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chapter7
桃坂奏は面倒事しか持ち込まない。
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「先輩! 私の彼氏になってデートしてください!」
待ち合わせ早々、訳のわからないことを言われて、俺は理解することができずにフリーズする事しばしば。
「……は? いや、待て待て。どういうことか説明をしてくれ、なんで俺がお前の彼氏になってデートしなきゃいけないんだ?」
「はい……。実はですね」
桃坂からの話によると、どうやら桃坂は他校の生徒から猛烈にアタックを受けており、それをどうにか断り続けているのだが、相手も一向に諦める気配が無いらしい。
その打開策として同じ高校に付き合って居る人が居ると嘘を付くことにしたのだが、それでも信じてもらうことができず、実際に彼氏を見せてくれとの話になり、桃坂はその彼氏(嘘)をしてもらう相手を俺に定めて今に至るというわけだ。
「いや、普通に断ればいいじゃん……。なんでまたこんな面倒なことを?」
「無理ですよー。なんか、申し訳ないなと思いまして、先輩だって自分に好意を抱いてくれている女の子相手に興味ないから無理とか、は? ちょっとしつこいんだけどまじでうざいからやめてくれない? とか言えないですよね?」
「知らん。第一俺に好意を抱いている人を俺は知らないからな。それと、後半のあれ、完全に君の素だよね?」
桃坂は頬をぷくっと膨らませながら俺の肩をポカポカ叩いてくる。はいはい。あざといあざとい。
「う、そうでしたね。じゃ、じゃあ可愛い後輩の為だと思ってよろしくです! 先輩」
そう告げるや否や、いきなり俺の腕にひしっと掴み、いつもより俺と彼女の距離が縮まっていた。おぉ……。これがカップルの見る景色か。なんか世界が輝いて見える気がする。まあ太陽が眩しいだけなんだけどね! 俺ら偽カップルだし。
「はぁ、わかったよ。やるよ」
「もちろん今日のデートをエスコートしてくれるんですよね? エスコートも紳士の務めですよ?」
「げ、……俺そういうのはできないんですけど」
「練習ですよ! 今日一日私を本物の彼女だと思ってください」
「本物ね……。まあ、やれる範囲でな。あんまり期待するな」
本物の彼女。果たして彼女は本物なのか。自分が特別に思いたい相手、それは桃坂なのか、そこがいまいち釈然としない。俺が桃坂に抱いている感情は愛なのか? 確かに好意を抱いてはいるがそれは、純愛ではなく親愛に近いものとして意識している。俺がもっと恋だの愛だのに詳しければきっと、今ある疑問にもなんら迷いなく答えが出てくるのだが、生憎、俺にはその感情だけはどうにも理解ができない。人を好きになることとは一体何なのだろうか。前に桃坂が言っていた、妥協したことにすら気付かない、そして妥協したとしてもそれでも幸せなのだと。それらを全部含んで俺はそれを知りたい。わかりたい。知り得た先に何があるのかはわからない。たとえ知り得た先が今より恐ろしい現実だとしても、俺はそれをきっと後悔はしないだろう。
きっと今日一日を通すことで何かわかるきっかけが手に入るのかもしれない。俺は微かな手掛かりを探すべく、桃坂を今日一日俺なりの特別な相手だと思い行動してみようと思った。
今日待ち合わせ場所にしていた光駅周辺は、休みの日ということもあり、人でいつもよりも賑わっていた。
俺たちはそのまま都営大江戸線に乗り、途中都営浅草線に乗り換え、目的地の浅草を目指していた。
