しては問題ない、全員始末した」

「なら良かったよ」

やれやれといった感じでほっと溜息を吐く『配達人フレディ』を横目に仮面を外す。

「依頼主に報酬の増額を申請するが、問題ないな?」

「それに関しては問題ないよ、こちらから手配しておくよ」

んじゃ、寝るか。

「俺は寝る、相棒フェイも休んでおけ」

「分かった」

そうやってベットまで行き横になり寝ようとすると。

「あ、駄目だよお兄さん」

「そうだよ兄ちゃん」

レンとリンに両方の裾を掴まれる。

「なんだ」

「お風呂入らなきゃいけないでしょ!」

「そうだよ!」

「……はぁ」

生活魔法を使い体を清め、体全体の汚れを消す。

「ほら、これで良いか?」

「ずるい」

「むー…」

聞き流しながらベットに仰向けになり顔に帽子を乗せ眠りにつく、正直予想外の事が起きたため風呂に入り疲れを癒したいが面倒なのでやめておく。

「おやすみ相棒フェイ

聞こえているか分からないが言った後に襲ってくる眠気の暗闇に身を任せる。

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はぁ…相変わらずここは胃が悪くなるなぁ。

そんなことを思いながら王城の一室で今回の依頼主である人に会っている僕は、溜息をそっと吐く。

「ディ、そう呆れた溜息を吐かないでくれ」

そんなことを言いながらメイドが入れた紅茶を飲み、満足した表情で笑顔なこの人を見て再び溜息を吐く。

「エルフォン様、本当に増額しても大丈夫なのですか? この額まで」

「エルと呼べとあれほど」

「はいはい、エル、本当に良いのですか?」

「うむ、かまわん」

そんな事を言いながらぼったくりとまで言える額、100金貨まで増額すると明記されている要求書を簡単に許可するこの人は本当に公爵の一人なのだろうか、もっとこう…なんとか言うものではないのか?

「それにしても驚いたな、本当にやり遂げるとは」

「本人たちに聞いたところ精霊を操る冒険者がいたとか」

「おそらく帝国が召喚したと言っていた噂の勇者の内の一人だろうな、よくやってくれたものだ」

「それ、外交的にまずいのでは?」

「問題ない、どうやら帝国が召喚した26人の内使い物にならないと切り捨てられた者だろうからな」

「えぇ…それ以外だと問題じゃないですか」

「自国が召喚した大切な兵器をそう簡単に、あの国が他国に行かせると思うかい? ディ」

後ろから声がしたため振り返らずに答える。

「それは確かに、そうですねグウィン様」

相変わらず近くに来るまで気配が無い人だ、心臓に悪い

「グウィン、今私はディとティータイム中だ」

「おっとそう怒らないでくれエルフォン」

そう言いながら部屋を出ていく、一体なんのために来たんだ。

「それで? ディ、あの二人はこの国に取り込めそうかい?」

「それに関しては大丈夫でしょう、報酬さえきちんと払っていれば」

「……信用してかまわんのだな?」

「ええ、かまいませんよ」

そう言いながら遠くを見るように目を細め溜息を吐くと席を立つ。

「それじゃ報酬を渡して来ますよ、エル」

「待て、最後に聞きたいことが」

「なんでしょうか」

「男の方は…その、まだ家族のいない独り身なのか?」

少し理解が出来なかった、もう一度聞こう…うん。

「その、なんですか?」

「独り身なのかと聞いているのだ」

これは、まさか? は? えぇ…?

「まさか『欲しい』のですか?」

そう言うとその凛々しく美しいハメワ一の美貌を持つ顔を赤らめ、もじもじして長い銀髪をゆらゆらと揺らしながら照れているこの人を見て。

「えぇ…」

そんな言葉しか出なかった、普通の男性なら惚れるだろうが昔からの知り合いなため免疫があるためそのような言葉しかない。

「私の風魔法に対応出来たのはあの男以外いない、その……そう! 興味がわいた」

「意地でも言わないんですね」

呆れながらどうしたものかと顎を触り首を捻る、いやほんとにどうしたものか? このエルフォンという女性は『欲しい』と思えば駄々をこねて自ら赴くほどの欲を持っている、我儘な人だ。

