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第三章 旅路―王都ロディアス―編
第二十九話 「事後報告」
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王の間を出て少しして、イラルドとゼールから謝罪があった。
二人とも、『自分を見失っていた。すまなかった』といった内容の謝罪をしてくれたのだが、俺自身そんなことは全く気にしていない。
イラルドとはまだ付き合いは浅いが、二人は確実に俺のことを案じてくれている。
それぞれに抱えている想いがあり、俺を通してそれぞれの望みを叶えようとしている。
大いに結構、持ちつ持たれつ、だ。
俺は色んな人に支えられてここに立っている。
今度は俺が返す番だ。
----
宿に戻り、一人依頼をこなして帰って来たグウェスに今日の事を報告した。
報告する時の俺はめちゃくちゃに緊張、というか怯えていた。
とんでもないやらかしをした後に上司に報告する、くらいの緊張だ。
「大丈夫なんだな!? 何もされてないか!?
いやここは危険かもしれない! 今すぐにでも街を出て――」
「落ち着いて落ち着いて! 俺は何とも無いから!
街も出る必要は無いから! ね!?」
グウェスは俺の予想以上に驚きと焦りを見せた。
なんとか落ち着かせ、事の続きを話す。
グウェスが思っていたよりも半魔への扱いは緩和されており、それに対しては安心していたものの、俺が赤龍討伐へ同行出来る事を聞いてから一気に顔色が暗くなってしまった。
やはりグウェスは初めから俺を連れて行くつもりはなかったのだろう。
「ライル、今からでも間に合う。討伐への同行は取り下げろ」
「バカを言わないでくれ。やっと掴んだチャンスなんだ! それに……!」
グウェスの前で魔力を開放する。
黒みがかった紫の魔力を纏う俺を見て、グウェスは驚きの表情を浮かべながら口を開く。
「暴狂魔、か!?」
「バー、サク?」
「意識はあるのか!? 俺が分かるか!?」
「ちょ、どうしたんだよ父さん!」
「なっ、どういうことだ……」
「どういうことは俺の台詞だよ! バーサクって何さ? 教えてよ!」
「ライル、私から説明しましょう」
またもや取り乱すグウェスの代わりに、ゼールが説明を引き受けてくれた。
『暴狂魔』。
闘魔族が限界まで怒りや悲しみ、憎しみといった負の感情を抱えた時に発現する一種の特異体質、症状のようなもの。
理性や意識といったものは失われ、元々高い戦闘能力が限界を超えて強化された、いわゆる脳のリミッターが外れた火事場の馬鹿力状態。
暴狂魔に陥ってしまった場合、正気に戻るには一度強制的に意識を断つ以外に方法は無いとされている。
また、暴狂魔が発現するラインは個の精神力に大きく左右される。
「――――といったところかしらね。何か補足や間違えがあればグウェスさんにお願いするわ」
「……いや、ゼールさんの言われた内容で概ね合っている。ただ疑問なのは……」
グウェスとゼールが揃って訝しげに俺を見つめる。
今の説明を受ければ、二人が疑問に思う点は分かる。
「なんで俺は意識を保っていられるのか、でしょう?」
「そうだ。俺も魔土にいた頃や大戦時に暴狂魔に陥った者は何人も見てきた。
その誰もが、どんな歴戦の戦士でさえ例外無く我を忘れて暴れ狂った」
「ライルが己を見失わない理由は恐らく……」
「俺が、半魔だから?」
この力、暴狂魔が闘魔の血によるものだと聞いてから薄々勘づいていた。
ウルガドとの戦闘で暴走し、ルコンの呼び声で我を取り戻すまで、薄っすらと残っていた意識。
それはきっと、俺の人族としての部分なのだろう。
だから意識を完全に失わず、こうして制御するに至っている。
「そうとしか考えられないか……」
「父さんはなったことはないの?」
「俺は一度もない。ならないほうがいいんだよ――」
そう答えたグウェスは、悲しそうな顔をして遠くを見る様な目つきになる。
過去の同胞達に、想いを馳せるように。
「そういえば疑問なんですけど、ルコンも暴走したけど意識を取り戻せましたよね?
ルコンは純粋な魔族の筈ですけど、どうしてなんでしょう?」
「ルコンの九尾励起は狐族にとっての体質、そういう意味では暴狂魔も同様だけれど、そもそも九尾励起は制御し、自分の意志で発現出来るものよ。
ケースが少ないから確かな事は言えないけれど、ルコンのように暴走する方が少ないのでしょうね」
「つまりルコンは、単に幼さ故の暴走ってことか」
『ほえ~~!』と他人事の様にベッドの上でルコンが関心している。
ルコンも一応話は聞いているのだが、真面目な話が長くなるとどうしても疲れてしまう様だ。
そうだよね、まだ八歳だもんね。
「なんにせよ、だ。
ライル、おまえがその力を完全に制御出来るのなら……」
「父さん。約束のAランクは果たせそうにないけど、それは父さんも分かってて言ったんだろう?
