半魔転生―異世界は思いの外厳しく―

狐山犬太

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第三章 旅路―王都ロディアス―編

第三十一話 「想いの繋ぎ手」

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「おいおい、んなブルってんなよライ坊!
 こういう時は胸張って偉そうにしてりゃ良いんだ!」
「簡単に言わないで下さい……レギンさんはお気楽だなぁ」
「お気楽上等! 深く考えてたって始まるもんも始まらねぇ。ほら、王様の合図だ。行くぞ!」

 レギンさんに促され、民衆を見下ろすように作られた演説台に、俺達赤龍討伐隊が上がっていく。
 出発当日、討伐隊の面々は王都の中央に位置する広場へと集められ、ダルド王の演説と民衆からの鼓舞により送り出される事となった。
 しかし、この演説の

 ん? なんであれだけ作戦会議でバチバチにオラってたレギンが俺のことを『ライ坊』なんて呼ぶのかって?
 実はあの後、六日の間にメンバー間での交流が行われたのだが、レギンは当然の如く俺に突っかかってきた。
 曰く、『実力を示せ』と。
 今出せる俺の全力、それを惜しみなく発揮したところ、レギンは大変満足したようで、以来俺のことを『ライ坊』と呼んで可愛がってくれている。
 レギンは蓋を開けてみれば面倒見の良い兄貴肌な男で、どうやら俺に突っかかってきたのも子どもを危険な場所に送り出す事への抵抗からくるものであったようだ。
 まあ、前世から合わせると既に俺の精神年齢はアラフォー。
 二十前半程のレギンから坊呼びで可愛がられるのも複雑な心境だ。

 っと、そんな事はさて置き。
 いざ集まった民衆の前に立つと、緊張がより一層強くのしかかってくる。
 俺は前世からスピーチやら発表やらプレゼンやらが苦手だ。
 何度やっても、自分に刺さる視線群に対する苦手意識は払拭されない。
 しかも今のこの視線は――

「おいおいなんだあれ?」
「イラルドさんの横にいるのって、子ども?」
「おーーい!! ガキンチョが混ざってんぞぉ~!」
「いやいや、ありゃ魔族だよ! もしかしたらもう大人かもしれんぞ?」

 好奇の視線。
 赤龍討伐という国を挙げての重大案件にあたるメンバーの中に、明らかに不相応な者がいる。
 当然、俺のことだ。
 こうなることは分かっていた。
 気合を入れろ、視線は無視しろ、はここからだ。

「皆の衆!!
 彼らこそ、現在我が国を脅かし、かのグランロアマウンを根城としている赤龍めを討たんとする勇者達である!
 皆それぞれが数多くの確かな武勲を打ち立ててきた強者、此度の討伐は既に約束されたようなものである!」

 ダルド王の力強い宣誓を受け、民衆からは大きな拍手と歓声が挙がる。
 少し誇張気味な確約を掲げてはいるが、多くの人を納得させる際には、確かな権威や立場にある者からのには大きな効果がある。
 現に、民衆のボルテージはうなぎ登りだ。
 一方で、先の紹介からは明らかに漏れるに触れる声も、より一層大きさを増している。

「そして、今ひとつ。
 諸君に私から約束すべき事がある。
 だが、その前に一人紹介したい者がいる」

 来た!
 歯を食いしばり、存在をしっかりとアピールするように力強く一歩前へと出る。
 この場にいる民衆、全ての視線が突き刺さる。
 しかし、意に介さずダルド王の横へと並ぶ。

「彼の名はライル・ガースレイ、半魔である」

 一瞬の沈黙。
 そして訪れる、疑惑の氾濫。
 それは大きな波となり、瞬く間に広場全体へと広がっていく。
 王の正気を疑う声、そもそも半魔かどうかを疑う声、多くの声が空間を支配して飲み込もうとした時

「静まれえぇぇぇぇいぃぃ!!!!」

 空気を揺るがす王の一喝により、民衆はピタリとその口を閉じて静止し、広場には静寂が訪れる。

「すまんな、これから話すことはこの国を、世界を変えるようなそんな話だ。
 どうか静粛に聞いてもらえると有り難い」

 そうして、王は語る。
 今までロデナス王国では秘密裏に半魔を保護していたこと。
 人も、魔も、半魔でさえも平等に、平和に暮らせる世界を創りたいこと。

「皆の中にもいるであろう。
 かの大戦で友を、愛する家族を失った者が。
 それまで当たり前だった、何の謂れもない者達が虐げられてきた事実を見てきた者達が。
 ともすれば、皆の中には虐げてきた者もおるのかもしれん。
 進んで世界の波に乗った者、否応無しに流された者。
 その者達を責めることは誰にも出来ん」

 ダルド王の言葉は静かな広場へと響き渡り、民衆も固唾を呑んで聞き入っている。
 中には当時の様子を思い出して涙を流す者も多くいる。

「そうして時は過ぎ、世界は今の形を成した。
『半魔は禁忌』、そのような下らないルールがまかり通る世界が。
 私は王として、いや、ワシは一人の人間として!
 そんな世界を変えたいと願っている!
 人族も、魔族も、半魔も、全て同じなのだ!
 身体の造りや生まれの違いなどは些末なことである。
 故にワシは、このロデナスから、ひいては世界を!
 皆が平等に暮らせる世界へと変えていきたいと願っている!!
 そして、このライル・ガースレイはこの世界を変える、そんな一石を担ってくれるのではないかと思っている」

 強く語る王の言葉には『力』があった。
 それは俺を、その場にいる全ての人を震わせる程の『力』。
 そんな『力』のバトンが、そっと渡される。
 横にいた俺の背中を優しく、ダルド王は押して前へと進ませる。