「そうだ! 今から会いに行くぞ、ディ」

「は? え? ちょっ、まっ」

いつの間にか体を持ち上げられ肩に担がれると、一瞬浮遊感を感じたかと思えば窓から飛び出ており空中を飛んでいた。

「で…どこだ?」

「えぇ…言いませ、いたた! ギブ! ギブ!」

体が軋む音が聞こえた瞬間に痛みが襲ってきたため諦めて言うしかないだろう、じゃないと体が真っ二つになって死んでしまう。

「街の離れ、スラムの奥にある場所です」

「あそこか」

再び浮遊感を感じるともの凄い風が襲い掛かって来る。

「っ!」

息が出来ない、したら内臓が飛び出てしまう。

「ここか?」

「けほっおえっ」

「おい、吐くなよ?」

「誰のせいだと?」

息を整えると、下を見て指を指す。

「あそこです」

「ふむ、分かった」

そう言うとまた浮遊感を感じた瞬間に風圧と重力の圧が体に襲い掛かりながら急降下を開始する。

「う……むり」

吐きそうになると体が浮き少し離れた場所に浮かされる。

「おえっ」

紅茶とまだ残っていた菓子の内容物が胃酸とともに吐き出され最悪の気分を味合う。

ひとしきり吐くと落ち着いたのでエルフォン様を睨む。

「すまん、ディ…急いでお前に保護膜を纏わせるのを忘れていた」

バツが悪そうな顔をして口を尖らせいじけるように言うこの人に文句を言う気が失せたため、下ろされた後無視しながら家の玄関を開け中に入る。

「む……」

少し不満がある声が聞こえたが無視だ、気にしたら負けだ。

「皆、帰ったよ」

「おかえりなさいま………え?」

「あー、気にしなくて良いよ」

「うむ、いない者だと思って構わない」

部下が後ろにいる人に驚き数分固まっていたため軽く手を振り苦笑いをしながら、やりとりをする。

「ふむ、隠し扉か」

「勝手に隠し扉を開けないでください、なんで場所分かるんですか」

「風の流れを感じるのは得意分野だからな」

翠の瞳を笑わせながら階段を下りていくエルフォン様を慌てて追いかける。

「ディ、開かないぞ? 故障か?」

暫く一緒に下りた後に扉を開けようとするエルフォン様はそう言いながら首を軽く捻り、右手に風を纏わせていく。

「故障してませんから! 止めてください!」

慌てて透明の板に手を当て扉を開けると、静かに紅茶を飲みながら読書をしているシリウスがいた。

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扉が開いたのでそちらを軽く見ると見た事のある顔の貴族がいたので、即座に立ちリスティアを引き抜き構える。

「なるほど、これはなかなか」

「あー、こう言うのもなんだけど安心して大丈夫だよ」

「…本当だな?」

信じることにしてリスティアをホルスターに収納する、嘘だったら奥の手を使って殺す。

「あぁ…すまない私の名前はエルフォン・ヴィント、現ヴィント家の当主だ」

翠の瞳を輝かせながらこちらに詰め寄り抱きしめてくる、反応が遅れ腕が動かせなくなる。

「ん、良い匂いだ」

以上に強い身体能力だ、こちらが身体強化を使っても振りほどけない、まさか亜人ハーフか?

