半魔転生―異世界は思いの外厳しく―

狐山犬太

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第四章 旅路―赤龍討伐―編

第四十一話 「因縁、相見え」

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 龍が居るとされる地点に近づくにつれ、空気が変わっていくのが分かる。
 高度が上がっているから酸素が薄くなる、という意味ではなく、雰囲気の話だ。
 ここまでの道中、辺りから生物の気配がまるでしない。
 死に絶えている訳では無いだろうが、意図して避けているのだろう。

 馬車は3000メートル地点より進むことは出来ないので、予定通り護衛の騎士団員と共に置いてきた。
 ルコンもキャンプに残ってもらった。
 最初こそ付いていくと駄々をこねていたが、最終的には納得して残ってくれた。
 笑顔で手を振りながら、『絶対に無事に戻ってきてくださーーい!!』と見送ってくれた。

 対巨獣用削撃爆破槍、『巨獣殺し』はグウェスが運搬してくれている。
 100キロもの荷物を抱えての登山は一見正気の沙汰とは思えないが、グウェスはケロリとした顔で問題無く歩き続けている。
 恐るべし、歴戦の闘魔。

「そろそろだな。ここらで一度休息としよう」
「僕が先行して先の様子を見てくるよ、一五分で戻る」

 皆が腰を下ろす中、ハルシィは一人で先へと進んで行く。
 軽快に、跳ねるようにして進んでいくハルシィの姿は兎族ラビッツの名に恥じないものだ。

「お疲れ父さん」
「これくらい大したことじゃない」
「大したことじゃないって……」
「流石は名高い闘魔族ってとこだな。
 グウェスのダンナ、帰ったら一戦手合わせ願うぜ!」
「フッ、加減は出来んかもしれんぞ?」

 グウェスとレギンはバチバチと熱い火花を散らし、イラルドとドノアの騎士二人は作戦の確認を、シーリアとフィネスの女性陣は談笑を、ゼールはミルゲンと魔術についての何やら難しそうな話をしている。
 決戦目前、士気は上々。
 リラックスすべきところでは、各々きちんと息を整えられている。

 約束の一五分が経過し、ハルシィが戻って来る。
 怪我も無く、無事な様だ。

「ただいま。やっぱり先には魔獣の類はいないね。
 隊列移動なら、三十分もすれば目的地の窪地に出ると思う」
「すまないな、助かるよ。
 龍の気配は分かったか?」
「ごめん、そこまでは分からなかったよ」
「いや、いいんだ。君も休んでくれ。
 皆、あと三十分で出発だ! それまではしっかりと休んでくれ! 装備の点検も怠るなよ!」

 いよいよ、いよいよだ……!
 待っていろ。

 ----

 目的地は峰と峰の間にある、不自然なほど綺麗にならされた、サッカーコート二つ分はあろうかという巨大な窪地だった。
 山の大きさが大きさなら、この広さも納得か。
 むしろ、標高でいうと俺たちはまだ半分も登っていない。
 いや、待て。
 龍はどこだ?
 見晴らしの効くこの立地、あの巨体であれば一目で分かるはず。

「どうやら、龍は留守のようだな」
「ここじゃなかったのではないですか?」
「いや、間違いなく此処だね。
 見てご覧、あそこに爪の跡がある。
 そこには寝た時についた尾や身体の跡、そして――」

 ハルシィが指差した先。
 そこには、およそ人体から出たものとは思えない大量の血痕。
 よく見れば、周囲の地面には蹄の跡もある。
 この大きさ、まさか!?

「これって!?」
「おそらく、赤龍とサンガクの戦闘跡だろう。
 縄張りを荒らされたサンガクが仕掛けたか、はたまた邪魔者である先住民を追い払う為か……」
「なんにせよ、これは俺達にとってはまたとないチャンス、だろ?」
「その通りだ、これで赤龍が少しでも手傷を負ってくれているのならば重畳。
 よし、ヤツがいないうちに周囲の状況確認だ!」

 イラルドの指示を受け、各々が周囲の地形や足場、何か利用出来る物がないかを確認していく。

「見たところ大きな障害物も無く、足場も平坦。
 俺達にとっては理想といえる立地だな」
「いえ、これは――」

 ゼールとミルゲンの顔が曇る。

「魔素が……殆ど無い、ですね……」
「不自然な程の魔素の僅少、魔素喰いかしら」
「魔素喰い?」
「一部の魔獣が持つ体質よ。
 文字通り、周囲の魔素を喰らい己の魔力へと変換する特殊体質。
 赤龍がこの体質の持ち主だとしたら、相当厄介ね」
「現に我々の攻撃手段は大きく制限されています。
 このままでは魔弾による援護しか出来ません」

 現状、『巨獣殺し』を除けばゼール達の一級魔術こそ俺達の最大火力だ。
 それが封じられた。
 厳密には、ミルゲンとシーリアが未だ所有する魔素瓶を使えば、一級魔術の発動自体は可能である。
 だがそれ故に、タイミングは慎重に選ばなければならない。
 ましてや、シーリアの魔素瓶はいざという時の救命措置だ。
 おいそれと使う訳には――

「全員集まれッ!!」

 突如、グウェスが声を荒げる。
 何事か、いや、そんな事は決まっている。
 帰って来たのだ、ヤツが。

 視界の先、聳え立つ峰の影より飛来する、赤褐色の鱗持つ龍。
 頭部には二メートルを超える大きさの角が
 五メートルを優に超える尾を持ち、いやいや待て待て!!
 あいつ、大きくなってないか!?
 ナーロ村で見た時は、尾まで含めて全長は一五メートル程だった。
 それが今や、二十を超え、いや三十メートルに迫ろうかという程の巨体に成長している。
 成体ではないって聞いてはいたが、ここまで早く成長するのかよ!