「はじめまして、ライル・ガースレイです。
 僕は闘魔族の父と人族の母との間に生まれました。
 両親は僕にあらん限りの愛情を注いでくれました。
 生まれ育った村の人々には父が魔族であること、僕が半魔であることは隠して生きてきました。
 幸い、これまで僕が半魔であることは知られず生きてこれたのですが、両親からこの世界での半魔に対する扱いは聞き及んでいました。
 僕自身は半魔であることで起こる不幸を体験していません。
 ですが、王が仰ったように、皆さんの中にはそういった方々もいらっしゃるかと思います。
 そこで、僕は、その――」

 あぁ、駄目だ駄目だ! 上手くまとめられない、言いたいことはあるのに適切に言語化出来ない!
 クソッ、こんなことならカンペくらい用意すればよかった。

 ポン、と背中をまた押された。
 それは先程同様ダルド王であり、彼が言いたいことは目を見れば理解出来た。
 俺自身の言葉で、想いで良いのだと。

「――いえ、綺麗事を言うつもりはありません。
 俺は『半魔としての不幸や理不尽』に遭っていません。
 だから、過去虐げられてきた半魔達や、皆さんの気持ちは本当の意味で理解出来ない。
 俺がここにいる理由は世界を変えたいとか、全ての半魔を救いたいとか、そんな高尚な理由じゃない。
 育った村を、愛する母を焼き殺した龍を討つ為に、俺はここにいる」

 ザワザワと、民衆が騒ぎ始める。
 きっと期待していた言葉ではなかったからだろう。
 そんなことは知ったことか。
 全ての半魔や世界だなんてものは背負いきれない。
 俺は、俺自身のためにここにいる。

「俺は、俺を襲った『理不尽と不平等』という不幸を消すためにここにいる!
 そして、みんなの中にも俺と同じ想いを持つ人がいるなら、今! これから先で、声を挙げて欲しい!
 ダルド王が掲げる意志を、俺を踏み台でも広告塔にしてでも!
 俺は、龍を倒して俺の世界を変える!
 だからみんなも、変えたいなら声を挙げてくれ!
 大戦前は出来ていたんだ、絶対に戻れる筈だ。
 手を取り合って、誰もが平等に暮らせる世界をまた創れる筈だ!」

 分からない、俺の言葉がどれだけ響くかなんてのは。
 だが今、人々は黙って俺の言葉を聞いてくれている。
 言うしかない、どれだけ不格好で、どれだけ意味不明でも。
 この『想い』だけは言葉にしなくては。

「世界は変えられるんだ!! 変えるのはアンタたちみんなだ!
 見てろ! 俺は龍を倒して、俺の世界を変えるぞ!
 この理不尽で不平等に支配された世界を変えるのは『自分』だって証明するぞ!
 だから、だから……次はみんなの番だぞッ!!」

 ――静寂。
 言った、言ったぞ。
 もう俺に言うべき言葉は無い。
 最善では無かった。
 ともすれば、良くすらなかったかもしれない。
 後は……

「俺は――」

 静寂を破る一つの声。
 それは壇上にいる俺たちからでなく、広場の民衆の中に埋もれた一人の男性から放たれたものであった。

「俺は大戦で、半魔の友達を亡くした!
 なんでだって、この世界を強く恨んだよ」
「アタシは、結婚を誓った魔族の男性と生き別れになってしまったわ。
 半魔を産むことになるからってね」
「ワシも――」
「私は――」

 次々と声が挙がる。
 それはいずれも、過去から続く現在の世界の在り方を変えたいと願う人々の強き『想い』であった。

「行って来い! 坊主!」
「頑張って! 応援してるわ~~!!」
「勝てよーー!!」「変えるんだろ! おまえの世界を!」

 気付けば、声は声援へと変わっていた。
 この場にいるほぼ全ての人々が、俺を応援し、送り出してくれている。

「よい言葉であった。強く、真っすぐな。
 世界を変えるのは強き『力』だ。
 お主はそんな『力』を示した。『想い』という『力』を。
 後はワシが、皆が紡いで広げていく。
 ありがとう、ライル・ガースレイ」

 俺だけに聞こえる声量で、王は優しく語りかける。
 今の俺の言葉に、どれだけの意味と力があるのかは分からない。
 それに、ここから先の世界なんて俺がどうこうするものでもない。
 後は――――


 ----

「じゃあ、ルコンをよろしくお願いします」
「はい、お任せ下さい。
 でもルコンちゃん、すっかり落ち込んじゃって……」
「仕方ないです。今回ばかりは、ね」

 広場を出ての出発直前。
 門の手前で、ルコンの面倒を見てくれる王宮メイドの方に挨拶をしているのだが、肝心のルコンは演説の直前になって『付いて行きたい!』とグズりだして城の部屋に閉じこもってしまっていた。
 可哀想だが、心を鬼にして置いていく。
 ごめん、絶対に帰ってくるから。

「ライル、行くわよ」
「はい、先生」

 振り返り、門へと向かう。
 門の隙間からでも、遠くにそびえ立つグランロアマウンの威容が目に入る。
 これからあそこへ、龍の元へ。
 今からでも武者震いがする。

「ったく、それがさっきガツンと言ってやってたヤツの顔か?」
「リラックスですよ、ライル君」
「安心しろ、俺達騎士団も付いてる!」

 レギン、ミルゲン、イラルド達が鼓舞してくれる。
 流石は多くの修羅場を潜ってきた人達だ、敵わないな……

「ライル、ここから先はおまえも一人の戦士だ。
 自分の身は自分で守れ。
 他人に構ってる暇は無いぞ、いいな」
「分かってるよ、父さん。行こう」

 多くの人に支えられ、いざ龍伐――――
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