「余計気に入ったぞ、ディ…貰って帰るぞ」

「誰?」

げっ、帰って来るタイミングが悪いな。

「む、似たような者がもう一人…ふむ、運が良い」

相棒フェイ少し手伝え」

そう言った瞬間に浮遊感を感じるといつの間にか相棒フェイは抱き着かれており、俺は空中で浮かばされている。

「むぐっ!」

「んー、こちらも安心する日の光の様な匂いだ」

「お姉さん誰?」

「わー…綺麗」

「リン、レン! 逃げなさい!」

「おっと、危ない者じゃないからそんなに邪険にしないでくれ」

慌てて逃げようとするリンとレンが浮かばされ俺の隣に移動させられる、相棒フェイは相変わらず抱きしめられてる。

「名前は? 教えてくれないか」

妙に甘ったるしい声で相棒フェイに囁くように聞くこのエルフォンとやらは、フレディに頭叩かれ蹲る。

「いったぁ…名前ぐらいは良いだろう?!」

「いきなり人を浮かせたりするのは駄目じゃないですか」

「むぅ」

美しい長い銀髪をたなびかせ立ち上がると指を鳴らす、そうするとまた浮遊感を感じた瞬間に地面に下ろされる。

「さて、今回の報酬だ受け取りたまえ」

そう言いながらフレディに袋を貰い、こちらに渡してくる。

「確かに報酬は受け取ったぜ」

袋の中身を確認し頷くと、風のように儚い笑みを浮かべ笑うエルフォンは再び抱き着いてくる。

「なぁ、主に私の…私達の使者になってくれないかい」

「条件と報酬からだ、相棒フェイの了承もいる」

そう言うと抱き着くのをやめ、少し離れるとコホンッと息を整え喋りはじめる。

「条件はこのハメワ国の裏方として暗躍してもらう、報酬は基本50金貨、条件次第で増額可能」

相棒リアンこれは美味しい話」

「待て、その使者になった場合は俺たちは自由なのか? 拘束されるのか?」

「いや、基本的には自由だけど場合によっては監視をつける、これは本当に稀だと思ってくれてかまわない」

その場合始末屋をやめなくて済むな、基本報酬50金貨はデカい。

相棒フェイとそこのリンとレンの身柄の安全を保証できるか?」

「君を含めて全員の安全を保証する、どうだい? 中々美味しい話だと思うんだが」

「本当にその条件で良いんですか? エル」

「あぁ、かまわないさ近くに置けるならね」

「なら契約の書にサインしてもらうぞ、条件を反故されたら困るんでな」

「そう言われると思って持ってきたよ」

声がした方向を見るといつの間にかもう一人増えている、どのタイミングで真横に来たんだ。

「グウィン、来たのか」

「いやぁ、後々僕の所に殴り込みに来られたら困るんだよねぇ」

そうのほほんとした様子で呆れたオーラを出すこいつは恐らくあの場にいた五人の内の一人だろう。

「あぁごめん僕の名前はグウィン・エルデラント、現エルデラント家の当主さ」

穏やかな笑顔で笑うグウィンとやらはそう言いながらこちらに羊皮紙を渡してくるので受け取る、本物の契約の書だ。

相棒フェイここにサインしろ、俺はもう記入した」

グウィンから万年筆を貸してもらい記入したあとに相棒フェイに万年筆と共に羊皮紙を渡す。

「分かった、ここか」

「ん、終わった」

相棒フェイから返された羊皮紙を受け取りエルフォンに差し出す。

「ん、確かに記入されているね」

そう呟きながら万年筆を羊皮紙に撫でるように書いていく、暫くするとグウィンに渡し頷く。

「宣誓! これより始末屋『シリウス』『カイレン』を我らハメワ五公爵の使者にし、エルフォン・ヴィントの庇護下に置く! これを反故した場合は国による断罪を受ける事にし契約を解除すること。」