電車内もそれなりに混み合っており、俺たちは電車内で座席には座ることができず、俺は吊革に捕まり、桃坂は何度か背伸びをして挑戦していたが、やがて諦めがついたのかそっと俺のシャツの袖を摘まんでいた。えー。なにこの小動物みたいな子。超可愛い。背伸びして届かないことが分かり、残念な顔してそっと俺の裾を摘まんでくる辺りがもうやばい。
「結構混んできたな。これだから電車は好きじゃないんだよなー」
「先輩、デートの途中で愚痴をこぼすのは最悪ですよ?」
次の駅、次の駅に着くと電車内の混み具合が更に増していき、ついには満員電車になってしまった。自然と俺と桃坂の距離は縮まり、密着する形になった。
「悪い、こうも混んでると身動きが取れなくてな」
「はい……。大丈夫です」
桃坂はこの人混みの暑さのせいなのか顔を赤らめながらそう口にしていた。
電車の揺れに合わせながら、桃坂に体重がかからないように上手く体重移動を使いこなし捌いていたのだが、不意に電車が大きく揺れた。
「うわ⁉ っとあぶねー。大丈夫か桃坂……」
桃坂の心配をしている俺の右手になにやら途轍もない柔らかな感触がある。これはまさか……。
「ふにゃ⁉ せ、先輩! どこ触ってるんですか⁉」
やっぱり桃坂の胸を俺の右手が掴んでいた。しかし噂で聞いたことあるけど、Cカップはコンビなどに売っている肉まんに大きさが似ていると聞いていたが、今こうして実際触ってみると確かに肉まんに似ている大きさだなー、などとほんとどうでもいい情報が入ってきていた。もうコンビニで肉まん買えないじゃん! 絶対桃坂の胸のことを色々思い出して食べ物に見えなくなっちゃうよぅ……。
「あ、いや、ごちそう、じゃなくて悪い! わざとじゃないんだ。今どかすから」
あぶねー。危うくご馳走様とか言いそうになったわ! いや、実際はご馳走様なんだけどね。あれ? 今思えば俺と桃坂は今日一日限りのカップルなのでは? ということは今みたいなこともやりたい放題なのでは……。いや、馬鹿な考えはよせ。そんなことしたら俺の地位は社会的にも最下層に突き落とされる。……みんな、交際する時は清く正しくお付き合いしましょうね。
待ち合わせ早々、訳のわからないことを言われて、俺は理解することができずにフリーズする事しばしば。
「……は? いや、待て待て。どういうことか説明をしてくれ、なんで俺がお前の彼氏になってデートしなきゃいけないんだ?」
「はい……。実はですね」
桃坂からの話によると、どうやら桃坂は他校の生徒から猛烈にアタックを受けており、それをどうにか断り続けているのだが、相手も一向に諦める気配が無いらしい。
その打開策として同じ高校に付き合って居る人が居ると嘘を付くことにしたのだが、それでも信じてもらうことができず、実際に彼氏を見せてくれとの話になり、桃坂はその彼氏(嘘)をしてもらう相手を俺に定めて今に至るというわけだ。
「いや、普通に断ればいいじゃん……。なんでまたこんな面倒なことを?」
「無理ですよー。なんか、申し訳ないなと思いまして、先輩だって自分に好意を抱いてくれている女の子相手に興味ないから無理とか、は? ちょっとしつこいんだけどまじでうざいからやめてくれない? とか言えないですよね?」
「知らん。第一俺に好意を抱いている人を俺は知らないからな。それと、後半のあれ、完全に君の素だよね?」
桃坂は頬をぷくっと膨らませながら俺の肩をポカポカ叩いてくる。はいはい。あざといあざとい。
「う、そうでしたね。じゃ、じゃあ可愛い後輩の為だと思ってよろしくです! 先輩」
そう告げるや否や、いきなり俺の腕にひしっと掴み、いつもより俺と彼女の距離が縮まっていた。おぉ……。これがカップルの見る景色か。なんか世界が輝いて見える気がする。まあ太陽が眩しいだけなんだけどね! 俺ら偽カップルだし。
「はぁ、わかったよ。やるよ」
「もちろん今日のデートをエスコートしてくれるんですよね? エスコートも紳士の務めですよ?」
