灰に堕ちるその日まで

こりゃりゃ

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静寂にしのぶ影

とある取り引き

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「こんばんは。少し話をしようか」

看護師はわずかに目を細めた。

「あら鴉さん。何しにきたのかしら?」

鴉は部屋にゆっくりと足を踏み入れ、背筋を伸ばしたまま、拘束された看護師の前で立ち止まる。

「不躾で申し訳ないけど、少しだけ話をさせてくれる?もちろん、無理強いはしない。」

彼は椅子の背後に回り、そっと彼女の手錠の位置を確かめた。

「痛くない?蓮はこういうのの、加減が難しいからさ。」

看護師は一瞬驚いたように目を見開き、ふっと笑った。

「あら、意外と優しいのね」

「はは、それは光栄だ」

「それにしても貴方、よくここがわかったわね」

「蓮の後を追っただけさ。あいつ、不器用だから足跡は残すんだよ」

鴉は彼女の横にしゃがみ、目線を合わせる。

「君に、ある提案をしに来た。」

その声音は穏やかでありながら、瞳は射抜くように真っ直ぐだった。

「君はここに潜り込んで、目的を遂行しようとしていた。けど、蓮に捕まってそれが止まっている。その先に進むには、選択が必要だ。」

鴉は小さなポーチを取り出し、机に置く。中には端末と、細工されたIDチップ。

「これは偽造パス。今夜、君がここを抜け出すための手段。でも、もし君が“裏切る勇気”を持てるなら――」

鴉は言葉を区切り、真剣な目で彼女を見つめた。

「俺たちと一緒に来い。“本当の敵”が誰なのか、一緒に見てみないか?」

看護師の表情が揺れる。

「どうして、そんな簡単に信用するの?」

「信用なんてしてないさ。ただ、“利用価値”はあると思った。それに――」

鴉はふっと微笑み、少しだけ身を乗り出す。

「君が心のどこかで“正しさ”に引っかかってるように見えた。」

看護師は目を伏せ、小さく息を吐く。

「ふふ……あの蓮って人、痛いくらい真っ直ぐすぎて。見てるだけで胸がざわつくのよ。」

「だろ? でも、あいつを支えるには“汚れ役”も必要だ。」

「それがあなた?」

「そう。だから、君にもその役を少し担ってもらいたい。」

沈黙。
やがて、看護師は机の上のパスをゆっくり手に取る。

「……いいわ、一度だけ貴方に乗ってあげる。でも、裏切られたら即座に引き返すわ。」

「歓迎するよ。」

鴉は手を差し出す。
看護師は一瞬戸惑った後、それを取った。

握手の温度が、わずかに信頼の種火を灯した。
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