君を想い続ける

マラライヤ

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夏の暑い日

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 …………よく昔の夢を見る。溺れていた僕を助けてくれた彼女の夢を。そして、儚いあの頃の記憶を…………


        ・・・・・・・






 夏休みに父の実家がある北海道へと引っ越してきた。
 おじいちゃんから山で山菜を取ってくるように言われたので、山菜を探しに近くの川辺へと近づいた。
 久しぶりの川に心なしかワクワクしながら歩いていると、誰かが釣りをしていた。
 よく見ると瑠璃色の綺麗な長い髪と健康的に肌が焼けている綺麗な人女の人だった。
 彼女に見とれていると、おもむろに話しかけてきた。






「君も釣りをしに来たの?」

「いや、あの、山菜を探しにきました」

「そっか~。それなら私も手伝うよ」

「いえ、量も多いので大丈夫ですよ」

「人手は多いほうが良いよ。行こう!」

「あの……っ、ちょっと!」





 そう言うと彼女は山を駆け上って行った。
 何故、会って間もなく人にそこまでしてくれるのだろうか。
 もしかして、新手の美人局?そんなことを考えながら山菜採りをしていたら、両手一杯に山菜を抱えて山から降りてきた。

 



「よっこいしょ!この中に探してる山菜はある?」

「全部ありますね。わざわざ探してくれてありがとうございます。」

「お礼なんかしなくていいよ。私が勝手にしただけだし」

「あの、何で山菜採りを手伝ってくれたんですか?」

「ん~、君は何だか放っておけない気がして。それに一人でいるのもつまらなかったし」

「いえ、やっぱりお礼をさせてください」






 経験から借りはすぐに返すのが得策だと考えそう言うと、彼女は笑いながらデコピンをしてきた。






「いてっ!!」

「別にお礼なんていらないよ!でも、そんなに気になるなら……ちょっと考えさせて」






 数分考えた後、彼女はいたずらっぽく笑いながらこう言った。






「ならさ、敬語じゃなくて普通に話してよ」

「分かり……分かった。」

「それと、一週間に一回でいいからまたさっきの川辺に来てほしいな」

「え?何で川辺なの?」

「川辺なら何でもできるからね」

「そっか?まあそれでいいなら僕もいいけど……」







 何故そんなに川辺にこだわってるのか疑問に思ったが、深くは聞かないでおこう。







「それじゃあ、じゃあね!」

「うん。またね」







 そう言って僕は父の実家へと帰った。
 瑠璃色の髪の綺麗な女性が山菜を集めてくれたこと、また川辺に行く約束をしたことなど爺ちゃんに今日あった出来事を話した。
 爺ちゃんはしばらく黙り、こう口にした。







「……いいか、その女性はもうこの世にはいないんだ」

「どういうこと?」

「その女性はな、川で溺れた幼いお前を助けるために川へ飛び込んで亡くなったんだ。」

「……そうなんだね。」







 
 妙に納得がいった。川辺に居たのも、そこでの約束も。
 とても寝られる気分では無くて、夜が深まったというのに川辺へと向かった。
 やはりと言うべきか、彼女は屈んで川を覗いていた。







「やあ。寝られなくて君に会いに来たよ。」

「うわっっ!!びっくりしたな。悩みなら聞くよ」






 それもそうだろう。静かに近づいたのだから。
 短い時間しかまだ過ごしていないけれど、もっと彼女のことを知りたいと思った。





「ねぇ、いきなりだけど君の名前を教えてよ」

「そういえば名乗ってなかったね。私は天上 乙織
(てんじょう いおり)。いおりって呼んでね。君の名前は?」

「僕は稲田 貴彦(いねだ たかひこ)だよ。たかひこでいいよ」





 いおりを心の底から知りたいと、そう思った。
 ふと彼女を見ると、目をキラキラさせてこう言った。






「たかひこ、今から釣りで勝負しようよ!」

「ルールは?」

「1時間以内に魚を多く釣ったほうが勝ち!罰ゲームは一つ命令を聞くこと。」

「よし、今すぐやろう。すぐやろう」






 彼女から聞き出したいことがあるんだ。負ける訳にはいかない。
 強くそう思いながら勝負に挑んだ。のだが……






「私の圧勝だね!」

「こんなのってないよ………」






 何と0:12で完敗した。情けなさすぎる。
 敗北し肩を落としていると、彼女がいたずらっぽく笑いながらこう言った。






「じゃあ、私の言うことを一つ聞いてね。それじゃあ………」






 ゴクリ、と僕は唾を飲んだ。
 今からどんな命令をされるのか、不安だったからだ。
 彼女が口を開けた






「これからもこうして一緒に遊んでね」

「え?そんなことでいいの?」

「それで十分だよ」






 彼女は何処か寂しげに笑った。
 どうしてそんな命令をしたのか、察しがついてしまった。
 だから僕はこう答えたのだと思う







「毎日この時間に会いに来るよ!絶対に!」

「たかひこ……ありがとう」

「そろそろ日が登り始めたし、僕はもう帰るよ。」

「うん。またね」

「またね」







 そう言って僕は家に帰った。
 また彼女に会うため。
 次の日、また次の日も数日間、毎日いおりに会いに行った。
 合うたびに彼女の人柄に惹かれていった。
 八月八日、いよいよ彼女にあの話を聞いた。






「変な話かもしれないけど、聞いてほしいことがあるんだ。」

「たかひこ?どうしたの?」

「…………いおりはあの時、助けてくれたんだよね?」

「っ、気づいてたか~。そうだよ、その時助けたのは私でその後」

「その後、君は、いおりは死んだんだよね」






 僕の声でいおりの声をかき消した。
 彼女は寂しそうな、それでいて少しだけ嬉しそうに笑った。






「そうだよ。もう、死んでるんだ。気持ち悪いよね、こんな私……」

「そんなことない!!!」

「あの時僕を助けてくれてありがとう。」






 気持ちを伝えられてホッとした。
 気が緩んでしまい、口にしてしまった。






「……好きだ」

「……えぇ!?」






 無意識に言葉に出してしまった。
 恥ずかしくて火を吹いてしまいそうになるが、何とか持ちこたえる。
 頬を赤く染めた彼女に向かい、一世一代の勇気を振絞った。


 







「あなたことが好きです!!!」

「あなたのいたずらっぽく笑う仕草や見ず知らずの子供を助ける優しさ、瑠璃色の綺麗な髪がすてきで……でも、それ以上に理由なんていらないくらい好きなんだ!!」







 心臓がはち切れそうなくらいに高鳴っていけど、無視して続けた。
 いおりは悲しそうな表情をして話した。






「私もたかひこのことが大好きだよ!!この世の何よりも、どんな存在より好き!でも、一緒にはいられない」

「いおり………」

「この数日間、たかひこと過ごせて幸せだった。ありがとう」

「僕もいおりと過ごせて心から幸せだった。本当にありがとう」






 僕がそう伝えると、彼女の体が眩く光りだした。







「たかひこ、愛してる」

「いおり、愛し」






 僕が言葉を言い終わる前に彼女は居なくなった。
 そこには夜の川だけが輝いていた。



  

         ・・・・・・

 


 あれから20年が過ぎた。
 八月八日。
 この日は、深夜にここへやってくる。
 いおりと天の川を眺めるために。


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