でも俺はこうして新しい力も得た。
もう、足手まといにはならない」
「グウェスさん、今回の討伐には私と第一師団長のイラルドも同行致します。
私がライルを守りますので、どうか」
「ゼールさんだけでなく、あの『凱剣』が!?」
「凱剣?」
「イラルドの異名よ。
多くの戦場、多くの紛争を勝ち抜き、終わらせてきた際に挙げた勝鬨から付いた異名よ」
「イラルドさんって、やっぱり凄い人なんですね……」
月並みな感想しか出てこないが、王様との謁見と暴狂魔についての話で既に頭は疲れ切っている。
むしろ起きて話が出来ている自分を褒めてやりたいくらいだ。
「それならば、いける……! 戦力も十分、後は確かな準備を整えれば!」
「龍を、討てる」
「ええ、必ず」
「頑張りましょう!!」
あ、そういえば。
俺とグウェス、ゼールの三人が一斉にルコンを見つめる。
「?? どうしたんですか?」
「ルコンは留守番かな~……なんて」
その夜、宿中にルコンの駄々と泣き声が響き渡るのであった。
----
討伐者の募集期限の二週間はあっという間に過ぎ去った。
その殆どの時間を鍛錬に充てて己を限界まで鍛えた。
グウェスはAランクの募集要項を満たしているため問題無く討伐隊に参加できた。
討伐に向かう間、ルコンは王城にて保護してもらえることになった。
当初は泣きじゃくって全く言うことを聞いてくれなかったが、数日掛けて俺とゼールが説得することでようやく納得してくれた。
ルコンを連れて行くには危険すぎる、今回ばかりは可哀想だが彼女自身のためだ。
そうして募集期限の二週間が経った翌日、全討伐参加者に王城から招喚がかかる。
出発までの残り一週間、メンバーの顔合わせと作戦立案に時間を費やすとのことだ。
「いよいよ、か……」
「まだ一週間はある。今から気負いすぎるな」
「分かってるよ。行こう」
出発まで、あと一週間。
二人とも、『自分を見失っていた。すまなかった』といった内容の謝罪をしてくれたのだが、俺自身そんなことは全く気にしていない。
イラルドとはまだ付き合いは浅いが、二人は確実に俺のことを案じてくれている。
それぞれに抱えている想いがあり、俺を通してそれぞれの望みを叶えようとしている。
大いに結構、持ちつ持たれつ、だ。
俺は色んな人に支えられてここに立っている。
今度は俺が返す番だ。
----
宿に戻り、一人依頼をこなして帰って来たグウェスに今日の事を報告した。
報告する時の俺はめちゃくちゃに緊張、というか怯えていた。
とんでもないやらかしをした後に上司に報告する、くらいの緊張だ。
「大丈夫なんだな!? 何もされてないか!?
いやここは危険かもしれない! 今すぐにでも街を出て――」
「落ち着いて落ち着いて! 俺は何とも無いから!
