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第三章 旅路―王都ロディアス―編
第二十七話 「謁見」
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「先生、ルコン――」
「……お疲れ様。大変だったわね」
「おにいちゃん!体は大丈夫ですか!?」
「あぁ、何ともないよ。ありがとう」
部屋から出ると廊下にはゼールとルコンが立っていた。
よかった、ルコンは何とも無さそうだ。
頬の傷も綺麗に無くなっている。
「三人共、すまないがこのまま王の御前へと案内させてもらうぞ。付いてきてくれ」
そう言ってイラルドが廊下を先導し、俺達三人があとに続く。
俺達の後ろにはウルガドと数名の騎士団員が追従している。
おそらく、これまでの作戦とこれからの段取りについては今は話せない、いや話さない方が良いだろう。
ウルガドをはじめとする後ろの騎士団員達は、俺達の内情を知らない。
イラルドが今回の事態に関わっていると知れれば、騎士団内での心象に差し障る。
そうなると今後の展開に不都合が生じてしまうため、それは避けなくてはならない。
つまり、国王に対しての交渉は本当にぶっつけ本番の出たとこ勝負ということだ。
緊張から手汗が滲む。
サラリーマン時代にしてきた社内プレゼンとは訳が違う。
言葉通り、今後の人生が決まるかもしれない勝負だ。
決して失敗は出来ない。
長い廊下を歩き、いくつかの階段を登った先に大きな扉が現れる。
左右に対象の獅子を施された豪奢な鉄扉。
その扉を一目見るだけで、この先の空間がどういった場なのかは容易く想像出来る。
王の御所。
この国で最も神聖な場であり、偉大な人物が座す場。
「第一師団長イラルド・バーキン、半魔の少年をお連れ致しました!」
イラルドがノックをし、扉越しに用件を告げるとゆっくりと左右の扉が内側へと開かれていく。
扉の先の空間は華美な装飾で飾り立てられ、床には真っ直ぐ前方へと伸びるレッドカーペットが敷かれている。
カーペットの先には数段程の階段があり、その上には周囲よりも一層豪華な装飾を施された玉座が置かれている。
その玉座に座す、一人の人物。
白銀のところどころに金の装飾が施された豪奢な鎧を纏い、綺麗に整えられ不潔感等一切無い白髪を後ろに流して一本に纏めた老齢の男性。
ロデナス王国現国王、ダルド・ロデナス。
その横には豹顔の魔族の騎士団員が控えており、玉座までの道中にも数人の騎士団員や、高位の、いわゆる大臣の様な者たちが立っている。
張り詰めた空気とこちらへ注がれる奇異の視線に後退りしかけてしまう。
そんな背中をポン、と横にいたゼールが軽く押してくれる。
「大丈夫よ。行きましょう」
言葉に押され、真っ直ぐに進む。
怯むな、やるべき事をやるんだ。
「止まれ」
階段の数歩手前で、段上の豹顔の魔族から制止がかかる。
イラルドはそこで先頭からおれの横へとズレ、結果的に俺とゼールが先頭、その少し後ろにルコンが並ぶ形になる。
どうする、俺から名乗るべきなのか?
吐き気を催す程の緊張に襲われながら、これからの行動について考えるが、豹顔の魔族が先に口を開く。
「名乗れ、半魔の少年よ」
「っ、ライル・ガースレイです。人族と闘魔族との半魔です」
「ほう、闘魔族とな?それは珍しいな」
俺の返答に興味を示して口を開いたのは他でもない、ダルド王であった。
彼は髪と同様の白い髭を片手で揉みながらこちらを見下ろす。
「……王。せめて形式上の質疑応答までは――」
「堅苦しいことを言うでないわ。まあ任せい。ライルと言ったな。
此度のウルガドとの戦闘行為について、何か言いたいことはあるか?」
「過程はどうあれ、戦闘行為そのものは事実です。
罪に処されるのも仕方ないことと分かってはいます」
毅然と言い放つが、もちろん実刑を食らう訳にはいかない。
だが、嘘で保身に走ったところで後から首を絞める行為になりかねない。
あくまでも誠実に、仕掛けどころは今ではない。
「なるほど、あくまでも誠実。
この場での保身や嘘がどういった意味合いを持つ行動になるかを分かっておるな。
事情は聞いておる。
原因はそちらの狐族の少女であろう?