 接近するにつれ、その肉体にはところどころ生傷が付いている事が分かる。
 おそらくはサンガクとの戦闘により付いた傷だろう。
 こればかりは幸運ついてると言えるだろう。

 そうして龍は俺達一行の前に降り立つと、鎌首をもたげつつゆっくりと、その黄玉の様な瞳で俺達を串刺しにする。
 凄まじいプレッシャー、これが龍と戦うという意味。

「こいつが、村の……サラの……!!」

 隣りにいるグウェスが小刻みに震え出す。
『巨獣殺し』を降ろし、ゆっくりと腰の短剣に手が伸びる。

「抑えてくれ、グウェスさん! まだだ、合図まで待ってくれ」
「ッ、分かっている」

 龍の視線が舐めるように俺達を回る。
 ふと、その動きが止まる。
 俺を見ている?
 いや、違う。
 俺の、黒角の杖ノワールケインを見ている?
 あ、コイツ、――

 次の瞬間、空気を揺るがす咆哮が轟く。
 耳を塞がなければ鼓膜が破れるのではないかと思わせる程の声量。
 身体が芯から揺さぶられるように震え、制御が効かない。

「マズイッ!」

 誰かの叫び声。
 龍の口からは、煌々と燃え盛る炎が顔を出している。
 ブレス――もう!?
 人体を数秒で焼却する、必殺の超火力ブレス。
 飲まれれば即死、しかし遮蔽物は無く逃げる時間も無い。

「皆さん私の後ろにッ!!」

 ミルゲンが隊列先頭に飛び出しつつ、懐から魔素瓶を取り出して地面に叩きつける。
 瞬時にミルゲンの周囲が魔素で満たされ、並行して彼自身の魔力も高められていく。

水龍アクア――」

 術名を唱え切る前に、龍の口から灼熱が解き放たれる。
 扇の様に広がりつつ俺達を飲まんとする灼熱の大波。
 それに対抗するのは

咆哮シュトロームッ!!」

 瀑布の如き水量が、中空より放出される。
 いつかのギアサの町で見た光景と瓜二つ。
 しかし、今回俺達を守ってくれるのは水性魔術の方である。

「ぬぅううぅぅぅぅッ!!」

 拮抗。
 ぶつかる端から霧となって空気に溶けゆく両者の攻撃。
 しかし。
 徐々に、徐々にミルゲンの体が後ろへ押し込まれる。
 イラルドとグウェスがすかさずミルゲンの背中を支えに入る。

「持ちこたえろ! なんとしても耐えるんだ!」
「わがっ……で! ますッ!!」

 ブレスの勢いも無限に続くわけではない。
 徐々に細く、勢いを無くしていくブレスに呼応するように、溢れ出る瀑布の水量も弱まっていく。
 そうして、完全に両者の放出が収まった瞬間。

「待ってたぜぇ!」
「行くよ、フィネス!」
「はいよ! 眼だね!」

 レギンとハルシィ、フィネスが飛び出す。
 狙うは長く伸びる首、はたまた頭部で輝く黄玉の瞳。

鎧通し・閃槍よろいどおしせんそう!」

 レギンの槍は強固な鱗の隙間を縫い、硬い皮膚を貫き首筋に深々と突き刺さる。
 痛みに首を持ち上げて呻く龍の体を、左右の足から兎族ラビッツの二人が駆け上がる。

「「二兎一刃にといちじん――」」

 長い首をも駆け上がり、瞬時に頭部側面に跳躍する。
 二人の双剣、四本の刃が、息を合わせて月を描く。

「「孤月狩りこげつがりッ!!」」

 二人の刃が両目を裂かんと振るわれるが、危険を感じた龍は瞼を降ろしてこれを防ぐ。
 硬く厚い瞼は刃を通さず。

 巨体に見合わない瞬間的な危機回避能力。
 一目で自身の体から作られた武具と認識する知能。
 一撃必殺のブレスと、巨体から繰り出されるであろう広範囲の質量攻撃。
 紛うことなき、過去最大の強敵。
 しかし、怯む理由にはならない。

 駆ける、前へ。
 一撃、先ずは一撃!
 すぐ横にグウェスが並んで来る。

「合わせろライル!」
「あぁ!」

 暴狂魔バーサク、黒みがかった紫の魔力を纏う。
 見せてやる! 受けてみろ! これが、お前が刻んでいった! 俺の想いだ!

「であぁアァァァ!!」
「フンッ!!」

 拳が合わさる。
 寸毫すんごう違わず同じタイミングで、衝撃が突き抜ける。


 さあ、今度はお前が奪われる番だ!

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