森のドラゴンさんの小説

星馴染

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森のドラゴンさんの小説

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 冬の始まり。

 本格的に寒くなる前に薪を拾おう、と両親に言われ

 仕事で忙しい両親の代わりに十歳くらいの少女が森へ足を踏み入れた。



「あれえ?」

 腕に抱えられるくらいの小さなドラゴンが森の入り口で尻尾をぴょこぴょこ動かしながらウンウン唸っていた。

「ドラゴンさん?」

「なんだい?」

「そんな所で何をしているの?」

「そういう君こそ何をしてるの?ここは森だよ。奥に行っても面白い物はないよ」

「薪を拾いに来たの。寒くなるでしょう?」

「薪?ああ、人間は分厚い皮が無いからか。ぼくはね、今小説を書いているんだよ」

「わぁ、面白そう。読ませてくれる?」

「だめだよ、まだ未完成。恥ずかしいから見せないよ」

「完成したら一番最初に読ませてね」

「うん、いいよ。完成させたら一番に見せてあげる」



 春が来て、夏が来て、また冬が来た。

 少女は昨年のように薪を拾いにやってきた。

 そこにはピョコピョコと尻尾を動かす小さなドラゴンが。

「ドラゴンさん、小説できた?」

「まだだよ、小説というものは閃きが必要なんだ。簡単には書けないよ」

「ふうん」



 一年が過ぎ

 一年が過ぎ



 薪を拾いながら少女は訊ねる。

「ドラゴンさん、小説できたかしら?」

「前のはどうしても面白くならないから新しいのを書いてるんだよ。今回のは君をテーマにした小説さ。完成したら読んでね」



 二年が過ぎ

 二年が過ぎ



「ドラゴンさんも大分大きくなったわね。小説はできた?」

 腕で抱えられるような小さなドラゴンは、クマくらいの大きさになっていた。

「もう少しだよ、楽しみにしててね」

「あのね、ドラゴンさん、私もう結婚するの。小説を見せてくれないかな?」

「恥ずかしいから、だめだよ」



 何十年経ったか解らないくらいの年月が過ぎて

 さらに大きくなったドラゴンは完成だと言った。



「懐かしいわね」

 家よりも大きなドラゴンが森の入口で眠っていた。

「ドラゴンさん」

「なんだい?」

「何をしているの?」

「お婆さんこそ何をしてるの?ここは森だよ。奥に行っても面白い物はないよ?」

「旦那様も死んじゃったし、私も年だから死ぬ前にと故郷へ帰って来たの」



「ぼくはね、小説を書いたんだ」

 そうドラゴンは言った。

「見せる約束をしたから待っているんだよ」

「面白そうねえ。読ませてくれる?」

「ダメだよ、小さな女の子に一番に読ませてあげるって約束したんだ」

「そう、それじゃあ……その子が読んだ後は読ませてね」



 そう言って老婆は何かを懐かしむような優しい表情で。



 笑った。
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みんなの感想(2件)

Kabochan
2021.09.13 Kabochan

一見絵本みたいな優しい切り口なのにゆっくり進んでいくリズムの中でちょっとした「ファンタジー」が入っていて。
「転生!!!」「勇者!!!」「大冒険!!!」など王道ファンタジーではなく(それもいいですが……。)さらっと読めて優しい気持ちになれるような気がします。

星馴染
2021.09.13 星馴染

感想ありがとうございます!
読んでいただきありがとうございました!。◕‿◕。

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Kabochan
2021.09.13 Kabochan

投票しなきゃ!!

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