幼子の駄々の様なものだ、御せぬウルガドにも問題はあろうよ」
「面目次第もございません……」
俺の後ろで、ウルガドが主人に叱られた犬のようにシュンと項垂れている。
こうして見ると魔族って感情表現がしっかり表に現れるから、その容姿と相まって可愛く見えてしまうな。
特に尻尾とか。
「まあそんな事はよい。さて、早速だがお前さんの処遇についてだ。
此度の一件――――」
来る。
どんな実刑を言い渡されるかは分からないが、本命はその後だ。
覚悟はして来た、来い!
「不問とする!」
「え?」
「王ッ!」
「あーうるさいのう、横で大声を出すでないわ。
まだ耳は遠くなっておらんぞ」
予想外の無罪放免に情けない声が漏れてしまう。
段上では国王であるはずの老人が豹顔の魔族にガミガミと文句を言われている。
そんな光景を見つめる俺の周囲、騎士団員や大臣達がザワザワと騒ぎ立て始める。
「王はどういうおつもりだ?」
「半魔の上に騎士団員との戦闘行為だぞ? これは立派な反逆罪だ」
「やはり危険だ……今すぐにでも牢屋に放り込むべきだ!」
「静まれぃ!!」
ダルド王が段上より声を挙げる。
ビリビリと空気を揺らし、体の芯まで揺らされるような声だ。
一瞬で静寂に包まれた室内で、王は再び口を開く。
「まだ少年の身でありながら妹の為に気丈に振る舞い、立ち向かう。
その意気や良し! よって今回は不問とする!
異議があるのなら遠慮なく申し立てよ」
「えっと、その、ありま……せん……」
「ならば以上だ!
ライルよ、お主は本来であれば南東にある半魔達の暮らす村へと送還することになるのだが――」
「王よ、御言葉ですがライルはアトラへと向かう道中。
以前お話した通り、私はその護衛依頼に就いております。
今回の一件、不問にして頂けるのでしたらこのままアトラへと向かう許可を」
王の言葉を遮りつつゼールが口を開く。
なるほど、すぐに討伐への同行を求めるのではなく、一旦村送り自体を無くす方向に進める訳か。
そうすれば最悪、討伐への同行を得られずともアトラへと向かう事は出来る。
「む、そうであったな。全く、奇縁とはこの事か。
お主が連れておる魔族の少年が、まさか半魔であったとは……
ゼールよ、分かっていてここまで来たのであろう?」
「さて、何のことでしょうか?」
「まあよい。
よかろう、ではアトラへと向かうのを許可する。
ただし、アトラでは半魔へ対する態度は違うぞ。
そこを分かった上で、険しき未来へ進もうと言うのか?」
ここだ。
アトラでの半魔に対する言及。
ここで仕掛け、半魔に対する意識改革への一石としての策を提案する!
「ダルド王よ! 不遜ながら僕からお願いしたい事がございます」
「なんだ、申してみよ」
「現在ギルドで掲載されている赤龍討伐への同行を志願致します!」
「……なんだと?」
そして俺はダルド王へと事の詳細を伝えた。
ナーロでの龍災に遭ったこと、道中での村の龍災を見て怒りに震えたこと、討伐に参加するための条件であるAランクに達していないこと、討伐で自身が力を示せば半魔全体の地位復権に繋がること。
「――――以上が、僕を同行させることによるメリットです。どうか、許可を!」
感情に訴え掛けるような内容ではあったものの、意図は伝わったはずだ。
そして、俺の両隣にゼールとイラルドが並び立つ。
「ライルが討伐に赴くのであれば当然、護衛のために私も同行致します」
「騎士団からも精鋭を、でしたな?