「げ、……俺そういうのはできないんですけど」
「練習ですよ! 今日一日私を本物の彼女だと思ってください」
「本物ね……。まあ、やれる範囲でな。あんまり期待するな」
本物の彼女。果たして彼女は本物なのか。自分が特別に思いたい相手、それは桃坂なのか、そこがいまいち釈然としない。俺が桃坂に抱いている感情は愛なのか? 確かに好意を抱いてはいるがそれは、純愛ではなく親愛に近いものとして意識している。俺がもっと恋だの愛だのに詳しければきっと、今ある疑問にもなんら迷いなく答えが出てくるのだが、生憎、俺にはその感情だけはどうにも理解ができない。人を好きになることとは一体何なのだろうか。前に桃坂が言っていた、妥協したことにすら気付かない、そして妥協したとしてもそれでも幸せなのだと。それらを全部含んで俺はそれを知りたい。わかりたい。知り得た先に何があるのかはわからない。たとえ知り得た先が今より恐ろしい現実だとしても、俺はそれをきっと後悔はしないだろう。
きっと今日一日を通すことで何かわかるきっかけが手に入るのかもしれない。俺は微かな手掛かりを探すべく、桃坂を今日一日俺なりの特別な相手だと思い行動してみようと思った。
今日待ち合わせ場所にしていた光駅周辺は、休みの日ということもあり、人でいつもよりも賑わっていた。
俺たちはそのまま都営大江戸線に乗り、途中都営浅草線に乗り換え、目的地の浅草を目指していた。
電車内もそれなりに混み合っており、俺たちは電車内で座席には座ることができず、俺は吊革に捕まり、桃坂は何度か背伸びをして挑戦していたが、やがて諦めがついたのかそっと俺のシャツの袖を摘まんでいた。えー。なにこの小動物みたいな子。超可愛い。背伸びして届かないことが分かり、残念な顔してそっと俺の裾を摘まんでくる辺りがもうやばい。
「結構混んできたな。これだから電車は好きじゃないんだよなー」
「先輩、デートの途中で愚痴をこぼすのは最悪ですよ?」
次の駅、次の駅に着くと電車内の混み具合が更に増していき、ついには満員電車になってしまった。自然と俺と桃坂の距離は縮まり、密着する形になった。
「悪い、こうも混んでると身動きが取れなくてな」
「はい……。大丈夫です」
桃坂はこの人混みの暑さのせいなのか顔を赤らめながらそう口にしていた。
電車の揺れに合わせながら、桃坂に体重がかからないように上手く体重移動を使いこなし捌いていたのだが、不意に電車が大きく揺れた。
「うわ⁉ っとあぶねー。大丈夫か桃坂……」
桃坂の心配をしている俺の右手になにやら途轍もない柔らかな感触がある。これはまさか……。
「ふにゃ⁉ せ、先輩! どこ触ってるんですか⁉」
やっぱり桃坂の胸を俺の右手が掴んでいた。しかし噂で聞いたことあるけど、Cカップはコンビなどに売っている肉まんに大きさが似ていると聞いていたが、今こうして実際触ってみると確かに肉まんに似ている大きさだなー、などとほんとどうでもいい情報が入ってきていた。もうコンビニで肉まん買えないじゃん! 絶対桃坂の胸のことを色々思い出して食べ物に見えなくなっちゃうよぅ……。
「あ、いや、ごちそう、じゃなくて悪い! わざとじゃないんだ。今どかすから」
あぶねー。危うくご馳走様とか言いそうになったわ! いや、実際はご馳走様なんだけどね。あれ? 今思えば俺と桃坂は今日一日限りのカップルなのでは? ということは今みたいなこともやりたい放題なのでは……。いや、馬鹿な考えはよせ。そんなことしたら俺の地位は社会的にも最下層に突き落とされる。……みんな、交際する時は清く正しくお付き合いしましょうね。
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