【完結】マァマァ夫人のおかげです

紫楼

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 イスト卿に腰を取られて、何故か彼の馬車に乗せられた。
 寮は王宮内なのに。

「今は君から目を離したくないからね」
 いつも穏やかに笑っている彼が真顔で無表情になってる。

「全く、引き継ぎや書類の関係で謹慎中とはいえ、王宮に残っていたのを忘れていましたよ。とっとと辺境に飛ばせばよかったのに」

 馬車内では私を隣で座らせ、腰は抱いたまま・・・近い。
 馬車は近所を流してくれと言われて困惑しつつ、走り始めた。

「せっかくなつき始めたスカンクがあんな不埒者に攫われたら腹がたちすぎる」

 一通り怒りを表に吐き出すと「ふー」と深呼吸して両頬をパチンと叩いた。

「ごめん、アミリ。気性が荒いのは嫌だよね」
「・・・私のために怒ってくれた分は嬉しいです」

 彼は少し眉根を下げると私の肩に顔を埋めた。
 だから近いと・・・。

「ねぇ、君が王宮でバリバリ働いてるのも昇進に頑張ってるのも理解しているつもりだけど、王宮に置いていたくない。僕と領地運営に生き甲斐を持つのはダメかな?それとも逆に悠々自適で社交やって茶会に出る方でも」
 ツラツラと言葉が流れていくのを私は指で止めた。

「侍女女官は一生食い逸れない、産後の復帰はしやすく、年金にも期待出来るから志望したのです。もし婚姻等で働く必要がなくなっても、嫁ぎ先で何かあって家を追い出されたら働かないとなので女官試験は絶対受かりたいです」

 離婚になったり、先立たれたりで不安定な立場になったら困る。

「えーと、まず婚姻後。僕に何かあったとしても君が老後に困ることがない財産が残せる。離縁はないので、領地運営でやりがいを見つけて欲しい」

 どうしても王宮から連れだしたいらしい。

「マークス卿が王都から出て行っても不安だし、心配だから君を守るための確かな立場が欲しい」
「婚約期間は?」
「吹っ飛ばしたい」
「さすがに最低三ヶ月は・・・」
「・・・むぅ」

 なんだか熱が出そう。いつも日柄かな彼の瞳は情熱的で私のハートが燃え盛りそうになってる。

「浮気をしたら即座に別れます」
「しないよ」
「暴力とギャンブルもしダメです」
「しないしない」
「喧嘩した時は・・・」
「君の大好きなスイーツビュッフェに連れて行く」

 めんどくさい女だなと自分で思いながら、彼が全部受け入れてくれたことが嬉しい。

「一緒に穏やかな時間を過ごそう。誰にも入れ込めないような僕たちだけの時間だよ」
 
 ガタゴト言ってる馬車の中で私たちはキスをした。優しく丁寧な指先は私の首筋を撫でるようにしてて、くすぐったかった。

 ロマンチックな求愛には程遠いけど、十分幸せな気持ちになれた。

 その後もずっとこんな感じで話していたら夜も遅くなってしまった。

 結局は女官試験を一度受け、合否に関わらず、次の契約更新時に侍女を辞めることに同意した。
 私ががむしゃらだったのは、家を出なくちゃいけなくて家族に仕送りもしたいしと、高給で倒産がない仕事で、老後の年金を目当てにしていたから。
 崇高なやりがいと考えて始めたことではないので、イスト卿の領地で今までの勉強が活かせるかもならやってみたいと思い至った。

 うまく丸め込まれてチョロいかもと思いもするけれど、今までの勉強が無駄にならないし、万が一別れても復職も出来る。
 臆病かもだけど、私は二度裏切られたんだから仕方ない。
 

 夜会が終わって片付けも済んだ頃、馬車は寮の最寄りの門に着いた。
 イスト・・・アーネストさまが手を取って門番のところまで一緒に歩いてくれた。

「・・・ではまた明日」

 門番に生暖かく見守られて寮に戻った。
 
 寮に戻って着替えてお風呂に向かう。
 興奮と混乱で忘れていたけど、夕食を食べ損ねていた。
 アーネストさまからいただいているクッキー缶で済ますしかない。
 いつもなら夜会後は来賓に手をつけられなかった食べ物も賄いに出るので豪華になってるのでとても残念だ。

