灰に堕ちるその日まで

こりゃりゃ

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静寂にしのぶ影

囁かれた名前

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廃ビルの地下、通気の悪い薄暗い部屋。
ユリは古びたファイルを机に置き、蓮と鴉の前に座る。

「──これが逃亡用のIDだ。名前も戸籍も、まっさら。貴方なら使いこなせるだろう」

 鴉が差し出した小さな封筒。ユリはそれを受け取ると、静かに息をついた。

「こんなもの……アンタみたいな人間がどうやって用意してるのか、怖くて聞けないわね」

「はは、聞かなくていいさ。……それで、情報は?」

 問いかける声に、感情の揺れはなかった。
 でも、ユリはほんの一瞬、鴉と蓮の瞳を交互にじっと見つめた。

「“開発チーム”に、裏で関わってたもう一つの影。
あんたたちに最も縁が深い存在よ」

鴉が眉をひそめる。
「影……?」

ユリは静かにページを開く。
一枚の写真がそこに貼られていた。だが、肝心な部分は黒塗りで消されている。

「“宵宮”。
かつて、影で動いていた男。今は“裏の手”と呼ばれてる存在よ」


その瞬間、鴉の表情が一気に硬くなる。視線が揺れ、胸の奥で何かがざわめいた。

沈黙が流れる。


「……十数年前に“戦死扱い”になってるが、今も動いてる痕跡がある。前の取り引きの時に話した蓮に興味を持つを"別の筋"っていうのも、この男のことよ」

蓮が鋭く鴉を見つめた。

「……鴉?」

ユリが視線を鴉に向ける。

「宵宮のこと、知ってるのね」

鴉は小さく息を吐いた。

「……ああ、知っている。」
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