ならばこのイラルド、存分に力を振るって参りましょう!」
「イラルド、貴様……」
苦々しく呟いたのは王の横に控える魔族であった。
おそらくだが、彼には俺達の目論見が露見したのであろう。
ダルド王は顎髭を擦りながらこちらを見つめ、やがて
「ならぬ」
一言。
重々しく、否定の言葉を紡いだのだった。
「……お疲れ様。大変だったわね」
「おにいちゃん!体は大丈夫ですか!?」
「あぁ、何ともないよ。ありがとう」
部屋から出ると廊下にはゼールとルコンが立っていた。
よかった、ルコンは何とも無さそうだ。
頬の傷も綺麗に無くなっている。
「三人共、すまないがこのまま王の御前へと案内させてもらうぞ。付いてきてくれ」
そう言ってイラルドが廊下を先導し、俺達三人があとに続く。
俺達の後ろにはウルガドと数名の騎士団員が追従している。
おそらく、これまでの作戦とこれからの段取りについては今は話せない、いや話さない方が良いだろう。
ウルガドをはじめとする後ろの騎士団員達は、俺達の内情を知らない。
イラルドが今回の事態に関わっていると知れれば、騎士団内での心象に差し障る。
そうなると今後の展開に不都合が生じてしまうため、それは避けなくてはならない。
つまり、国王に対しての交渉は本当にぶっつけ本番の出たとこ勝負ということだ。
緊張から手汗が滲む。
サラリーマン時代にしてきた社内プレゼンとは訳が違う。
言葉通り、今後の人生が決まるかもしれない勝負だ。
決して失敗は出来ない。
長い廊下を歩き、いくつかの階段を登った先に大きな扉が現れる。
左右に対象の獅子を施された豪奢な鉄扉。
その扉を一目見るだけで、この先の空間がどういった場なのかは容易く想像出来る。
王の御所。
この国で最も神聖な場であり、偉大な人物が座す場。
「第一師団長イラルド・バーキン、半魔の少年をお連れ致しました!」
イラルドがノックをし、扉越しに用件を告げるとゆっくりと左右の扉が内側へと開かれていく。
扉の先の空間は華美な装飾で飾り立てられ、床には真っ直ぐ前方へと伸びるレッドカーペットが敷かれている。
カーペットの先には数段程の階段があり、その上には周囲よりも一層豪華な装飾を施された玉座が置かれている。
その玉座に座す、一人の人物。
白銀のところどころに金の装飾が施された豪奢な鎧を纏い、綺麗に整えられ不潔感等一切無い白髪を後ろに流して一本に纏めた老齢の男性。
ロデナス王国現国王、ダルド・ロデナス。
その横には豹顔の魔族の騎士団員が控えており、玉座までの道中にも数人の騎士団員や、高位の、いわゆる大臣の様な者たちが立っている。
張り詰めた空気とこちらへ注がれる奇異の視線に後退りしかけてしまう。
そんな背中をポン、と横にいたゼールが軽く押してくれる。
「大丈夫よ。行きましょう」
言葉に押され、真っ直ぐに進む。
怯むな、やるべき事をやるんだ。
「止まれ」
階段の数歩手前で、段上の豹顔の魔族から制止がかかる。
イラルドはそこで先頭からおれの横へとズレ、結果的に俺とゼールが先頭、その少し後ろにルコンが並ぶ形になる。
どうする、俺から名乗るべきなのか?
吐き気を催す程の緊張に襲われながら、これからの行動について考えるが、豹顔の魔族が先に口を開く。
「名乗れ、半魔の少年よ」
「っ、ライル・ガースレイです。人族と闘魔族との半魔です」
「ほう、闘魔族とな?それは珍しいな」
俺の返答に興味を示して口を開いたのは他でもない、ダルド王であった。
彼は髪と同様の白い髭を片手で揉みながらこちらを見下ろす。
「……王。せめて形式上の質疑応答までは――」
「堅苦しいことを言うでないわ。まあ任せい。ライルと言ったな。
此度のウルガドとの戦闘行為について、何か言いたいことはあるか?」
「過程はどうあれ、戦闘行為そのものは事実です。
罪に処されるのも仕方ないことと分かってはいます」
毅然と言い放つが、もちろん実刑を食らう訳にはいかない。
だが、嘘で保身に走ったところで後から首を絞める行為になりかねない。
あくまでも誠実に、仕掛けどころは今ではない。
「なるほど、あくまでも誠実。
この場での保身や嘘がどういった意味合いを持つ行動になるかを分かっておるな。
事情は聞いておる。
原因はそちらの狐族の少女であろう?
