灰に堕ちるその日まで

こりゃりゃ

文字の大きさ
29 / 137
沈黙の檻

人質確認

しおりを挟む
 「……あとは頼むわ」

 鴉の呟きを聞いた蓮は、口を結び、ほんの一瞬だけ目を伏せる。

 だが、次の瞬間には顔を上げ、周囲に目を走らせた。

 「人質……!」

 蓮は立ち上がり、警戒しながら格子の扉へ向かう。爆発の衝撃で錠がゆがみ、かろうじて施錠は外れていた。

 「大丈夫か。怪我してる奴は——」

 中の女性たちが一斉に顔を上げる。すすけた頬、泣きはらした目。怯えたまま声を発せずに震えていた。

 「安心しろ、もう大丈夫だ。俺たちは公安だ」

 蓮がしゃがみ込み、猿ぐつわを外しながら、できる限り柔らかい声で告げる。

 「怪我してる子がいたら、教えてくれ」

 一人の少女が、おずおずと手を上げた。足に裂傷があり、血が乾いて黒く固まっている。

 蓮はすぐに自分のポーチから滅菌ガーゼを出して、応急手当を始めた。

 その手つきは、思いのほか丁寧だった。

 「もう、こわいのない……?」

 かすれた声が耳に届く。

 「こわくない。もう、あんな奴らには触らせない」

 少女の頭をそっと撫でると、その小さな体が小刻みに震え、次の瞬間、彼の胸元にしがみついた。

 「……っ」

 蓮は、静かにその背中を抱きしめた。

 背後から、うっすらと咳混じりの声がする。

 「……やるじゃん、お兄さん」

 振り返ると、鴉が床に座ったまま、顔に薄く笑みを浮かべていた。

 「喋るなって言ったろ」

 「……子供には優しいんだな」

 「……あとで文句聞いてやるから黙ってろ」

 そう吐き捨てながらも、蓮の顔にかすかに浮かんだ表情は、怒りでも冷たさでもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です ーーーやってしまった。 『もういい。お前の顔は見たくない』 旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。 前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める 頑張って運命を回避しようとする話です

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

処理中です...