 お風呂にはちらほら人がいたけど特に親しい人がいなかったので何も聞かれずホッとした。まだ先ほどのフレドのことは広まっていないのかしら。

 部屋に戻るとレニーが待ち構えていた。

「もう!行き違い~」
 レニーもお風呂に入って少し前に戻ったそう。

「アメリ、フレドのクソ野郎に迫られてたって?あんなマタユルに嵌められ・・・ハメて?おいてどの面さげてんのって話よね?」
 レニーってばどこでそんな言葉を。
「あのウンコは辺境送りじゃなくて鉱山送りになったって。ついでにマタユルも妻としてついてくって話だから二度と会わないで済むわよ」
 あら、速攻で変更されたのね。

「マタユルが今まで手を出してたお相手たちの元婚約者のお家が目障りだとガドル家にかなり苦情を入れてたみたいでこれ幸いにとウンコに押し付けたんだわ」
 今までメイドをクビにならなかったのもおかしいけれど、フローラを懇意した方も悪いのよ。年配の人事に口を出せる人と懇意になったり、それを脅しにつかっていたと言う疑惑もあったから、今回のことで監査が入るかも。

「高位貴族狙いが鉱山夫と結婚とは随分狙いがずれたもんよね!」
 レニーはフローラが嫌いだったのね。

「んで、アミリ!イスト伯爵とはどうなったの!?」
 鼻息荒く聞かれて少し引く。
 レニーにはデートの勝負服、勝負メイクとお世話してもらっているので話はしないとダメね。

 告白を受け入れたこと、女官試験を受けるけれど侍女を辞めることを話すと、
「もー、女官試験受けなくてもいいじゃん!そりゃ頑張ってきたのは知ってるけど、結婚相手に期待してなかったからでしょ?」
 確かに共働き前提で考えてた。
「でもせっかくここまでやって来たから」
「真面目ね~、アミリらしいけど」
「婚約期間もあるんだから」
「ああ~、相手は次男三男じゃなかった~」
 
 一応貴族な私と正統派貴族のアーネストさまがの婚姻なのでしきたりはねぇ?
 そもそも次男でも三男でもお家がしっかりしてたらお互いの家の許可とか色々手順があるのでしょ。

 アーネストさまはご両親が領地にいらっしゃるので私の試験後、有給を使ってご挨拶に行くことになってる。
 我が家にはまず父に婚約のお伺いという体裁をとって書簡を送って、一緒に挨拶に行くって言ってくれた。

「まぁ、イスト伯爵なら私のアミリを預けても良いわね」
「もう~」

 

 翌日、マァム夫人に助けてもらったお礼とアーネストさまとの婚約と、女官試験を受けた後に侍女を辞めることを伝えた。
「まぁ・・・、優秀な侍女に抜けられるのは残念ね。でも女官試験を合格した時は子育て後に王妃さまか王太子妃さまの女官として復帰して欲しいわ」
 
 マァム夫人にとても期待されていたことに驚いた。
「あなたは生真面目で誰にでも公平で職務に忠実だもの、噂好きの子たちには任せられない部分を任せられる希少な子だったのよ?」
 

 そうしてニヶ月後、必死に試験対策をしてレニーと共に女官試験を突破した後、少し後ろ髪を引かれながら、侍女を辞めた。

 婚姻式まで伯爵夫人になるための教育が始まった。

 イスト伯爵邸に現れた家庭教師は、マーガレット・マァム伯爵夫人。
 そして。

「本日からイスト伯爵家にお仕えすることになりました、レニー・マルテです!アミリさま、よろしくお願いします」
「まぁ!」
 思わずマァマァと私が言いそうになった。

「ふふ、サプライズ成功だね」
 レニーの後ろからアーネストさまが現れてレニーとイタズラ成功を祝っている。
 レニーは婚約者とともにイスト伯爵邸で雇われたのだそう。

「ふふふ、厄介な人に好かれると大変ね」
 マァム夫人は王宮仕えの合間に来てくださるそうだ。
「女官試験を突破した優秀な侍女が二人もイスト伯爵家に取られちゃったから、イスト伯爵にはたくさんお仕事をしていただくわ」
 ほほほと微笑みながら、アーネストさまにチクリ。
 私のためにマァム夫人とレニーに声をかけてくれたのは嬉しいけれど。


 この屋敷で「まぁまぁ!」が響かないことを願っています。



          おわり



-------------

 お付き合いありがとうございました。

 もし、もっと読みたいとか評判が良かったら、アミリの物語、レニーの物語、マァム夫人の少女時代からなんかが浮かんじゃうかも知れません。

 他の作品が色々止まってるのでとにかく完結まで書き上げたら、全話アップしようと思ったのですが、最後一話になってついアップしちゃいました。
 ちゃんと完結まで書けて良かったです。

 他の作品もゆっくりですが書き上げますんで良かったら覗いてみていただけると嬉しいです。


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