幼子の駄々の様なものだ、御せぬウルガドにも問題はあろうよ」
「面目次第もございません……」
俺の後ろで、ウルガドが主人に叱られた犬のようにシュンと項垂れている。
こうして見ると魔族って感情表現がしっかり表に現れるから、その容姿と相まって可愛く見えてしまうな。
特に尻尾とか。
「まあそんな事はよい。さて、早速だがお前さんの処遇についてだ。
此度の一件――――」
来る。
どんな実刑を言い渡されるかは分からないが、本命はその後だ。
覚悟はして来た、来い!
「不問とする!」
「え?」
「王ッ!」
「あーうるさいのう、横で大声を出すでないわ。
まだ耳は遠くなっておらんぞ」
予想外の無罪放免に情けない声が漏れてしまう。
段上では国王であるはずの老人が豹顔の魔族にガミガミと文句を言われている。
そんな光景を見つめる俺の周囲、騎士団員や大臣達がザワザワと騒ぎ立て始める。
「王はどういうおつもりだ?」
「半魔の上に騎士団員との戦闘行為だぞ? これは立派な反逆罪だ」
「やはり危険だ……今すぐにでも牢屋に放り込むべきだ!」
「静まれぃ!!」
ダルド王が段上より声を挙げる。
ビリビリと空気を揺らし、体の芯まで揺らされるような声だ。
一瞬で静寂に包まれた室内で、王は再び口を開く。
「まだ少年の身でありながら妹の為に気丈に振る舞い、立ち向かう。
その意気や良し! よって今回は不問とする!
異議があるのなら遠慮なく申し立てよ」
「えっと、その、ありま……せん……」
「ならば以上だ!
ライルよ、お主は本来であれば南東にある半魔達の暮らす村へと送還することになるのだが――」
「王よ、御言葉ですがライルはアトラへと向かう道中。
以前お話した通り、私はその護衛依頼に就いております。
今回の一件、不問にして頂けるのでしたらこのままアトラへと向かう許可を」
王の言葉を遮りつつゼールが口を開く。
なるほど、すぐに討伐への同行を求めるのではなく、一旦村送り自体を無くす方向に進める訳か。
そうすれば最悪、討伐への同行を得られずともアトラへと向かう事は出来る。
「む、そうであったな。全く、奇縁とはこの事か。
お主が連れておる魔族の少年が、まさか半魔であったとは……
ゼールよ、分かっていてここまで来たのであろう?」
「さて、何のことでしょうか?」
「まあよい。
よかろう、ではアトラへと向かうのを許可する。
ただし、アトラでは半魔へ対する態度は違うぞ。
そこを分かった上で、険しき未来へ進もうと言うのか?」
ここだ。
アトラでの半魔に対する言及。
ここで仕掛け、半魔に対する意識改革への一石としての策を提案する!
「ダルド王よ! 不遜ながら僕からお願いしたい事がございます」
「なんだ、申してみよ」
「現在ギルドで掲載されている赤龍討伐への同行を志願致します!」
「……なんだと?」
そして俺はダルド王へと事の詳細を伝えた。
ナーロでの龍災に遭ったこと、道中での村の龍災を見て怒りに震えたこと、討伐に参加するための条件であるAランクに達していないこと、討伐で自身が力を示せば半魔全体の地位復権に繋がること。
「――――以上が、僕を同行させることによるメリットです。どうか、許可を!」
感情に訴え掛けるような内容ではあったものの、意図は伝わったはずだ。
そして、俺の両隣にゼールとイラルドが並び立つ。
「ライルが討伐に赴くのであれば当然、護衛のために私も同行致します」
「騎士団からも精鋭を、でしたな?
ならばこのイラルド、存分に力を振るって参りましょう!」
「イラルド、貴様……」
苦々しく呟いたのは王の横に控える魔族であった。
おそらくだが、彼には俺達の目論見が露見したのであろう。
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