灰に堕ちるその日まで

こりゃりゃ

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沈黙の檻

斜陽のバディ

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外気が肌を打つ。

崩れた建物を抜けた瞬間、冷たい夜風が、焦げた匂いと血の臭いを吹き飛ばした。

「こちら公安、目標施設より人質を救出。負傷者あり、医療班応答願う」

蓮が通信に呼びかけると、数秒後、応答が返ってきた。

『こちら医療班、位置を特定。すぐに向かいます。負傷者の状態は?』

「軽傷者1、重傷1、意識あり。保護対象は計18名、全員生存確認」

「こっちは怪我人も背負ってんだ、急いでくれよ」

鴉が疲れたように笑って肩をゆすり、蓮の横に並ぶ。
その腕からは、先ほどの戦闘でできた傷がにじんでいた。

「おまえも、手当受けろよ」

「こんぐらい後回しでいい」

「お前が倒れたら、俺が余計に仕事増えるだけだ」

「はいはい、心配してくれてありがとうよ、相棒」

「してねぇよ」

ふっと、互いの間に笑いのような空気が流れる。
人質たちは無言だったが、2人のやり取りに少しだけ表情を緩めていた。

そこへ、救急車のサイレンが遠くから響いてくる。

数分後、医療班が到着すると、蓮が手短に状況を説明しながら、人質を順に引き渡していく。

「この子は足に裂傷。出血してるが骨は無事っぽい。あとこっちは――」

「わかった、すぐ処置する。君たちも手当てを――」

「俺らは後回しでいい。人質を優先してくれ」

「おい、蓮。そこまで真面目な顔すんなって。怖がってる子もいるだろ」

鴉が冗談めかして言うと、蓮が小さく肩をすくめる。

「だったら、お前が変顔でもしとけよ」

「はは、任せとけって」

その場を仕切るように動き回る蓮と、それを軽口で支える鴉。
公安の制服に血や煤がついていても、2人はまるで慣れたように――だがどこか優しく、淡々と人を助けていた。

医療班のひとりが少女に毛布をかけながら言った。

「あなたたち……本当に、来てくれてありがとう」

「……当然のことをしただけだ」

蓮はそう言って視線を落とす。
鴉は静かに笑って、風に吹かれる前髪をかきあげた。

「俺らの仕事だから。な?」
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