「問題は?」

「無いな」

「ない」

そう返答すると羊皮紙は形を変え二つのペンダントに変化する、その一つをエルフォンが受け取り首にかける。

「これはどちらかが」

相棒リアン任せた」

「分かった、大事にしておこう」

受け取り首にかける、すると水晶の部分が変化し月の形になる。

「さて、それじゃぁここから出ようか皆」

「まて、隠れ家を捨てるのか?」

「いや、ここは緊急時の避難用にしよう」

そう言いながら透明の板を取り出し指をなぞりこちらの仮面にデータを送ったフレディに従うことにする。

「嬉しいな、ふふふ」

エルフォンは幼い少女のように喜び足取り軽く相棒フェイと俺の手を掴み引っ張る。

「私の屋敷にこれから住ませるから安心しろ、下手な隠れ家より安全だ」

「待て、引っ張らなくても別に逃げない」

「力強い」

「あはは、エルフォンは一回手に入れたら離したくない性格なんだ許してやってくれ」

「すまない、痛かったか? その…」

「カイレン」

「カイレン、痛かったか?」

「これくらいなら問題ない」

そんなやりとりをしているのを横目にフレディに誘導され隠れ家を出るために階段を上り隠し扉を出て外に出た後に、馬車に乗る。

「はぁぁ……本当なら後で挨拶する予定だったのになぁ」

「そう落ち込むな『配達人フレディ』」

肩から落ち込む様子を見せる友人を励ましながら仮面を装着する、相棒フェイも同じく装着する。

「凄く気味が悪い仮面だね、どこのだい?」

グウィンは少し顔を顰めながら聞いてくるのを横目にフレディが答える。

「自分が昔仲間に作らせた一品です、後にも先にもこの二つしか無い物ですよ」

「?……そうか」

「どうかしましたか? グウィン様」

グウィンが耳にしているピアスが光るのを見た『配達人フレディ』が

「今連絡が入った、ハメワの東にある〈幻魔の森〉に少し前にあった無差別テロに関わる人物が逃亡した」

「〈幻魔の森〉ですか、あそこは通常の冒険者でも行きたがらない場所ですよね? その関係者…自暴自棄になったんでしょうか」

「さぁな、だがこの人物……幹部の一人だったらしくこの国の機密情報を一部記憶しているらしい」

「で? 俺達を見ながら言われても何を伝えたいのか分からねぇぜ」

葉巻を当たり前のように吸い、煙を吐きながら言う。

「そう、分からん」

相棒フェイも葉巻を吸いながら怠そうにしている。

「んー、頼んだよエルフォン」

「分かった……『シリウス』『カイレン』に命令する、機密情報漏洩を防ぐため標的を始末せよ」

「お、こっちにも情報が来たから仮面に情報を送信するから確認して、後これは〈幻魔の森〉の大まかな地図だよ」

「こいつが標的か、見た感じ元傭兵上がりってところか」

「それにしては覇気のない顔だな相棒リアン

送られてきた情報を各々見ながら感想を言う、相棒フェイに至ってはバカにしたような感想を言ってくる。

「しかし、経歴を見る限りでは中々の手練れだな…? なんで『竜殺しドラゴンスレイヤー』がテロに加担なんかしたんだ」

「そこの理由に関しては謎だ、いくら拷問しても構成員の人数さえ吐かなかったからな」

「吐かなかったら始末すれば良かったのに」

相棒フェイが疑問げな声でそう投げかけると、グウィンはやれやれと首を横に振りながら答える。

「それをしたら拙いんだよねぇ、なんせ一応表向きは『竜殺しドラゴンスレイヤー』で冒険者達からは人気があるからね」

始末出来てたならすでに土に埋まってるさ、と清々しいほど黒い笑顔で言うグウィンに少し引き気味の相棒フェイを横目にあらかた経歴などの情報を見終える。

「娘が一人いるのか」

「人質?」

「そうする、その後まとめて始末だな、どうやら娘もテロに加担して今逃亡中らしい」

「とりあえず娘の位置は把握出来ているのか? グウィン」

「それなら問題ないさ、〈マーカー〉を足に撃ちこんだからね」

「はい、これが位置ね」

送られてきた位置はすぐ近くのため馬車を止めてもらう、外はまだ明るい昼ごろだが気にせず馬車から出る前にエルフォンに伝えておく。

「依頼が終わったらそこで寝ているガキにも飯も含めて作らせて待ってくれ」

「死体はどうする?」

ついでにと死体をどうするか相棒フェイが聞く。

「一応標的の死体は出来るだけ、出来るだけ綺麗な状態で持ってきてくれ終わった知らせが来れば迎えを寄越す」

「「了解」」

一気に馬車から飛び出ると身体強化をして人込みの中にいる娘に近づき、鳩尾に鋭い一撃を当て気絶させた後抱えて再び走り出し〈幻魔の森〉へと駆け抜ける。

「目標の森まで一気に駆け抜けるぞ」

「了解、そのまま突入する」

暫く駆けると辺りが次第に木々に囲まれはじめる。

「仮面の使い方は把握しているよな?」

「そこは問題ない、色々と試している」

門が見え、なにか門番達がこちらを見て騒ぎ始めるが気にせず門に近づき飛び越える。

「んじゃお邪魔する」

「失礼」

〈幻魔の森〉に入ると、同じような景色が続くが気にせずに仮面の機能を使い標的を探し始める。

「止まれ」

「ん、分かった」

立ち止まり魔力の波を全方位に向かって放つ、流石に〈幻魔の森〉全体までは出来ないが半分近くまで届く。

「検知なし、もっと奥に潜っているのか」

「なら突き進む」

相棒フェイはそう言いながら一気に走り始める。

「おいっ…はぁ」

先に走り始める相棒フェイの後を追う。
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