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私と僕
私
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カンカンカンと頭の中をうるさく反響する警告音を無視して、目の前に降りていく黄色と黒に分けられた、安全と危険を隔てるバーを横目で見る
「りーなー!」
「…………はぁい?なに?」
ニッコリと効果音が着きそうな笑顔を顔に貼り付けて、後ろから掛けられた声に振り返る
「こんな所で止まってどうしたの?」
「なんにもないよ」
嘘
「そっか、あ!今日ね、私の家でケーキ焼くの、莉那も来る?」
「ごめんね、今日は習い事なの」
嘘
「そっか、残念……」
「ごめんね、紗奈、私も行きたかった」
嘘
「ううん、大丈夫!なんの習い事?」
「うーん………接客業?」
嘘
「そっかぁ……じゃあね、ばいばぁい!」
「うん、また明日ね」
嘘に象られた言葉に嘘の顔
嘘の笑顔を貼り付けて、嘘の答えを言う
全てが嘘で象られた【それ】は、もう、私の中で真となっていたりする、
大きく溜息をつき、騒音を撒き散らしながら横切る怪物をぼーっと見ていると
「莉那!」
頭の中にあった嘘も真も騒音も何もかもが飛んでいくような鋭く刃のような声が届く
全ての感情が頭の中から消えていった
「はい、お母様」
後ろを振り向けば、黒塗りの高そうな(実際に高いそうだが)車の窓からこちらを見るお母様がいた
「何をしているの」
「……電車を見ていました」
「そんなことを聞いてるんじゃありません!」
「莉那?」
冷たい目と言葉が絶え間なく降り注ぐ中、自分とよく似た……けれども太くて低い声が聞こえた
「お兄様」
「それ辞めてってばぁ!」
車から降りてきた兄に深くお辞儀をする
「母さん、俺、莉那と帰るね」
「そう?聖がそういうならいいわ」
窓が閉められ(閉める間際に睨まれたの気の所為だと思いたい)横を車が走っていく
たった今から、『私』は『僕』となる、
「僕になにか御用ですか?お兄様」
「あー、もう……」
「なにか逆鱗に触れたのでしたら、謝罪致します」
「そうじゃなくてね?」
彼の言いたいことは分かる
『僕』ではなく、『私』としてはなしてほしいのだ
でもそれは、禁止されていること
「あのね?俺は、母さんみたいに」
「これは、お母様の命令ではなく僕の意思です」
「だーかーらー」
「特にご用事がないのであれば、失礼致します」
早々に言葉を切り、先々と歩き出す
「あ!待て、待てってば!」
「待ちません、今日は予定があるんです」
「どうせ、俺のパーティーの影武者だろうが!」
「だからなんだと言うんですか!!私がいなければ、お前はもう死んでるんだぞ!!」
影武者がなんだ、それが『僕』の仕事だ
危険の多い場所に『私』を全て押し殺して、『僕』として、そして『神月聖』として、『顔』を被る
「もうお前に人を殺して欲しくないんだよ!!」
「うるさいうるさい!………………申し訳ありません、少々感情的になりました」
『私』は感情を作る、『僕』は感情を無くす……いや、殺す
そういうふうに調教された
顕になった要らない『感情』を殺して、『私』を殺して……
これが、私……
【感情を持ち、僕と常に一緒にある】
これが、神月 莉那だ
「りーなー!」
「…………はぁい?なに?」
ニッコリと効果音が着きそうな笑顔を顔に貼り付けて、後ろから掛けられた声に振り返る
「こんな所で止まってどうしたの?」
「なんにもないよ」
嘘
「そっか、あ!今日ね、私の家でケーキ焼くの、莉那も来る?」
「ごめんね、今日は習い事なの」
嘘
「そっか、残念……」
「ごめんね、紗奈、私も行きたかった」
嘘
「ううん、大丈夫!なんの習い事?」
「うーん………接客業?」
嘘
「そっかぁ……じゃあね、ばいばぁい!」
「うん、また明日ね」
嘘に象られた言葉に嘘の顔
嘘の笑顔を貼り付けて、嘘の答えを言う
全てが嘘で象られた【それ】は、もう、私の中で真となっていたりする、
大きく溜息をつき、騒音を撒き散らしながら横切る怪物をぼーっと見ていると
「莉那!」
頭の中にあった嘘も真も騒音も何もかもが飛んでいくような鋭く刃のような声が届く
全ての感情が頭の中から消えていった
「はい、お母様」
後ろを振り向けば、黒塗りの高そうな(実際に高いそうだが)車の窓からこちらを見るお母様がいた
「何をしているの」
「……電車を見ていました」
「そんなことを聞いてるんじゃありません!」
「莉那?」
冷たい目と言葉が絶え間なく降り注ぐ中、自分とよく似た……けれども太くて低い声が聞こえた
「お兄様」
「それ辞めてってばぁ!」
車から降りてきた兄に深くお辞儀をする
「母さん、俺、莉那と帰るね」
「そう?聖がそういうならいいわ」
窓が閉められ(閉める間際に睨まれたの気の所為だと思いたい)横を車が走っていく
たった今から、『私』は『僕』となる、
「僕になにか御用ですか?お兄様」
「あー、もう……」
「なにか逆鱗に触れたのでしたら、謝罪致します」
「そうじゃなくてね?」
彼の言いたいことは分かる
『僕』ではなく、『私』としてはなしてほしいのだ
でもそれは、禁止されていること
「あのね?俺は、母さんみたいに」
「これは、お母様の命令ではなく僕の意思です」
「だーかーらー」
「特にご用事がないのであれば、失礼致します」
早々に言葉を切り、先々と歩き出す
「あ!待て、待てってば!」
「待ちません、今日は予定があるんです」
「どうせ、俺のパーティーの影武者だろうが!」
「だからなんだと言うんですか!!私がいなければ、お前はもう死んでるんだぞ!!」
影武者がなんだ、それが『僕』の仕事だ
危険の多い場所に『私』を全て押し殺して、『僕』として、そして『神月聖』として、『顔』を被る
「もうお前に人を殺して欲しくないんだよ!!」
「うるさいうるさい!………………申し訳ありません、少々感情的になりました」
『私』は感情を作る、『僕』は感情を無くす……いや、殺す
そういうふうに調教された
顕になった要らない『感情』を殺して、『私』を殺して……
これが、私……
【感情を持ち、僕と常に一緒にある】
これが、神月 莉那だ
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