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第五部 薬師学校の先生になります!?
第3話『薬師、王都に帰還する』
しおりを挟むそれからの三日間は本当にあっという間で、すぐに王都に戻る日がやってきた。
なんとか準備を整えたわたしは、村の入口に停められた馬車へと向かう。
そこには大勢の村人たちが見送りに来てくれていた。
「皆さん、お世話になりました。それでは、行ってまいります」
「世話になったのはこっちのほうさ! すぐに帰ってきて、また新しい薬膳料理を教えておくれよ!」
一番にリベラさんが寄ってきて、笑顔でわたしの肩を叩く。
最近は彼女と協力して、薬膳料理を開発していた。
レシピそのものはレリックさんからもらった本がきっかけだけど、旅人たちからは疲れが取れると好評で、新たな村の名物となりつつある。
「……それにしても、急な話ですな」
馬車の近くで待機するラルウェイさんに聞こえないように言うのは、この村の村長さんだ。
その隣には、アンナちゃんやその母親のティナさんの姿も見える。
「……先生さん、一日でも早く戻ってきてくれよ。また、でかい熊を捕まえておくからな」
そう自信ありげな顔で言うのは、猟師のディッツさんだ。
リベラさんと同じようにバシバシと肩を叩いてくる。本人は軽く叩いているつもりだろうけど、すごく痛い。
「皆さん、ニグラード工房の子どもたちをよろしくお願いします」
別れを惜しんでくれる皆に、わたしは深々と頭を下げる。
やがて頭を上げると、皆は一様に笑顔を向けてくれていた。
「エリン先生、これ、旅のお守りだよ!」
その時、ニーナちゃんとミーナちゃんの姉妹が声を揃え、わたしに何かを差し出してくる。
受け取ってみると、それは木で作られたペンダントだった。
「ニーナやメアリーと一緒に、村にある香木で作ったんだよ!」
「そう! いつでも村のことを思い出せるようにね!」
双子ちゃんたちは近くのメアリーちゃんを抱き寄せながら、笑顔で言う。
「ありがとうございます。大切にしますね」
わたしは何度目かわからないお礼を言って、お守りを抱きしめるように懐へしまう。
「……エリンお姉ちゃん、すぐに戻ってきてね」
その直後、メアリーちゃんが泣きついてきた。
「もちろんです。お姉ちゃんやお兄ちゃんの言うことをよく聞いて、いい子でいるんですよ」
「うんっ」
小さな体を優しく抱きとめて、頭を撫でてあげる。
その頬は涙で濡れていたけど、メアリーちゃんはしっかりと頷いてくれた。
それからわたしは、ロヴェルくんへと向き直る。
「ロヴェル君、わたしがいない間、ニグラード工房の工房長として頑張ってくださいね」
「わかってる」
「あと、試験の勉強は毎日欠かさずするように。それと、村の人や妹たちと仲良くしてください。あと、食事はしっかり食べて、数日に一度は水浴びを……」
「……へへっ、エリン先生は心配性だよな」
わたしの言葉を遮るように言い、ロヴェル君は朗らかな笑みを浮かべる。
「皆がいるから、大丈夫だよ」
そう言って、彼は周囲を見渡す。
出会ったばかりの頃は、一切大人を信用しなかったというのに。すごい成長だった。
「だから、先生も頑張ってこいよ!」
元気いっぱいのロヴェル君の言葉に背を押されるように、わたしは馬車へと乗り込む。
半年という短い間に、これだけたくさんの人との縁を紡げたことに誇らしささえ感じながら、わたしはルークリッド村を後にした。
◇
それから馬車に揺られること、丸一日。わたしはミランダ王国王都へと戻ってきた。
以前はもっと時間がかかった気がする。あの時は荷馬車だったからかな。
何にしても、久しぶりの故郷だ。車窓から見える風景に、わたしは懐かしい気持ちになっていた。
……けれど、馬車はわたしを下ろすことなく進み続ける。
「あ、あの、この馬車の行き先は、もしかしなくても……」
「はい。王宮でございます。到着までもうしばらくお待ちください」
……王宮直行便。やっぱりそうなるよね。
せめて、エリン工房の皆に挨拶したかったなぁ。
わたしのそんな考えなど無視して、馬車は進む。やがて立派な城門の前で動きを止めた。
そのままラルウェイさんに案内されて、わたしは王宮へと足を踏み入れる。
「国王陛下、薬師エリン様をお連れいたしました」
「た、ただいま戻りました……」
ラルウェイさんに合わせるように挨拶をして、頭を下げる。
「おお、エリン殿、急に呼び戻してすまんな。頭を上げてくれて構わんぞ」
どこか声を上ずらせた国王陛下に促され、わたしは顔を上げる。
玉座に座る国王陛下は、ラルウェイさんから資料らしき紙を受け取っていた。
「……ふむ。新人指導だけでなく、蒸気を使った薬浴や薬膳料理の開発を行い、村の活性化に大いに貢献してくれたのか」
資料に目を通したあと、陛下は満足そうに頷いた。
ラルウェイさんも三日間あの村に滞在していたし、その間に村人に聞き込みをしたのかな。
「特に、ニグラード工房の再建は見事であった。よくぞやってくれた」
「あっ、その、色々と運が良かったといいますか。後継者の子がやる気になってくれたので……」
「いやいや、運も実力のうちと言うであろう。先のスフィア殿もそうだが、エリン殿は新人指導の才があるようだな」
「いえ、そこまでたいしたことは……」
できるだけ平静を装うも、国王陛下からお褒めの言葉を頂戴し、どうしても頬が緩む。
「そこでだ。エリン殿に王立薬師学校の臨時教師を頼みたい」
そのタイミングで発せられた国王陛下の言葉に、わたしは頭が真っ白になった。
……は? なんですと? 臨時教師?
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