街も出る必要は無いから! ね!?」
グウェスは俺の予想以上に驚きと焦りを見せた。
なんとか落ち着かせ、事の続きを話す。
グウェスが思っていたよりも半魔への扱いは緩和されており、それに対しては安心していたものの、俺が赤龍討伐へ同行出来る事を聞いてから一気に顔色が暗くなってしまった。
やはりグウェスは初めから俺を連れて行くつもりはなかったのだろう。
「ライル、今からでも間に合う。討伐への同行は取り下げろ」
「バカを言わないでくれ。やっと掴んだチャンスなんだ! それに……!」
グウェスの前で魔力を開放する。
黒みがかった紫の魔力を纏う俺を見て、グウェスは驚きの表情を浮かべながら口を開く。
「暴狂魔、か!?」
「バー、サク?」
「意識はあるのか!? 俺が分かるか!?」
「ちょ、どうしたんだよ父さん!」
「なっ、どういうことだ……」
「どういうことは俺の台詞だよ! バーサクって何さ? 教えてよ!」
「ライル、私から説明しましょう」
またもや取り乱すグウェスの代わりに、ゼールが説明を引き受けてくれた。
『暴狂魔』。
闘魔族が限界まで怒りや悲しみ、憎しみといった負の感情を抱えた時に発現する一種の特異体質、症状のようなもの。
理性や意識といったものは失われ、元々高い戦闘能力が限界を超えて強化された、いわゆる脳のリミッターが外れた火事場の馬鹿力状態。
暴狂魔に陥ってしまった場合、正気に戻るには一度強制的に意識を断つ以外に方法は無いとされている。
また、暴狂魔が発現するラインは個の精神力に大きく左右される。
「――――といったところかしらね。何か補足や間違えがあればグウェスさんにお願いするわ」
「……いや、ゼールさんの言われた内容で概ね合っている。ただ疑問なのは……」
グウェスとゼールが揃って訝しげに俺を見つめる。
今の説明を受ければ、二人が疑問に思う点は分かる。
「なんで俺は意識を保っていられるのか、でしょう?」
「そうだ。俺も魔土にいた頃や大戦時に暴狂魔に陥った者は何人も見てきた。
その誰もが、どんな歴戦の戦士でさえ例外無く我を忘れて暴れ狂った」
「ライルが己を見失わない理由は恐らく……」
「俺が、半魔だから?」
この力、暴狂魔が闘魔の血によるものだと聞いてから薄々勘づいていた。
ウルガドとの戦闘で暴走し、ルコンの呼び声で我を取り戻すまで、薄っすらと残っていた意識。
それはきっと、俺の人族としての部分なのだろう。
だから意識を完全に失わず、こうして制御するに至っている。
「そうとしか考えられないか……」
「父さんはなったことはないの?」
「俺は一度もない。ならないほうがいいんだよ――」
そう答えたグウェスは、悲しそうな顔をして遠くを見る様な目つきになる。
過去の同胞達に、想いを馳せるように。
「そういえば疑問なんですけど、ルコンも暴走したけど意識を取り戻せましたよね?
ルコンは純粋な魔族の筈ですけど、どうしてなんでしょう?」
「ルコンの九尾励起は狐族にとっての体質、そういう意味では暴狂魔も同様だけれど、そもそも九尾励起は制御し、自分の意志で発現出来るものよ。
ケースが少ないから確かな事は言えないけれど、ルコンのように暴走する方が少ないのでしょうね」
「つまりルコンは、単に幼さ故の暴走ってことか」
『ほえ~~!』と他人事の様にベッドの上でルコンが関心している。
ルコンも一応話は聞いているのだが、真面目な話が長くなるとどうしても疲れてしまう様だ。
そうだよね、まだ八歳だもんね。
「なんにせよ、だ。
ライル、おまえがその力を完全に制御出来るのなら……」
「父さん。約束のAランクは果たせそうにないけど、それは父さんも分かってて言ったんだろう?
でも俺はこうして新しい力も得た。
もう、足手まといにはならない」
「グウェスさん、今回の討伐には私と第一師団長のイラルドも同行致します。
私がライルを守りますので、どうか」
「ゼールさんだけでなく、あの『凱剣』が!?」
「凱剣?」
「イラルドの異名よ。
多くの戦場、多くの紛争を勝ち抜き、終わらせてきた際に挙げた勝鬨から付いた異名よ」
「イラルドさんって、やっぱり凄い人なんですね……」
月並みな感想しか出てこないが、王様との謁見と暴狂魔についての話で既に頭は疲れ切っている。
むしろ起きて話が出来ている自分を褒めてやりたいくらいだ。
「それならば、いける……! 戦力も十分、後は確かな準備を整えれば!」
「龍を、討てる」
「ええ、必ず」
「頑張りましょう!!」
あ、そういえば。
俺とグウェス、ゼールの三人が一斉にルコンを見つめる。
「?? どうしたんですか?」
「ルコンは留守番かな~……なんて」
その夜、宿中にルコンの駄々と泣き声が響き渡るのであった。
----
討伐者の募集期限の二週間はあっという間に過ぎ去った。
その殆どの時間を鍛錬に充てて己を限界まで鍛えた。
グウェスはAランクの募集要項を満たしているため問題無く討伐隊に参加できた。
討伐に向かう間、ルコンは王城にて保護してもらえることになった。
当初は泣きじゃくって全く言うことを聞いてくれなかったが、数日掛けて俺とゼールが説得することでようやく納得してくれた。
ルコンを連れて行くには危険すぎる、今回ばかりは可哀想だが彼女自身のためだ。
そうして募集期限の二週間が経った翌日、全討伐参加者に王城から招喚がかかる。
出発までの残り一週間、メンバーの顔合わせと作戦立案に時間を費やすとのことだ。
「いよいよ、か……」
「まだ一週間はある。今から気負いすぎるな」
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